最終回『監察医 朝顔』ドラマは終わっても、朝顔たちはこれからも悲しみを分け合い生きていく、この世界で
最終回はFOD、TVerで期間限定無料配信中。画像は番組サイトより

※本文にはネタバレがあります

異例の半年放送『監察医 朝顔』最終回

月9『監察医 朝顔』第2シーズン(フジテレビ系 毎週月曜よる9時〜)。連ドラには珍しい半年間の放送がついに最終回(第19話)。刑事もの+医療(監察医)もの+ホームドラマと、人気要素を3つ揃えた最強コンテンツで人気を博し、第2シーズンが作られた。
それも異例の半年間である。その最終回は30分拡大で、13.3%(ビデオリサーチ調べ / 関東地区)の好成績で締めた。

第18話の終わり、捜査中の刑事・森本(森本慎太郎)がふいに刺される。犯人役はりんたろー。(EXIT)。最終回はそこからはじまって、重症を負った森本が手術。犯人は、2011年に起きた三田村一家殺人事件に関係している、あざのある人物なのか。その事件に関わっていた平(時任三郎)は捜査に協力を申し出る。

その頃、また事件が。子どもたちを守って亡くなった人の検死をする朝顔(上野樹里)たち。桑原(風間俊介)は人質をとって立てこもっている犯人を追う。その犯人は三田村一家殺人事件の犯人の特徴を真似た愉快犯だった。


朝顔「こんなことっておかしいと思う」
真也「朝顔を見ていて思うんだけど、災害で急に命を奪われるって、そんな理不尽なことないって。でもきっとこれからもそうやって命を落とされる方はいるんだろうなって」
朝顔「できることならみんな助かってほしいけど、そうだろうね」
真也「だから身勝手に人の命を奪う犯罪者がおれは許せない」

向き合って、洗濯物をたたみながら、語り合う朝顔と真也。これはこのドラマの趣旨。刑事、医療、家族、すべて、かげがえのない命と関係している。

物語の発端は、朝顔の母・里子(石田ひかり)が東日本大震災で行方不明になったこと。日々の生活を営みながらもずっと探し続けて、見つからないことで希望を失わずにきたが、遺骨が見つかった。それと同時に里子の父・浩之(柄本明)が息を引き取る(第17話)。

朝顔は第2子を宿している。そんな今、やっていなかった結婚式を行うことになった。式の日取りは3月11日。忘れようにも忘れることのできない、あの日と同じ日である。

ここまで45分ほど。

刑事もの、医療ものはここで一段落する。ここからは家族もののターンへ。

コロナの影響

結婚式の披露宴に、家族と職場の人たちが着飾って集まる。認知症を患う平がおずおずとしながらも感動のスピーチを行う。

「幸せです」と微笑む平。みんなもとびきりの笑顔。「今日たぶん、妻の命日なんです」とここから涙に転調していく。このドラマ、本当は昨年の夏・秋放送だったらしいが、コロナ禍で延期になって、結果的に震災から10年めの3月に最終回が放送されることになった。そのため、里子の遺骨の発見や、3月11日の結婚式がいっそうダイレクトに迫ってくることになった。

さまざまな想いを噛み締めた結婚式から時が経ち、朝顔の第2子が生まれ、今度は長女のつぐみ(加藤柚凪)の卒園式が行われる。出席している平に朝顔が話しかけると反応がない。でも「調子がいいみたい」と朝顔と桑原はほっとした顔をしている。平の認知症は進行しているようだ。


つぐみほか幼稚園児が歌うのは「マイ・ウェイ」。1969年に発表され、多くの人たちがカバーしてきた名曲である。いい歌なんだけど、感動曲なんだけど、<遠く旅して歩いた若い日を>と人生を振り返る歌を幼稚園児が歌うのは、いったいどういう選曲なのか。逆説的なことなんだとは頭では理解できるが、幼稚園児が歌うとなんだかこまっしゃくれて見えた。

それを「かわいいな」と微笑む平。「かわいいね」と返す朝顔。平のための歌なのだろう。あるいは亡くなった里子や、浩之の人生を肯定したい想いの現れなのだろう。だがしかし……。

朝顔は結ぶ。
「生きていると、悲しいこともつらいこともあるし、幸せなことばかりじゃないけど、それでも私達は生きてゆく、この世界で」

俳優たちの演技が素晴らしく

『朝顔』はシーズン1と2通して、里子が震災で行方不明からはじまって、桑原がしょっちゅう事故に巻き込まれて安否を気遣われ、平が認知症になり、浩之が入院し亡くなる、と心配事が山積みだった。連ドラの長さであれば、そのひとつを中心に描くことで手一杯のような気がするのだが、ずいぶん欲張っている印象を受けた。

しかも、主人公家族が刑事で監察医だから、毎回、何かしら死に関係する出来事が起こる。
そういう仕事なのだから仕方ないし、考えてみれば、誰もが常に、何かしら命に関係する心配事を経験している。朝顔の最後のセリフ「生きていると、悲しいこともつらいこともあるし、幸せなことばかりじゃないけど、それでも私達は生きてゆく、この世界で」の通りなのである。

第12話で、真也が朝顔に言ったセリフ「俺は朝顔と毎日笑って過ごすためだけに結婚したわけじゃないよ。あなたがつらい時とか、大変な時とか、そういう時にそばにいるために結婚したんだよ」は視聴者に大好評だった。たしかにとてもいいセリフである。俳優たちの演技は上等過ぎるほど上等だった。

『朝顔』の登場人物たちはこれからも、どれだけ悲しいことがあっても、美味しいごはんを作って食べて、家族や職場の仲間と助け合って、悲しみを分け合って生きていくだろう。それはその通りなんだけれど、どうにも口当たりよく保険商品を売ってるような印象が拭えなかった。

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番組情報

TBS系
『監察医 朝顔』
毎週月曜よる9時〜
※放送終了

出演:上野樹里 時任三郎 風間俊介
志田未来 中尾明慶 森本慎太郎(SixTONES) 藤原季節 斉藤陽一郎 坂ノ上茜 田川隼嗣 望月歩 辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜) 加藤柚凪
戸次重幸 平岩紙
ともさかりえ 三宅弘城 杉本哲太 板尾創路 山口智子 柄本明

原作:「監察医 朝顔」(実業之日本社)
脚本:根本ノンジ
音楽:得田真裕

プロデュース:金城綾香
演出:平野 眞 阿部雅和 三橋利行

製作著作:フジテレビ

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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