
※本文にはネタバレがあります
演出は『半沢直樹』の福澤克雄『ドラゴン桜』第1話
日曜劇場『ドラゴン桜』(TBS / 日曜よる9時〜)第1話の冒頭に、及川光博、江口のりこ、山崎銀之丞が出て来て、陰影の深い画面に大仰な音楽がかかると、まるで『半沢直樹』のスピンオフのようだった。そのうえ「3年後には経営破綻です」と高原(及川)が言うものだから、よけいに。演出も『半沢』の福澤克雄。【関連レビュー】『半沢直樹』最終回 正義を貫き未来を託された半沢の微笑みに、この国の希望を夢見たい

経営破綻間際の龍海学園を立て直すため、高原は、伝説の元暴走族の弁護士・桜木建二(阿部寛)の力を借りようと考える。ところが呼ばれてやって来たのは『ドラゴン桜』2005年版(以下2005年版)で高校生だった水野直美(長澤まさみ)だった。
『ドラゴン桜』は偏差値の低い高校の生徒たちを東大に受からせるため、元暴走族の弁護士が奮闘する漫画原作のドラマで、今から16年前、2005年に一度ドラマ化されて人気を博した。その時、東大を目指した生徒たちには山下智久、小池徹平、長澤まさみ、新垣結衣、紗栄子……と、その後、めきめき成長していった俳優たちが扮していた。
彼らはそれぞれピアスに茶髪、細眉のビジュアルで、今とはまるで印象が違う。長澤はそのなかでは唯一、茶髪でもピアスでも細眉でもなく、比較的清楚な雰囲気だった(さすが東宝シンデレラ?)。水野は、親が水商売をやっていて、高校を出たらその後を継ぐしかないと人生を諦めていたが、東大に合格し、桜木の下で働き、いまは独立して水野法律事務所を経営している設定だ。


当の桜木は実は消息不明。2年間も。その頃、本人は福井県で釣りをしていて、全然釣れずに「情報を仕入れないとね、人生と同じで」と釣り人に笑われる。2005年版では、受験には情報が大切と生徒たちに教えていたというのに。
釣り人と揉めて警察に連行されたところへ水野が迎えに来る。「このまま落ちぶれたままでいるつもりですか」と水野は必死に頼み込む。いったいなぜ桜木はこんなに転落人生になったのか。その謎を残しながら、桜木は龍海学園に赴く。

2021年版は時代に合わせて価値観をアップデート
「バカとブスほど東大へ行け」これは桜木の名言であった。それを水野は明るく生徒たちに言うが、桜木は「東大になんか絶対に行くな」と意外な発言。東大合格テクニックはあるから、それを身につければ幾人かは行けるだろう。「でも、おまえらにはその価値があるとは思えない」と手厳しい。この桜木の言葉はいちいち痛快だった。
今の時代、東大受験を勧める『ドラゴン桜』ははたして時代に合っているだろうかと疑問があったが、ドラマのほうも昔の価値観では作っていなかった。2005年版では、東大合格テクニック――例えば英語は減点法なので間違いさえしなければいいとか、みんなで知識を分け合うなど情報収集と戦略を立てることで勝てる方法を紹介し、その実践の積み重ねで生徒たちは合格した。

これを観ていて、こういうふうなやり方で合格した人って本当に頭が良いのだろうかと疑問に思った人も少なくないだろう。いや、一種の頭の良さではあるが、情報収集能力や要領の良さに限る。
東大生はとても偏った頭の良い人しかいないのではないか。その疑問は、社会でトップの座についている東大卒の人たちが必ずしもすばらしい仕事をしているかというとそうでもないことからわかる。東大卒と聞いたけれどなんかヘン……仕事ができるように見えないと思う人、いませんか。筆者はそういう人に何人か出会ってきた。もちろん、やっぱりスゴイと思う人もいるけれど。

