惑星の周囲を、重力にとらえられて公転している衛星。木星と土星は同じガス惑星だから衛星も似たようなものだろうと思うかもしれないが、実は違いがある。
大型衛星の数や配置がまったく異なっているのだ。その理由は、惑星が誕生した直後の地表の磁場の強さにあったことが、京都大学などの研究チームがコンピューターシミュレーションで明らかにした。
磁場の違いが衛星の運命を分けていたという、太陽系の成り立ちに新たな視点をもたらす発見だ。
この研究成果は『Nature Astronomy[https://www.nature.com/articles/s41550-026-02820-x]』誌(2026年4月2日付)に掲載された。
木星と土星、衛星系の大きな違い
太陽系最大の惑星である木星と土星はたくさんの衛星を持っている。観測技術の進化により、その数は年を追うごとに増えているのが実情だ。
木星の衛星は、2025年時点で97個が発見されていたが、2026年4月11日時点の観測結果によると、合計115個報告されている。
その中でもイオ(直径3,643 km)、エウロパ(約3,100km~3,160km)、ガニメデ(直径5,268 km)、カリスト(直径4,821 km)の4つは「ガリレオ衛星」と呼ばれ、格段に質量が大きく、木星のすぐ近くを回っている。ガニメデは太陽系最大の衛星で、惑星である水星よりも大きい。
さらに土星の衛星はそれよりも多く、国立天文台の2026年4月10日のデータによると290個以上[https://www.nao.ac.jp/new-info/satellite.html]だ。
その全衛星の質量の95%を、たった1つの巨大衛星タイタン(直径5,150 km)が占めているというのも興味深い。
ちなみに月の直径は3,474 kmでそれと比較するとわかりやすいだろう。
タイタンは太陽系でガメニデに次いで2番目に大きな衛星で、濃い大気を持ち、地表にメタンの湖が存在することが確認されている珍しい天体だ。
そしてタイタンは木星のガリレオ衛星グループと違い、土星から大きく離れた軌道を回っている。
同じガス惑星でありながら、なぜ一方は複数の大型衛星を近くに従え、もう一方は大量の小さな衛星をもちながら、1つの巨大衛星が遠くを孤独に回る。
なぜ同じガス惑星なのに、伴う巨大衛星に違いがあるのかは長年の謎だった。
衛星はガスでできた周惑星円盤の中で生まれる
巨大衛星がどのように生まれるかを理解するには、惑星誕生の歴史を振り返る必要がある。
ガス惑星が形成されるとき、その周囲にはガスや塵、微惑星、小惑星や衝突破片からなる「周惑星円盤(しゅうわくせいえんばん)」と呼ばれる巨大な円盤が生まれる。
衛星はこの円盤の中で材料を集めながら成長し、やがて惑星の周りを回る天体へと育つ。
衛星の特性はこの円盤の構造によって大きく左右される。
そして円盤の構造は、惑星の密度・温度・質量といった性質によって決まる。
衛星の磁場の強さが衛星の構造に影響
惑星の磁場もその構造を左右する重要な要素の一つだ。しかし従来の衛星形成モデルでは、この磁場の影響が十分に考慮されてこなかった。
京都大学の藤井悠里助教らの研究チームは、まさにこの点に注目した。
「惑星形成理論を検証するのは難しい面がありますが、詳細な特徴を観測できる衛星系が身近に複数あります」と藤井助教は述べている。
同チームは日本と中国の研究者と協力し、木星と土星の両方の衛星系を同じ物理法則で説明できるモデルの構築に取り組んだ。
研究チームはまず、木星と土星が誕生したばかりの頃の内部構造を数値シミュレーションで再現し、それぞれの磁場強度がどのように変化するかを追跡した。
惑星表面は木星のほうが100倍強力な磁場を持っていた
すると興味深い結果が浮かび上がった。惑星の内部では木星と土星の磁場強度に数倍程度の差しかないにもかかわらず、惑星の表面では木星のほうが土星より約100倍も強い磁場を持つことが明らかになったのだ。
次にチームは、国立天文台が運用する計算サーバーを用いて、この磁場の違いが周惑星円盤の構造と衛星の形成にどう影響するかをシミュレーションした。
さらに、衛星がどのように形成・移動するかを計算するN体シミュレーション(多数の天体間に働く重力を計算する手法)も組み合わせた。
その結果、木星と土星の衛星系の違いを生んだメカニズムが初めて明らかになった。
ガスの存在しない隙間が衛星を守っていた
磁場の強い木星では、磁力線に沿ってガスが惑星へ流れ込む「磁気圏降着」という現象が起きていた。
この現象によって惑星のすぐ近くのガスが吹き払われ、ガスがほとんど存在しないドーナツ状のすきま「空隙(くうげき)」が円盤の内側に形成された。
円盤の中で成長した衛星は、重力の影響を受けながら徐々に木星へと近づいていく。
しかしこの空隙の手前でせき止められ、それ以上内側へ落ちることができなくなる。
こうして複数の大型衛星が円盤の内縁付近で安定した軌道を保つようになった。
イオ、エウロパ、ガニメデが木星の近くに並んでいるのは、この空隙が「防波堤」の役割を果たしたためだ。
一方、磁場の弱い土星では磁気圏降着が起きず、空隙も形成されなかった。
土星の近くで生まれた衛星は、せき止めてくれるものが何もないため、そのまま土星へと落下し続けた。
結果的に生き残ったの大型衛星は、土星から十分に遠い場所で成長できたタイタンだけだった。
惑星誕生時のわずかな磁場の差が、その後何十億年にもわたる衛星系の姿を決定づけていたのだ。
この研究は、ガス惑星の内部構造と周惑星円盤に働く物理メカニズムを整合的に組み込んだシミュレーションを初めて実現したものであり、木星と土星の衛星系の違いを理論的に説明することに成功した。
研究チームは今後、太陽系外の惑星を周回する「系外衛星」の探査にもこのモデルを応用していく計画だ。
木星サイズ以上の惑星では複数の大型衛星が、土星サイズの惑星では衛星が1つか2つにとどまる可能性があるという予測は、将来の宇宙探査の道標になるかもしれない。
References: 木星と土星の衛星系の違いを決めるのは磁場[https://www.nao.ac.jp/news/science/2026/20260408-cfca.html] / Kyoto-u.ac.jp[https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-04-10-2] / Scientists May Have Found the Key to Jupiter and Saturn’s Moon Mystery[https://scitechdaily.com/scientists-may-have-found-the-key-to-jupiter-and-saturns-moon-mystery/]











