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現在、東南アジアのLCC業界を揺るがしているのは、もはや従来の経営戦略では太刀打ち不可能なレベルのコスト増だ。マレーシアを拠点とする格安航空大手エアアジアのグループ会社、エアアジアXは、運賃の最大40%引き上げを余儀なくされ、燃油サーチャージも約20%上乗せする事態に追い込まれた。同社の最高経営責任者(CEO)によれば、2025年には1バレル当たり約90ドルだった航空燃料の平均価格が、一時的に約200ドルまで跳ね上がったという。エアアジアはこれまで「低価格」こそが最大の競争力であり、他に類を見ない徹底したコスト削減で成長を遂げてきた。しかし、燃料費という固定費が倍増する局面では、そのビジネスモデルそのものが脆弱性を露呈している。価格優位性を失った同社にとって、ブランド力の維持は極めて厳しく、路線の縮小や減便という防衛策を講じざるを得ない状況だ。
一方で、フィリピンの空を支えるセブ・パシフィック航空も苦境に立たされている。同社は、急騰する燃料価格に対応するため、2026年4月から10月にかけて大規模な運休や減便に踏み切った。特に影響が大きいのは地方都市を結ぶ国際線で、ダバオやイロイロからバンコクを結ぶ路線などが一時停止に追い込まれた。フィリピンのような島嶼国にとって、航空便はバスや鉄道に代わる重要なインフラだが、運賃の高騰は庶民の生活を直撃している。
この混乱の背景には、2026年序盤に発生したホルムズ海峡を巡る地政学リスクがある。供給不安から原油価格は高騰し、航空各社の経営を圧迫した。ここで注視すべきは、仮に今後、原油先物の指標価格が若干の下落を見せたとしても、ジェット燃料の安定供給には程遠いという構造的なジレンマだ。航空燃料は原油を精製して作られるが、世界的に製油所の精製能力が限界に達しており、需要に対して供給が追いつかない状態が続いている。特にパンデミック以降の製油施設の閉鎖や、環境規制に伴う化石燃料への投資抑制が、精製能力の不足に拍車をかけている。原油価格と精製製品価格の差を示す「クラックスプレッド」は歴史的な高水準を維持しており、原油が安くなっても飛行機を飛ばすための燃料代は下がらないという「燃料高の固定化」が定着しつつある。
加えて、供給網の末端における人手不足も深刻だ。東南アジア各国の空港では、燃料を運ぶタンクローリーの運転手や給油作業員が不足しており、ロジスティクスの目詰まりが各地で発生している。「燃料はあるのに機体に給油できない」といった事態が現実のものとなり、これが燃料価格のさらなるプレミアムとなって航空会社のコストを押し上げている。
利用者の反応は冷ややかだ。ベトナムでは最大手LCCのベトジェットエアが、観光需要の低迷とコスト増から、全体の約60%に及ぶ減便の可能性を示唆している。かつては数百円、数千円という「プロモーション運賃」で旅行を楽しんでいた若年層や中間所得層は、航空券の高騰を受けて一気にレジャーを控えるか、あるいは陸路や海路への回帰を始めている。タイやインドネシアでも同様の傾向が見られ、一部では長距離バスやフェリーの利用者が急増するなど、交通手段の「先祖返り」とも言える現象が起きている。空の旅が再び一部の富裕層やビジネス客だけのものとなり、大衆の手から離れていく懸念は現実味を帯びている。
さらに、今後の航空業界には「脱炭素化」という新たなコスト負担が待ち構えている。2026年以降、持続可能な航空燃料(SAF)の混合比率を高める規制が段階的に強化される予定だ。SAFの価格は従来のジェット燃料の数倍に達しており、このコストもいずれ運賃に反映されざるを得ない。燃料高騰と環境対策費用の二重苦は、利幅の薄いLCCにとって存亡の危機に直結する。
東南アジアのLCC市場は、まさに淘汰の時代に入ったと言えるだろう。安さだけを追求し、燃料価格の変動耐性を持たなかった企業は市場からの退出を迫られる。
【編集:af】








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