早期の金融教育が盛んな昨今。今回は『中学生から身につけておきたい賢く生きるための金融リテラシー』を題材に、本書を手掛けたジャムハウスの代表取締役社長・池田利夫さん、執筆者の宮下由多加さんをゲストに迎えた。
キャッシュレス世代は暗号資産と親和性が高い!?
乙武 お二人が手掛けた『中学生から身につけておきたい賢く生きるための金融リテラシー』ですが、「お金とは何か?」という基本的なところだけでなく、暗号資産やブロックチェーンなどまで踏み込んで解説されている点がとても印象的でした。
小学生から中学生にターゲティングするにあたり、このあたりのレベル設定については、どのような話し合いがあったのでしょうか。
宮下 いまの子どもたちは、インターネットで暗号資産についても言葉くらいは目にしたことがあるでしょうから、あまり小難しくならない範囲で触れておこうか、といった程度で考えていました。
池田 ブロックチェーンにしてもビットコインにしても、ネットで目にした単語がむしろフックになって興味を持ってくれるのではないかという期待もありましたしね。
乙武 言われてみれば、私たちの世代は「通貨はもともと石だった」というところから、それが硬貨や紙幣になったという前提があるから、暗号資産と言われると違和感があるのかもしれません。
その点、いまの子どもたちは最初からキャッシュレスに慣れていることもあるでしょうから、むしろ石や硬貨よりも、よほど暗号資産のほうがイメージしやすいのかもしれませんね。
宮下 これは笑い話ですけど、いまの子どもは本物の魚を見たことがないので、水族館へ行くと切り身の状態で泳いでいる様子が見られると思っている、なんて話もあります。お金に関する皮膚感覚にも、同じことが言えそうですよね。
乙武 それでいうと、どうしても私はこの点が気になってしまうのですが、お金の価値観を理解する上で、最初からキャッシュレスに馴染んでしまうのは必ずしも良いことではないのかもしれません。お二人はどうお考えですか?
池田 同感ではありますが、強いてキャッシュレスのメリットを挙げるとするなら、どこでいくら使ったのか記録が残ることですよね。お小遣い帳をつけるのに近い役割があるというか。
宮下 まさに、家計簿的な帳簿をつける練習は、ぜひ子どものうちからやっておくべきだと思います。
乙武 なるほど。キャッシュレスはその作業を簡略化して、身近にできるツールでもあるわけですね。これこそ、子どもだけでなく大人にも大切なことですが。
宮下 そうなんですよね。子どもの頃、母親が家計簿をつけていたのは記憶にありますが、私も含めていまの大人がどのくらいそうした管理をやっているかというと、ちょっと疑問ではあります。
池田 私も家計簿はつけていません。でも不思議なことに、家計簿アプリはけっこう使われているんですよね。つまり、漠然としたニーズはあるということでしょう。
乙武 こうやって突き詰めていくと、大人も子どもも直面している課題はあまり変わらないですよね(笑)。収支管理、自己管理をしっかりしましょう、と。それができていない大人も大勢いるわけですから。
金融リテラシーが低いと何が起こるのか
宮下 実際、私自身も今回の本の制作にあたって、かなり学び直しが必要でした。投資歴もあるのでそれなりの知識を持っているつもりでしたが、いざ資料を集めてみると知らないことだらけで……。
乙武 そんな宮下さんご自身が、制作過程で最も勉強になったのはどの部分ですか?