例えば、東大卒の山口雅俊プロデューサーがとある取材でこんなことを言っていた。
「日本の高学歴の人たちは、与えられた問題に対して百点はとることができるけれど、自分で問題を探すことに長けていないので、それほどおもしろい仕事をしてるヤツっていないんですよ」
――Yahooにニュース個人「藤原竜也と香川照之を困らせた"悪魔のLINE" 「新しい王様」はこうしてできた」より
応用問題ができない。未知なるものへの耐性がない。高学歴の人に限らずそういう人が組織の上にいると残念このうえない。いまの日本はそういう残念な状況にあるような気がする。そんな庶民の疑問に『ドラゴン桜』2021年版は応えてくれるのではないだろうか。
阿部寛のターミネーター的迫力がアップ
2005年版の生徒たちは、見た目はちゃらっとしていたが中身はかわいいところがあった。ところが2021年版の生徒たちはもっとタチが悪い。何かとスマホで動画撮影して拡散する。水野も桜木も動画をもとに脅されるが、桜木は怯まない。バイクで執拗に生徒を追いかけ、撮影し返して対抗する。2005年版ではコミカルだった異形の俳優・阿部寛のターミネーター的迫力が2021年版ではずしりと重みをもって生かされた。
重みを増した桜木と相対する今回の生徒たちは、高橋海人(King & Prince)、南沙良、平手友梨奈、加藤清史郎、鈴木央士、志田彩良、細田佳央太とほぼ2000年代生まれの俳優ばかり(志田は99年生まれ)。『姉ちゃんの恋人』(カンテレ)でピュア過ぎる男子を演じていた高橋の意外な役どころであること。

同じく『姉ちゃんの恋人』の林遣都が水野の後輩で東大卒のIT実業家役で、やっぱり何かありそうなところにも注目。
2005年版は東大合格に向けて愚直にも邁進するお話だったが、2021年版は陰謀渦巻き波乱の予感。やっぱり『半沢直樹』的な騙し騙され大逆転、演技合戦が行われるのか刮目したい。
2年前、桜木が請け負った東大合格案件で8人中7人が合格したとき、たったひとり落ちた米山(佐野勇斗)という生徒が土砂降りの中、桜木の前で行ったこともかなりヘヴィーであった。

※第2話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
●第2話あらすじ
龍海学園に東大進学を目指す特別クラス・東大専科が設立された。
バドミントン部員の楓(平手友梨奈)は、大学推薦をかけた大事な大会を前に追い詰められていた。調子の上がらない原因は、コンビニでの万引きを桜木に見られたことだ。そんな楓に桜木は「お前に大会は無理だ」とだけ告げる。
一方、東大専科には、弟に劣等感を持つ天野(加藤清史郎)に続き、飽きっぽい自分を変えたいと思う菜緒(南沙良)もやって来る。水野(長澤まさみ)は2人の加入を喜び、さっそく学力テストを行うのだが……。
番組情報
TBS日曜劇場『ドラゴン桜』
毎週日曜よる9時〜
出演:阿部寛(プロフィール) 長澤まさみ(プロフィール) 高橋海人(King & Prince)(ニュース一覧) 南 沙良(プロフィール) 平手友梨奈(プロフィール) 加藤清史郎(プロフィール) 鈴鹿央士(プロフィール) 志田彩良(プロフィール) 細田佳央太(プロフィール) 西山 潤(プロフィール) 西垣 匠 吉田美月喜(プロフィール) 齋藤瑠希 内村 遥(プロフィール) 山田キヌヲ(プロフィール) ケン(水玉れっぷう隊)(ニュース) 鶴ヶ崎好昭 駿河太郎(プロフィール) 馬渕英里何(プロフィール) 大幡しえり(プロフィール) 深田竜生(少年忍者/ジャニーズJr.)(ニュース一覧) 林 遣都(プロフィール) 佐野勇斗(プロフィール) 早霧せいな(プロフィール) 山崎銀之丞(プロフィール) 木場勝己(プロフィール) 江口のりこ(プロフィール) 及川光博(プロフィール)
原作:三田紀房『ドラゴン桜2』(コルク)
脚本:オークラ 李 正美 小山正太
音楽:木村秀彬
プロデューサー:飯田和孝 黎 景怡
演出:福澤克雄 石井康晴 青山貴洋
制作著作:TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/dragonzakura/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami