『おちょやん』第16週「お母ちゃんて呼んでみ」

第77回〈3月23日(火)放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠 〉

朝ドラ『おちょやん』千代をお母ちゃんと呼ばない謎の寛治を考察 そして結婚していた小暮と百合子が怪しい
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「露営の歌」登場

新キャラクター・松島寛治(前田旺志郎)が登場し、なつかしいキャラクター・高城百合子(井川遥)小暮真治(若葉竜也)もやって来て、道頓堀がにぎやかになってきた。これからはじまるのは、いい話か不穏な話か気になるところ。

【前話レビュー】千代が30歳に 人生最大の障害・父テルヲが亡くなり、新たなターンへ

寛治との三人暮らしに、千代(杉咲花)はすっかり「お母ちゃん」気分。
寛治が気になって気になってしょうがない。「お母ちゃんと呼び」と迫る。だが彼は「お母ちゃんはもっときれいで優しい人がええ」とユーモアを交えながら反発する。

「絶対お母ちゃんと呼ばしたる」と食べ物攻勢に出る千代。音楽喫茶・福富でホットケーキをおごり、「うち優しいな、お母ちゃんみたいやな」としつこい千代に、寛治は「軍歌や〜」と話を逸らす。このときかかっているのは『エール』で注目された「露営の歌」だ。

『エール』では「軍歌」ではなく「戦時歌謡」とされていた「露営の歌」が『おちょやん』ではけろっと「軍歌」とされている。作った側は後になっていろいろ気にして理由づけするが、当時の一般人にとっては「軍歌」以外のなにものでもなかったのである。だから、お芝居でも、一平(成田凌)たちは愛国ものを迷いなく作って上演しているのだ。

大山社長(中村雁治郎)は、「客が求めて、国のためになり、会社も儲かると、一石三鳥」とご機嫌。だが、今後、戦況に変化が起きれば、一平たちの考えも変わっていくかもしれないので、展開を待ちたい。

謎の寛治を考察

千代は単純に寛治に保護欲をそそられて、やたらとかまうが、寛治は何かとはぐらかす。
ホットケーキと引き換えに「お母ちゃん」と呼ぶよう千代に強要されているとき、福助(井上拓哉)が息子の一福(西村竜道)に無理やりトランペットを習わそうとしているのを見た寛治は、父子の間に割って入る。
福助にトランペットを教えてほしいと言いつつ、大事な楽器を落としかける寛治。おひつからご飯も豪快にこぼすし、楽器は落とすし、粗忽者なのだろうか。いや、トランペットの件は無理強いされている姿が見ていられなかったからのようだ。帰りがけ、しょんぼりしたふうを装って、またしても千代に見破られる。

76回の「嘘泣き」からはじまって、一連の寛治の言動を考察すると、何かを隠しているのではないか。あるいは、無理強いさせられることがいやであるとも考えられる。

無理に言われると「好きなことかて嫌いになってまう」「大人はみんな勝手や」と言う寛治。だから千代が無理に「お母ちゃん」と呼ばそうとすると反発してしまうのだろう。

小暮と百合子が結婚していた

人参が苦手な寛治に、なんとか人参を食べさせようと、カレーにすりおろす作戦に出る千代。おいしいと食べたら「お母ちゃん」と呼ぶ約束で、一石二鳥だったが、そこへ現れたのは――
小暮と百合子。雪がちらほら舞う中やって来た。

小暮は、千代の初恋の相手。京都の撮影所で助監督をやっていたが、実家の病院を継ぐため東京に戻った。
その際、千代はプロポーズされたが、断っている。百合子は、千代が演劇に興味をもつきっかけをつくった女優。舞台女優から映画女優に転身し、京都撮影所で千代と再会するも、共演俳優と駆け落ちしてしまった。自由奔放な人。

朝ドラ『おちょやん』千代をお母ちゃんと呼ばない謎の寛治を考察 そして結婚していた小暮と百合子が怪しい
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』千代をお母ちゃんと呼ばない謎の寛治を考察 そして結婚していた小暮と百合子が怪しい
写真提供/NHK

なんとふたりは結婚していた。小暮はもともと高城百合子にあこがれていたので、結婚できたとは夢を叶えたということ。

百合子「私にとっては再会ではなく、それがはじまりだった」
小暮「まあつまり、僕のことをまったく覚えてなかった」

共演者との駆け落ちも一時的な気の迷いのようだし、小暮のこともどれくらい本気がいまいちわからない。でもそれが百合子。
彼女の勝手さに「この人あいかわらず気持ちええなあ」と千代が肯定的なので、いやな感じにならないが、見方によったら百合子は鼻持ちならない人である。井川遥のほわんとした空気が天然キャラに見えるのが救いになっている。

大阪から東京に行く列車が雪で止まったので、泊めてほしいと訪ねてきたふたりだが、その前に、大山社長のもとに特高の荒木(『エール』で音楽学校の演出家をやっていた千葉哲也)が人を探してやって来ていて、それと何か関係がありそうと想像できる。

気になる小道具

76回は、洗濯物が明るい効果を出していたが、77回は、サイコロ。一平が台本を書きながら、寝てしまっているとき、手でサイコロを弄んでいる。
酒と女とバクチ……? と想像する一方、台本を書いていて、サイコロをふって展開を考えていたりすることも考えられそうだ。

それにしても、一平。だらだらと台本を書いたり、寝癖つけてたり。なんだか頼り投げな描写が続く。礼儀正しく賢そうな小暮が出てくると、なんだか差が出る。だらっとしているのも魅力的だが、きりっと座長として活躍してほしい。ただ、小暮たちになにか事情があると察しているような雰囲気も漂わせていた。自身と父のこと以外は何かと察しはいい人ではある。

【関連記事】『おちょやん』75回 テルヲを最後まで良い人にさせなかった千代なりの優しさ
【関連記事】『おちょやん』74回 千代とテルヲの父娘問題 名作になるか、凡作となるか、明日が真価が問われる分かれ目
【関連記事】『おちょやん』73回 借金取りにボコられるテルヲ、千代の涙…金曜日にスカッとする結末があることを願う

■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■千葉哲也(特高・荒木役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


※次回78回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね

番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
編集部おすすめ