※本稿は、服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「対立」は力で制さないほうがいい
京都では世間から「イケズ」と呼ばれる、相手を立てながら本音をすかし、遠回しに伝える文化があります。一見、回りくどくていじわるに思われるのですが、じつはこの「衝突を避け、相手の顔を立てる」振る舞いは、対立を未然に防ぎ、調和を実現する「ずるいけどうまい合意の技術」です。
さらに、人間関係を俯瞰し、相手個人だけでなくその背景にある「場」を見据えて戦略的な根回しを行う調和設計の知恵が京都では熟成されています。こうして全体を調整することで、京都では争いが起きず、物事は前へ進んでいるのです。
私はこの「対話術」と「根回し」という2つを武器に、京都特有のまちづくりや景観といった行政・事業者・住民が対立しかねない場面で調整役を担い、300件を超える地域の争いを未然に解消してきました。
その経験から確信していることがあります。人を動かすのは、説得や論破ではありません。一見、何気ないやりとりのなかで「調和」に導くことこそが、人を動かす力になるということです。
ここで提案するのは「相手を言い負かす」ための説得術でも、人を圧倒する交渉術でもありません。
■「承認欲求のこじれ」が関係悪化の原因
承認欲求とは、「自分を認めてほしい」とか「大事に扱ってほしい」という気持ちのことです。これは誰にでも備わっている自然な欲求であり、むしろ人と人を結びつける大切な要素ともいえます。なぜなら、人間は、誰かに認められることで自信を持ったり、安心して行動できるようになるからです。
ですが、この承認欲求が満たされないと、途端に対人関係は不調をきたします。
たとえば、あなたが会議で意見を述べたとき、上司や同僚から検討もなく即座に「いや、それは違う」と否定されたとします。表面的には単なる意見の相違ですが、きっと「自分の存在を否定された」と感じ、感情的な反発が湧きおこるはずです。これが承認欲求を満たされなかったときの典型的な反応です。
逆に、誰かが相手に対して「論破してやろう」と攻撃的に反論しているときも承認欲求が要因となっていることが多いです。この場合、論破をすること自体が承認欲求を満たすわけです。
一方で、論破されてしまった相手は「主張をくみ取ろうともせず、揚げ足を取られた」とか「自分の立場や考えを軽んじられた」と受け取ったりして心を閉ざしてしまいます。
いずれも「認めてもらえなかった」という承認欲求のこじれが関係を悪化させる火種となっています。
■ダメ押しされると言い返したくなる理由
表面上は「意見の衝突」や「条件のズレ」に見えても、その裏には「承認欲求が満たされない不満」が隠れており、それこそが関係を壊す原因になっているのです。
現代では「論破」という言葉がもてはやされる風潮がありますが、これは悪い方向に承認欲求が刺激されやすい状況だと感じます。
論理的に正しいことを証明すること自体は悪いことではありません。けれども、相手の承認欲求を踏みにじってまで勝ちにこだわると、対話そのものが壊れてしまいます。
表面的には意見や条件的対立に見える問題も、根本には承認欲求を火種にした感情の対立がある。この視点を持つだけで、対人関係の見え方がまったく変わるはずです。
承認欲求がこじれると、相手の言葉を必要以上にネガティブに受け取ってしまいます。また、ときには実際に、相手から強い否定や口撃を浴びることもあるでしょう。そんなとき、どう返すかによって、その後の関係の継続性が大きく変わってきます。
たとえば、相手から「君のやり方はダメだ」と強い口調で言われたとします。
■「オウム返し」で京都人の知恵を実践
ですが、本当は多くの人がわかっているはずです。これでは火に油を注ぐように対立が激しくなるだけだと……。
私がこういう場面で推奨しているのが、相手の言葉を「オウム返し」することです。相手の言葉をそのまま、あるいは説明口調に言い換えて繰り返すことは、思っている以上に有効です。
京都人は「本音を言わず、たてまえで話す」と言うと、とかく「お世辞を言えばいいのかな?」と思いがちですが、単純に「オウム返し」するだけでも近い効果があります。
もし、相手が自分の考えや想いを伝えたい気持ちが強い場合、たとえば相手が「今回の計画は、そもそも収益の見通しに無理があると思う」と意見を言ってきたとします。
ここで「いや、あなたは、この収益予測、詳しい根拠まで知らないでしょ?」とか反発するのではなく(したい気持ちもわかるのですが)、「あなたは収益の見通しに無理を感じてるんですね」とか「なるほど、収益予測に不安を感じているわけですか」というふうにワンクッション入れることで、相手は「自分の考えを理解してくれた」と感じます。
この「オウム返し」は、どう考えても酷い口撃のようなケースでも、合気道のようにかわすことが可能です。
■「~と考えているんですね」と内容を繰り返す
たとえば、「おまえみたいな若造に何がわかるんだよ!」みたいに言われたとします。
この言葉に反発して「は? むしろ、時代遅れの考えを押し付けないでほしいんですけど?」というふうに、相手と同じ土俵に乗って、応戦してはいけません。
