※本稿は、上野千鶴子、アグネス・チャン『報われない社会で、それでも生きる』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■頑張っているのに、報われない怒り
【アグネス】私、前から上野さんに聞いてみたいと思っていたことがあるんです。フェミニズム研究の第一人者として長きにわたってたゆまぬ活動をしておられますが、その原動力って何なのかな? って。
【上野】あ、それは単純明快で「怒り」です。
【アグネス】社会に対する怒りという意味ですか?
【上野】そうです。女性は十分に頑張ってきたし、今だって十分に頑張っています。それなのに女性差別という壁は崩壊しないという社会の不公正に対する怒りです。
それからもう一つ、自分の中に渦巻くあくなき好奇心も原動力になっているのを感じます。
【アグネス】好奇心が原動力なのは私も同じです。人や物事に関心を持って世の中を見ていると、これはどういうことなのかな? という疑問が生まれて、知りたい知りたいってじっとしていられないんですよ。
香港でスカウトされて歌手になった時も、来日した時も、これから何が起こるのか知りたかった。スタンフォード大学で学んだ時もそうだったし、ユニセフをはじめとするボランティア活動も世界の現状を知りたい、自分にできることを把握したいという気持ちに突き動かされてやっています。だから好奇心が私の新たな扉を開いてくれると思っているんです。
【上野】アグネスさんには怒りはないの?
【アグネス】「怒り」かどうかはわかりませんが、どうして世界は平和にならないのだろうとか、なんで子ども達にミルクも薬も与えることのできない国が存在してしまうんだろうとか。不平等に対する不満があると思います。それを少しでもよくしたいためにボランティア活動をしているのだと思います。
■中国では家が買えない=結婚できない
【アグネス】香港や上海でも中国でも男女不平等ではないと思います。多くの女性が企業のトップに立っていますし、特に上海では、奥さんの尻に敷かれている男性がすごく多いんですよ。
【上野】アハハ。
【アグネス】夫もご飯も作り、子どもの面倒を見ます。サボっていると奥さんに猛烈に叱られて、「妻は怖い」と震え上がっているというのは、みんなでご飯を食べている時などにもよく出る話題の一つです。「妻が怖い」と言える男の方が余裕のあるように見られます。
【上野】そうですね。「家じゃ妻が実権を握っています」と言うのは、日本の男のクリシェです。そうやって妻を立てるふりをしながら、妻を家庭に封じ込めてきたのだと思います。
中国の男性も結婚難のようですね。
上海出身の学生が言っていました。僕らは結婚できない。だって家を用意しなくちゃいけないんだよって。上海ではとても家は買えないのだと。
■女は結婚しない、男は結婚できない
【アグネス】中国では、ダブルインカムで一緒に力を合わせて家を買おうというふうになってきています。日本でもそれは同じですよね?
【上野】確かに夫婦の年収を合わせれば、それなりに暮らしていけるはずですが、生涯非婚率は確実に上がってきています。現状では男性の4人に1人、女性の6人に1人が生涯非婚者です。
【アグネス】生活にお金がかかるから結婚しないで自由に使えるお金があった方がいいと考えるからでしょうか?
【上野】女は結婚しない、男は結婚できない、のです。
とはいえ、中国でも結婚しない、できない男女が増えてきたのは、同じような事情があるからではありませんか?
【アグネス】そうかもしれませんね。
■年収300万円でも「一人でいる方が楽」
【上野】宮本みち子さん達の共著に『東京ミドル期シングルの衝撃 「ひとり」社会のゆくえ』(東洋経済新報社 2024年)という面白い本があります。ミドル期とは35歳から65歳までを指すとか。ミドルといっても年齢の幅が広いのです。
その人の現状を調査した結果、男女とも年収は300万円台と総じて低いのです。都内では一人で暮らすのにしてもカツカツですよね。男性はなんとか一発逆転して女をゲットしたいと思っています。
一方、女性は現状に満足していて、このままシングルを続けたいと現状維持を望んでいるケースが目立ちます。一人でいる方が楽だし、生活ペースが乱されない。下手に結婚しても、夫がリストラされるかもしれない、介護もついてきます。
■あえて独身を選ぶ人が増えている
【アグネス】女性の方が慎重なんですね。でも結婚以前に恋愛に関心がないという人が増えているのではありませんか?
先日、原宿に行ったんです。カップルは少なくて、グループで行動している人がすごく多かった。結婚しなくてもいいから、恋愛してくださいって思います。人を好きになって初めてわかることがたくさんあるから。
【上野】それはそうですが、誰もが恋愛できる、する時代ではなくなりました。
【アグネス】片想いだっていいんですよ。もっと大胆なことを言えば、結婚するチャンスがあったら、失敗したっていいから結婚した方がいいと思うんですよ。
今は離婚しても、あの人は失敗したというレッテルを貼られる時代ではないのですから。
【上野】そこは自由になりましたね。離婚しても人生の敗残者とは思われなくなりましたし、独身でいても男に選ばれないかわいそうな人だというレッテルを貼られる時代ではなくなりました。
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上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者、東京大学名誉教授
1948年、富山県生まれ。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパイオニア。現在は高齢者の介護とケアの問題についても研究している。京都大学大学院博士課程修了後、平安女学院短期大学助教授、京都精華大学助教授、メキシコ大学院大学客員教授、コロンビア大学客員教授などを歴任。1994年、『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞受賞。著書に、『家父長制と資本制』(岩波現代文庫)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『女の子はどう生きるか』(岩波ジュニア新書)、『アンチ・アンチエイジングの思想』(みすず書房)など多数。
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アグネス・チャン
歌手・エッセイスト
1955年、香港生まれ。17歳の時、『ひなげしの花』で日本で歌手デビューし、トップアイドルに。上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学(社会児童心理学専攻)に留学。1985年に結婚、1986年に長男を出産。
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(社会学者、東京大学名誉教授 上野 千鶴子、歌手・エッセイスト アグネス・チャン)

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