1977年に地球を旅立ち、幾多の試練を乗り越えながら今も星間空間をひとりで旅するNASAの宇宙探査機ボイジャー1号に、また新たな延命措置が施された。
深刻な電力不足に対応するため、2026年4月、NASAのジェット推進研究所(JPL)は約49年間稼働し続けてきた科学観測機器の停止を決断したのだ。
できる限り長く生きていてほしい。そのための苦渋の決断だった。
地球から最も遠い場所にいる探査機、ボイジャー1号
1977年9月5日、NASAのケネディ宇宙センターから打ち上げられたボイジャー1号は、木星と土星の探査を終えたあとも宇宙の旅を続け、2012年についに太陽圏を脱出した。
現在は星間空間と呼ばれる、太陽系と他の恒星との間に広がる未踏の宇宙空間を飛行中だ。
2026年4月現在、地球からの距離は約254億kmに達し、人類が作った物体の中で最も遠くにある。
2026年11月には、光の速さで丸24時間かかる距離となる「1光日」という歴史的な節目に到達する見込みだ。
ちなみに、ボイジャー2号も同じく星間空間を飛行中だが、約210億kmの地点を飛んでおり、2番目に遠い。
ボイジャー1号と2号の動力源は原子力電池(RTG)だ。
プルトニウムの崩壊熱を電気に変換するこの装置のおかげで、太陽光の届かない深宇宙でも半世紀近く動き続けてきた。
当初の運用予定はわずか5年だったにもかかわらず、49年が経過した今でも、宇宙からデータを送り届けてくれていること自体、すでに奇跡に近い。
ついに電力の危機、そして苦渋の決断
ボイジャー1号の原子力電池は年間4ワットずつ出力が低下しており、半世紀近い旅を経た今、電力はすでに限界ギリギリの状態にある。
さらに2026年2月27日、定期的な姿勢制御のための回転動作中に電力レベルが予想外に急落するという事態が起きた。
エンジニアたちが恐れたのは、電力がさらに低下した際に作動する自動防護システムだ。
探査機が電力不足を検知すると、機器を守るために自動でシャットダウンに入る仕組みになっている。
ボイジャー1号は現在、地球からの通信が片道23時間かかるほど遠くにいる。電力不足でシャットダウンとなった場合、復旧のためのコマンド送受信だけで往復約2日かかるうえ、手順を誤れば探査機を永遠に失うリスクもある。
チームは先手を打つ必要があった。
そこでNASAのジェット推進研究所(JPL)は、科学観測機器の1つ、「粒子観測装置LECP(Low-energy Charged Particles experiment)」を停止させる決断を下した。
LECPを停止させるということは、ボイジャー1号がその機器で観測していたデータが二度と得られなくなることを意味する。
星間空間のデータを送れる探査機はボイジャー1号と2号だけであり、一度失われたデータは永遠に戻らない。
研究者たちにとって簡単に受け入れられる決断ではなかった。
それでも、探査機そのものを失うよりはいい。
ボイジャー・ミッションマネージャーのカリーム・バダルディン氏は「心苦しい決断だったが、今できることの中で、これ以外に選択肢はなかった」と語った。
49年間、宇宙の声を聞き続けた機器
2026年4月17日、チームが停止を決めたLECPは、1977年の打ち上げ以来、約49年にわたりほぼ途切れなく稼働してきた科学観測機器だ。
太陽系の外や銀河から飛んでくるイオン・電子・宇宙線などの低エネルギー荷電粒子を測定し続けた。
太陽圏の外側に広がる星間空間の構造を解明するうえで、欠かせないデータを送り続けてくれた観測機器だ。
LECPは停止されたものの、センサーを全方位に回転させる小型モーターだけはわずか0.5ワットの電力で動かし続けている。
将来的に余剰電力が生まれた際、LECPを再び起動できる可能性を残すためだ。
昨年2025年には、約20年間使用不能とされていたスラスター(推進器)の復活に成功している。
あきらめたらそこで試合終了。最後まであきらめないのが、ボイジャーを支援するチームのやり方なのだ。
ボイジャー1号が当初搭載していた10種類の機器のうち、現在も稼働しているのはプラズマ波を観測する装置と磁場を測定する装置の2つだけとなった。
それでもこの2機器は今この瞬間も、人類が製造した他のどんな機械も到達したことのない宇宙空間からデータを送り続けている。
もっと生き続けてほしい。ボイジャーの旅を全力支援
LECPの停止で稼いだ時間を使い、チームはさらに大胆な省電力計画を準備している。
その名も「ビッグバン」プロジェクトだ。
これは、複数の電力消費装置を一括で低電力の代替品に交換するというもので、探査機が科学データを収集し続けるのに十分な温度を保つことが目的だ。
計画はまず、ボイジャー1号より電力に余裕があり地球にも近いボイジャー2号で先に試される。
テストは2026年5月と6月に予定されており、成功すれば早くとも同年7月以降にボイジャー1号でも実施される。うまくいけば、停止したLECPが再び目を覚ます可能性もある。
1977年の打ち上げ当初、ボイジャー1号の運用予定はわずか5年だった。
それから約49年。誰よりも長く宇宙の声を聞き続け、データを地球に届け続ける探査機の機体には、地球外知的生命体へのメッセージとして、地球上の音楽や自然の音、55言語の挨拶などを収録した「ゴールデンレコード」が搭載されている。
たとえすべての機器が力尽きた後も、ボイジャー1号の旅は終わらない。宇宙のどこかで誰かに出会う日まで、飛び続けていくのだ。
References: NASA Shuts Off Instrument on Voyager 1 to Keep Spacecraft Operating[https://science.nasa.gov/blogs/voyager/2026/04/17/nasa-shuts-off-instrument-on-voyager-1-to-keep-spacecraft-operating/]