これだけで、相手は反発の勢いが少し下がり、「いや、そういう意味ではなく、うちらの世代はいろいろ見てきたものがあってさ……」とか「あ、今のは言いすぎたね、そうではなく……」というような対応に変わって、別の論点につなげやすくなります。
別の方法として「黙認」してしまうのも手です。あえて何も言い返さず、まずは受け止める。とくに感情が高ぶっている相手に対しては、即座に反応しないことが効果的な場合もあります。
相手の勢いに飲み込まれず、一呼吸おくことで「あ、言いすぎたかな」と相手自身に気づいてもらえることがあります。
さらに、相手の承認欲求を刺激しつつ、実践的なのが「逆質問」する方法です。否定的な言葉を受けたときに、「私は、そのあたり詳しくないので、正解を教えてもらえませんか?」とか、「では、どうすればいいと思いますか?」と尋ねてみる。そうすると、口撃一辺倒だった相手も「代替案を考えるモード」に切り替わって、建設的な対話に戻しやすくなります。
■「合意」よりも「腹落ち」を目指す
どれも、ちょっとした方法なのですが、感情に支配されやすい場面では忘れがちなので、ぜひ身に付けておきたい対話術です。
これは、京都という土地で多様な価値観に向き合うなかで、私自身が意識的に磨いてきた姿勢でもあります。大切なのは、「相手をやり込める」のではなく「関係を壊さない」を優先することです。
オウム返しや逆質問などの方法は、対立を激化させず、次のやりとりへつなげるための有効な手立てです。
しかし、こうした対話術で表面的に衝突を回避できても、それだけでは対話の安定にはつながりません。そこで整理しておきたいのが「合意」と「腹落ち」の違いです。
「合意」とは、簡単にいえば「条件が一致した状態」です。ここまでの整理でいうと「合意」とは「条件的対立の解消」ともいえます。
たとえば、あなたが千円のペンを売りたいとします。相手が「700円なら買うよ」と意思表示をして、あなたが「いや、せめて900円」などとやりとりしてる間は「条件的対立」を調整している状態です。
そこで相手が「うーん。じゃあ800円なら、どう?」と提案し、あなたも800円なら売っても良いと考えるなら、そこで「条件的対立」が解消されて「合意」に至ります。
■「腹落ち」がなければ不満につながる
しかし、この合意、あなたが「本当に納得したうえでのものかどうか」は別問題です。
元々は千円で売りたかったのに、結果的には800円で妥協しています(交渉などでは「譲歩」という)。
当事者が一応、条件面では「合意」に達しても、「腹落ち」できていない場合、その後に小さな不満が積み重なり、結局は再び揉め事に発展してしまうということはあります。これは、当事者が「合意はしたけれど、納得まではしていない」つまり「腹落ち」がともなっていなかったことが要因です。
「腹落ち」は、「腑に落ちる」と表現してもいいのですが、いずれにしても頭だけで(つまり、理屈で)理解するのではなく、「感情的」あるいは「認知的」な対立を解消しておくことが必要です。
この「腹落ち」がなければ、人は「合意」しても心のどこかで抵抗感を残し、その後の行動に消極的になったり、不満を口に出したりします。
逆に、少し条件に不利な点があっても、自分の気持ちがきちんと汲まれて、「寄り添ってもらえた」と感じたとき、人は「腹落ち」しやすくなります。そのため、対話の場では「どう合意を取るか」だけでなく、「どうやって相手の腹落ちを引き出すか」がとても重要になります。
■京都人の「たてまえ」は調和のため
だからこそ「合意」と「腹落ち」の違いはしっかり区別して考える必要があります。
大切なのは、相手のなかに感情的なモヤモヤも、認知的な違和感も引きずらないようにすることです。
京都人が「たてまえ」を駆使するのは、決して「いじわる」や「冷たさ」ではなく、理屈面の善し悪しより「腹落ち」に根差した「感情的対立」や「認知的対立」の解消を重視するからです。
そうすることで、関係を長続きさせ、争いを防ぐ「調和」につながると考えています。
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服部 真和(はっとり・まさかず)
行政書士、服部行政法務事務所代表
1979年、京都市生まれ。中央大学法学部卒業。京都府行政書士会 相談役。起業難関のまち京都で1500件を超える新規事業創出を支援し、行政手続・法律と現場をつなぐ「橋渡し」の専門家。とりわけ、景観、まちづくり、民泊、看板規制など、住民・事業者・行政が対立しやすい「摩擦の多いテーマ」において、三者の意見をまとめあげる調整役として数々のプロジェクトを成功させてきた。「衝突の現場を整理し、納得をつくる技術」に定評があり、関わった民泊案件300件のうち合意形成率は100%。著書『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など。
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(行政書士、服部行政法務事務所代表 服部 真和)

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