宮下 お金に対する考え方、「ニーズ」と「ウォンツ」の使い分けについてですね。「ニーズ」は生活に欠かせない物、「ウォンツ」は必需品以外の欲しい物。これを日常生活の中でちゃんと区別するというのは、当たり前のことですがまったくできていなかったですから(笑)。
池田 私も同意です(笑)。今日この取材の前に読み直していて、「そうだ、ウォンツをコントロールしなければ」と、あらためて姿勢を正しました。
乙武 これ、実はすごく深いテーマで、国家や自治体の予算にも同じことが言えると思うんですよ。社会保障や公務員の人件費など、国家予算のほとんどが「ニーズ」で消費されてしまうから、国民の“これがあったらいいな”という「ウォンツ」が蔑ろにされてしまい、それゆえに多くの人が不満を募らせているわけです。
宮下 まったくその通りですね。これは本書の中にも書きましたけど、たいていの物欲は1週間だけ我慢してみると収まるんですよ。でも、それがなかなか難しい。
乙武 そこでお聞きしたいのは、結局のところ、金融リテラシーが低いと何が起こるのかということです。
宮下 端的にはまず、経済的に損害を被る可能性が高くなります。それによってライフプランも変わり、結婚とかマイホームなど、小さな綻びが大きな目標に悪影響を及ぼしてしまうというのはありがちなことです。よくあるのはクレジットカードのリボ払いですよね。
乙武 たしかに。最初は単なる支払いの先送りだったものが、やがて借金に頼るようになり……というやつですね。
宮下 経済的な崩壊という意味ではヨーロッパのアルバニアの例がわかりやすいと思います。アルバニアではかつて、国単位でネズミ講が流行してしまい、最終的にそれが内乱にまで発展しているんです。これも国民の金融リテラシーに問題があったからでしょう。
乙武 うーん、それは興味深いですね。究極の事例だと思います。
投資は早いうちからどんどん経験するべき
乙武 ところで、この『中学生から身につけておきたい賢く生きるための金融リテラシー』ですが、刊行から今日までどのような反響がお手元に届いていますか?
池田 「子どものいい学びになっています」というご意見はたくさんいただいていますし、何より「大人である自分も勉強になりました」といった声もやはり多いですね。また、全国学校図書館協議会の選書図書になったのも、嬉しい反響のひとつです。
乙武 それは素晴らしい。つまり金融教育の参考書としてうってつけであると、お墨付きをもらったということですよね。
池田 ありがたいことです。おかげで刊行から3年ほどたちますが、いまでも学校の図書室からコンスタントに注文をいただいています。これはプログラミングの本を作った時もそうだったのですが、先生が専門的に教えられない分野だからこそ、こういった教材が必要なのだと思います。
乙武 なるほど。逆にいえば、刊行から早くも3年がたっているわけで、その間に世の中の金融教育も少しずつ進んでいると思います。もしいま改訂版を出すなら、新たにどんな内容を盛り込むべきでしょうか?
宮下 少し攻めた切り口かもしれませんが、証券会社がやっている未成年口座について触れたいです。未成年口座は15歳以上18歳未満の子どもでも取り引きできる口座で、これを使って実践的に投資の知識を学ぶのは有意義だと思います。
乙武 投資については、十分な知識のないうちから手を出すべきではないと考える人と、子どもの頃からどんどん経験を積むべきだという人に大別される気がします。宮下さんは後者ということですね。
宮下 そうですね、どんどんやったほうがいいと思います。
乙武 大人になってから転ぶと、大怪我に繋がりますしね(笑)。
宮下 おっしゃる通りです。いまはミニ株などもありますし、安全圏からチャレンジすることだって可能なわけですから。
乙武 では最後に、お二人が考える現状の金融教育の課題を教えてください。
宮下 これは先ほど乙武さんがおっしゃったことと同じなのですが、お金についてリアル感がどんどん失われていることが気になっています。我々もそうですが、キャッシュレスになって、どんどんチャージして使っている現状は、どうしても無駄遣いに繋がる気がして……。子どもであればなおさら、リアル感をどう獲得していくかというのは今後重要なテーマになるのではないでしょうか。
池田 私は学校の教育現場について、もっと外部から専門家を入れて、より実践的な情報を子どもたちに与えていくべきだと思っています。プログラミングなどは専門家でなければ教えられないので外部の人材に頼っていますから、金融もこれに倣い、銀行や証券会社などと積極的に連携するといいのかな、と。
乙武 お二人にはぜひ、今後も引き続き有意義な金融教育に繋がるコンテンツ作りを期待したいと思います。本日はありがとうございました。

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