アイドルは時代の鏡、その時代にもっとも愛されたものが頂点に立ち、頂点に立った者もまた、時代の大きなうねりに翻弄されながら物語を紡いでいく。
に関するニュース">モーニング娘。の歴史を日本の歴史と重ね合わせながら振り返る。『月刊エンタメ』の人気連載を出張公開。21回目は2016年のお話。
2016年8月に報じられた一連のニュースを思い返すとき。実際の内容よりも自分がそのとき、何をしていたかをつい語りたくなってしまうのは、それらの存在が日々の生活に深く根を下ろしていた、柔らかくも確かな証なのだろう。

2016年8月8日、天皇陛下が生前退位の意向を自ら発表。

2016年8月14日、平成の国民的アイドルグループ・SMAPが年内での解散を発表。

自分自身の体験を語れば、天皇陛下の「おことば」はよく晴れた昼下がりに自宅のテレビで、そしてSMAP解散のニュースは夜もだいぶ深まった自室のパソコンで、かなりの衝撃とともにそれぞれ受け止めたのを覚えている。

しかしその衝撃と同じくらい強く記憶に刻まれているのは、永遠に感じていたものが終わろうとしている中でも、翌朝に昇る太陽はそれまでの昨日と変わらずに、いつも眩しくあり続けていたという事実だ。

時代はどれだけの感懐を私たちに刻み付けようともけして永遠ではなく、止まらぬ時間の中では、あくまでも通過点に過ぎない。昭和最後の日々を記憶していない世代の私は、そこにある儚さを、あの2016年に生まれて初めて実感していたように思う。


そんなことを頭に浮かべていると、『泡沫サタデーナイト!』という楽曲タイトルに感じた胸の高鳴りと切なさも、今になって再び色鮮やかに蘇ってくる。

『泡沫サタデーナイト!』はやはり2016年、当時のモーニング娘。’16がリリースした通算61枚目のシングルであり、そして同時に9期メンバーとして約5年間活動した鈴木香音の卒業ソングにもなっている。

「最後の最後まで笑顔全開、みんな今までありがとう!」(鈴木香音)

EDMサウンドとメンバーカラーの衣装が鮮烈だったYouTubeのミュージックビデオを起点として、再ブレイクの狼煙を上げた『One・Two・Three』の発表から4年。その間にモーニング娘。のCD売上とメディア露出数はどんどん増えていき、グループの快進撃を称えるように、ファンの間では黄金期やプラチナ期に続いて(2012年に発売されたアルバム『(13)カラフルキャラクター』のタイトルから)「カラフル期」という愛称も誕生していた。

しかし、時代はどれだけの輝きを放っていようと、やはりどこかで終わりがやってくる。そんな実相を2016年のモーニング娘。に教えたものこそ、“笑顔のぽっちゃり娘。”としてテレビやネットニュースといった外部メディアで奮闘し続けていた鈴木香音の、あまりにも明るい卒業ソングと、その中で描かれた彼女の珠玉の笑顔であったように思う。

「(「泡沫サタデーナイト!」にあるものは)楽しい時間がパッと弾けちゃうっていう、泡沫の寂しさ」(鈴木香音)(※1)

そしてカラフル期のバラエティ担当の旅立ちが浮き彫りにしたものこそ、ついに現役のモーニング娘。から、グループの顔になれるメンバーが再びいなくなってしまうという現実だった。


事実、モーニング娘。のコメントを辿ってみても、道重さゆみ鞘師里保の卒業時までは再ブレイクの自信や明るさを保ち続けていたメンバーたちの言葉が、2016年の鈴木香音卒業を境に明らかな変化を見せ始めている。

「鈴木さんが卒業されたら、キャラクター的に世間の方に知っていただくような人がいなくなる」(工藤遥)(※1)

「『次のセンターは誰?』ってよく聞かれる」(佐藤優樹)(※2)

「『センターは私に任せろ!』って言いたくても言えない自分がもどかしい。一歩止まっちゃう自分がいるんですよ」(石田亜佑美)(※2)

しかも、前時代の成功を知っている9~11期の先輩たちが、内に焦りの感情を築いていくその最中。これからの新生モーニング娘。を創っていくはずの12期(尾形春水野中美希牧野真莉愛羽賀朱音)、や13期(加賀楓横山玲奈)の若手にも、実は彼女たちなりの、新たな悩みが生まれはじめていた。

これは当時の年少メンバーがモーニング娘。のアイデンティティともいえる「歴史」について尋ねられたときの、素直で切実な返答である。

「(モーニング娘。の)最初の10年位はリアルタイムで知らない」「それが悔しい」(羽賀朱音)(※3)

「もうちょっと早く生まれて、生で(先輩たちの)パフォーマンスを見たかった」(牧野真莉愛)(※3)

この2016年に加入2周年を迎えていた12期、そして新たにお披露目された13期はいずれも、モーニング娘。がメジャーデビューした後に生まれたメンバーだけで構成されている。

安倍なつみ後藤真希が大活躍した黄金期は当然、彼女たちが物心つく前の出来事である。
また高橋愛が牽引するプラチナ期が始まったときも、12期最年少の羽賀朱音はまだ5歳という幼さだ。

さらに彼女たちが義務教育へと進み、モーニング娘。のリーダーが道重さゆみに変わった頃も、世間一般的にはAKB48ブームの真っ只中である。家族やクラスメートが既存ファンじゃない限り、普通の小中学生の関心とモーニング娘。が結びつくまでには、それこそ後の再ブレイクまで、時間の針が進むのをじっくり待たなければならなかったのだ。

そして黄金期もプラチナ期も知らない少女たちが、縁あってモーニング娘。オーディションの合格通知をついに受け取った頃。喜びの先に待っていたのは映像でしか観られないグループの歴史と、もう想像でしか感じ取ることのできないグループが歩んできた時代の重みであった。

「私たちは新人だけど、20年の歴史に見合った姿やパフォーマンスをお見せしなくてはいけない。その部分でのプレッシャーは強いです」(加賀楓)(※2)

「あまりにも偉大だから歴史は崩したくない思いと、それを支えられる自分かどうかということ、(中略)いろんな思いで心配しかない」(横山玲奈)(※3)

しかし歴史を知らずとも、時代の道標を失っても、夜空の向こうに次の朝は必ず訪れていく。2016年12月時点のモーニング娘。は計13人。
年が明ければ卒業生27人分の思いとともに、グループにとって結成20周年の記念イヤーが始まる。

※1『「ハロプロ スッペシャ~ル」~ハロー!プロジェクト×CDジャーナルの全インタビューを集めちゃいました!~』(音楽出版社)
※2『Top Yell+ ハロプロ総集編 Hello!Project 2011~2018』(竹書房)
※3『アップトゥボーイ』2017年10月号(ワニブックス)