【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#4
ちょうど10年前の2016年。春ドラマの一本として放送されたのが、黒木華の連ドラ初主演作「重版出来!」(TBS系)だ。
増刷になれば、いわばお札を印刷するようなもので、出版社が儲けるのはそこからだといわれている。また重版出来は多くの読者を獲得した証しであり、著者や版元の達成感も大きい。
主人公はコミック誌の新米編集者・黒沢心(黒木)。柔道の日本代表候補だったというバリバリの体育会系女子だ。元気と明るさ、相手との絶妙な間合いのとり方や勝負勘も武器になっている。たとえば大御所漫画家の引退危機を持ち前の観察眼で救ったりした。
この頃、働く女性を主人公にした作品は、一般的に“お仕事ドラマ”と呼ばれていた。始まりは1990年代の後半だ。医療現場をコミカルに描き、ヒロイン成長ドラマの原型ともいえる「ナースのお仕事」(フジテレビ系、96年)。OLの働き方を痛快に描き、女性の職場ドラマの象徴ともなった「ショムニ」(同、98年)などが人気を得た。
とはいえ、これらのドラマでは仕事が一種の「背景」となっていた。職場は「騒動が起きる場所」であり、「仕事の専門性」が深く描かれたとはいえない。主軸はキャラクターの掛け合い・人間関係・コメディーなどで、職能(スキル)よりも個性の衝突がドラマを動かす傾向があった。
一方、その20年後の「重版出来!」では、職場は物語の主題となり、仕事そのものがドラマ的葛藤の源泉となっていく。主人公の職能や判断が物語を動かし、業界の仕組みや現場のリアリティーも重視されていた。原作は松田奈緒子の同名漫画。脚本は野木亜紀子だ。
当時、すでに出版不況といわれて久しかった。コミックというジャンルにも創造とビジネスのバランスなど課題は山積していた。だが、心には妙な屈折や功名心などがない。面白い漫画を世に出したいという編集者としての純粋な思いだけだ。それがこのドラマを爽やかなものにしていた。
黒木にとっては、映画「小さいおうち」や大河ドラマ「真田丸」などで演じてきた、“和風でおっとり”なキャラクターとは異なるヒロインだ。しかし、コメディエンヌとしての才能も発揮して、生き生きと演じていた。
また脇を固める編集部の面々も芸達者ばかりだった。編集長は松重豊、指導係の先輩がオダギリジョー、編集部員として安田顕や荒川良々がいた。そして社長は高田純次だ。
これらクセ者俳優たちが繰り出す芝居の波状攻撃を一人で受けて立ち、そしてきっちりと打ち返していく黒木。漫画家の世界やコミック誌の現場をのぞかせてくれる“お仕事ドラマ”の進化形として、また20代女性の
“成長物語”として出色の一本となった。
(碓井広義/メディア文化評論家)

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