朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第1週「1925-1939」

第4回〈11月4日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4回 安子(上白石萌音)の“ささやかな甘い夢”の芽生え描いた15分
写真提供/NHK
※本文にネタバレを含みます

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自転車レッスンと喫茶店にキュンとなる

安子(上白石萌音)の“ささやかな甘い夢”の芽生えを描く15分。ほぼ、安子と雉真稔(松村北斗)の場面だった。ほか、雉真家の父・千吉(段田安則)と母・美都里(YOU)、喫茶店のマスター柳沢定一(世良公則)、息子・健一(前野朋哉)などが登場してにぎやかになってきた。


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冒頭「EPISODE 004 連続テレビ小説」は丸い目覚まし時計の横に。安子は早起きして朝の英語講座をラジオで聞くようになった。

「もう14じゃ。急になにかに熱中することもあろうえ」と祖母・ひさ(鷲尾真知子)は理解を示す。生まれ育って14年。これまでは家族とお菓子さえあれば満たされていた安子に訪れた変化。それはオープニングにかかる主題歌「アルデバラン」のイントロのように静かにゆったりとしたものだが、英語を聞き取ろうと耳をそばだてる安子のまなざしは真剣そのもので、おっとり生きてきたこれまでの安子とはどこか違って見える。

穏やかに穏やかに、安子の恋が芽生え育っていく。この優しさや穏やかさを形作るのは脚本の安定感である。母・小しず(西田尚美)に配達を頼まれて最初は渋る安子だったが、配達先が雉真宅と聞いて俄然、行く気になる。母が配達を頼んで安子が雉真家だから行くという単純な流れを、ラジオから流れる浪曲に夢中で聞いていないふりをするひさ、浪曲に合わせて行き先を聞く祖父・杵太郎(大和田伸也)によって連携していく。

その時、安子は着ている服に縫い物を縫い込んでしまっていて大慌て。
「ほのぼの」という言葉が浮かんできそうな場面。すべてが丸みを帯びてやさしい。とんがったところが今のところひとっつもない。

いつの間にか「安子ちゃん」

残念ながら配達を受け取るのは雉真稔(松村北斗)ではなかった。英語の本を探しに本屋をのぞくと、稔がいた。そこで聞き取れなかった英語(キュウリ)はcurio キュウリオ「骨董品」であることを教わる。ここまでのほのぼの展開はまさに「骨董品」的である。「骨董」は古くて不要なわけではない。歴史ある良いものということである。『カムカム』の序盤は100年前の良いものを振り返る試みなのではないだろうか。

そこから安子は自転車の乗り方を稔に教えてもらうことになる。稔はいつの間にか「安子ちゃん」と呼んでいる。お城が見える川べり(旭川)での自転車レッスン。
まっすぐ乗れずに左右にぐらつく安子。

そのあと初めての喫茶店。ソーダ水ではなく、背伸びしてコーヒーを飲む安子。稔は音楽が好きだが雉真繊維の跡取りとしての義務を負っていて、外国との取引をするために英語を学んでいることを知る。少しずつ稔のことを知っていく安子。

コーヒーにお砂糖を入れるにあたって英語でやりとりするふたり。たどたどしいながらも徐々に英語を身につけている安子。彼女の自転車、そして英語へのたどたどしさと、稔との関わりのたどたどしさが重なっている。こうして少しずつ整っていく安子の新しい世界。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第4回 安子(上白石萌音)の“ささやかな甘い夢”の芽生え描いた15分
写真提供/NHK

この情景を盛り上げるのは劇伴ではなく、喫茶店――レコード・コーヒーとあるから音楽喫茶の「ディッパーマウスブルース」でかかるレコードから流れるメロディ。コーヒーカップに砂糖を入れてくるくる回し、レコードがくるくる回る。どこかを強調するようなあざとい演出も不自然な説明セリフも無理やりな展開もなく、自然な流れで登場人物の感情がゆるやかに動いていく。


英語を音楽のような調べと感じた安子は本物の英語の音楽を聴くことになる。ルイ・アームストロングの「サニーサイド・オブ・ストリート」を「ひなたの道を」と訳す稔。

上白石萌音はおっとりした娘を演じているが、階段を駆け下りるときの風のような素早さ。英語を聴くぎらりとした眼差し。自転車を真剣に漕ぐときの表情の勇ましさ……等々の瞬間で才気煥発なところをのぞかせて、アクセントをつける。ただただのんびりしていたら15分が退屈だが、こういうところが上白石の才能だと感じる。松村北斗のきりっとした雰囲気ものんびり恋物語に一本、筋を通している。砂糖をカップに入れて回す所作が端正だった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪



番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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