『孤狼の血 LEVEL2』好青年のイメージ強い松坂桃李と鈴木亮平が容赦ない暴力の世界に身を投じる快作

騙し騙され、やったりやられたり『孤狼の血 LEVEL2』

広島の架空都市を舞台に警察と暴力組織の熾烈な関わりを描いた『孤狼の血』（2018年 / 白石和彌監督）の続編である『孤狼の血 LEVEL2』（白石和彌監督）の面白さは続編ながら前作をなぞることなく、まったく新たな世界観を作り上げているところにある。注目すべき新しい点はふたつある。順を追って解説しよう。

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『LEVEL2』は原作シリーズにはないオリジナルストーリー。前作の主人公で、呉原東署・マル暴のベテラン刑事・大上章吾（役所広司）が亡くなって3年後の平成3年、広島で再び警察と暴力組織の激しい追走劇が起きる。前作で大上の下で働いていた新人刑事・日岡秀一（松坂桃李）と暴力組織の一員で日岡と因縁浅からぬ上林成浩（鈴木亮平）、そして日岡にスパイとして雇われているチンタ（村上虹郎）を中心に、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、斎藤工、滝藤賢一、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、吉田鋼太郎……等々、演技派かつ曲者な俳優たちが入り乱れ、騙し騙され、やったりやられたり、飽きることのない2時間19分。


前作で広島の架空都市・呉原で暴力組織・尾谷組と広島仁正会の激しい抗争に巻き込まれ死んだ大上に代わって日岡が手打ちを裏で仕切り、表向き抗争を終結させた。あれから3年、日岡は当時の優等生キャラとは打って変わった雰囲気をまとって登場、大上の継承者として新たな事件に立ち向かう。

大上の残した狼が刻印されたライターを愛用し煙草をふかすようになった日岡が追うのはとある刑務所の刑務官、神原憲一（青柳翔）の妹・千晶（筧美和子）を残忍な方法で殺害した事件である。犯人・上林成浩は極めて凶悪な人物で、出所後、3年前の抗争で殺された五十子正平（石橋蓮司）の敵をとるべくその抗争を影で操っていた人物を探している。



その人物とは日岡である。日岡と上林、因縁の闘いが幕を開ける。やるかやられるかしかない宿敵・日岡と上林の間を繋ぐ役割を果たすのがチンタ。日岡に雇われ上林のスパイをしている。3人の関係が複雑に絡み合い悲劇へと転がっていく。

「全方位、敵。ここでは、闘うヤツしか生きられない。」というキャッチコピーのように、まさに闘いに次ぐ闘い。まるでホラー映画のような暴力描写の連続、報復の連鎖が止まらない（どの場面かはぼかすが、民間伝承ホラーテイストを感じたのは筆者だけだろうか）。前作はもう少し全体の流れに緩急があり、大上の清濁併せ持ちながら暴力組織と関わっていく姿に滋味があった。今回は浅はかなまでに登場人物が命を散らしていく。その最大の原因はメインキャラが若い＝青いことである。

日岡も上林もチンタも親を亡くした子どもなのである。日岡は先輩の大上を亡くし、上林は親代わりの五十子を亡くしている。




チンタは親に捨てられ、妹・真緒（西野七瀬）や弟と肩寄せ合って生きてきた。3人とも導いてくれる人不在のまま、誰にも頼ることができず、手探りで生きている。

暴力組織も警察も実際のことは知らないけれど、物語の世界では上下関係があってルールや精神や技術が継承されている。大義がある。それが『LEVEL2』の世界では分断されているのである。日岡にも上林にもチンタにも大義はない。それがこの作品特有のやりきれない物悲しさを作り出している。

大上亡き後、一匹狼として暴力組織とつながり危うい橋を渡っている日岡に年上の相棒ができる。県警の警部補・瀬島（中村梅雀）である。瀬島は日岡を家に呼び、妻・百合子（宮崎美子）の家庭料理でもてなす。


中村梅雀の存在感はテレビ朝日の人情刑事もののようである。『LEVEL2』はバイオレンスもの＋バディもの＋ホラー＋みんな大好きドンデン返し＋テレ朝の人情刑事もの……とジャンルミックス。それもかなり欲張りである。

女性の描き方に注目

警察も暴力団も生き馬の目を抜く場で騙し騙されひとときも気を許すことができない。そんな状況で彼らはいったいなんのために戦争しているのかもはやわからなく見える。でもそうすることで、暴力が仁義の名のもとにカッコいいものと思われていた昭和の映画からアップデートしたようにも感じる。



とりわけ注目したいのは女性の描き方だ。昔のこの手の映画だったら必ずあった女性性を強調するシーンがずいぶんと少なくなったように感じる。前作も『LEVEL2』も同じくR15＋だが、例えば前作のAmazonプライム配信では注意書きとしてある「飲酒」「肌の露出」「性的なコンテンツ」「喫煙」「暴力」が、『LEVEL2』では「肌の露出」「性的なコンテンツ」が控えめである。

その分、いろんなジャンル――バイオレンス、バディもの、騙し合いバトル、人情もの、ホラー……が組み合わさって別の楽しみを作ろうとしているような気がした。今回はカーアクションも奮闘している。


キャスティングにも工夫があるように感じる。松坂桃李と鈴木亮平である。社会派問題作『新聞記者』のエリート官僚役が印象的で、優等生やヘタレな役が似合う松坂、大河ドラマ『西郷どん』や日曜劇場『TOKYO MER～走る緊急救命室～』で頼もしい人物を演じさせたら抜群な安定感の鈴木。暴力的なものとは真逆な好青年のイメージがあるふたりが容赦ない暴力の世界に突入していく。




とりわけ松坂は前作では優秀な大学を出た真面目な日岡が似合っていたから、そのギャップは今回の魅力のひとつである。世間知らずの若者が社会の裏を目の当たりにしていく役割を的確に演じていた彼が今回は自ら清濁併せ持った生き方に身を投じる役割でなんともいえない諦念のような焦燥感のような雰囲気がいい。

鈴木は柔和そうな表情が一転して残虐に変わる意外性の怖さを鮮やかに演じ、王者の風格がある（耳がとんがっているところもポイント）。普段は知性的で穏やかそうな彼らが、額の薄い皮膚から何本もの血管を立体化させ、目を剥き凄みをきかせる。じつに迫力があり、方々で怖いと称賛されている。



ただ、どれだけ血管を浮かして熱演しても、彼らの皮膚のもっと奥底にはどこかやっぱり脳みそ筋肉の暴徒になりきれないものがあるように感じるのである。それが映画の間口を広げることに寄与すると同時に、『孤狼の血 LEVEL2』の世界――新世代感そのものなのであろう。

広島を舞台にしたバイオレンス映画の金字塔『仁義なき戦い』のオマージュであり、物語に独特の緊張感とわかりやすさをもたらすナレーション（二又一成）は前作から踏襲されていている。
（木俣冬）

作品情報

『孤狼の血 LEVEL2』
大ヒット上映中

出演：松坂桃李　鈴木亮平　村上虹郎　西野七瀬 音尾琢真　早乙女太一　渋川清彦　毎熊克哉　筧 美和子　青柳翔 斎藤 工・中村梅雀・滝藤賢一　矢島健一　三宅弘城　宮崎美子 寺島 進　宇梶剛士　かたせ梨乃　中村獅童　吉田鋼太郎
監督：白石和彌
原作：柚月裕子「孤狼の血」シリーズ（角川文庫 / KADOKAWA）
脚本：池上純哉
音楽：安川午朗

配給：東映

公式サイト：https://www.korou.jp/

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会