老化を遠ざけるには何をすればいいか。精神科医の和田秀樹さんは「専門知識をひけらかすような説明は、単なる自己満足にすぎず、脳への刺激としても不合格だ。
難しい話ほど、やわらかくくるんで聞き手に渡すと脳は必然的に働くことになる」という――。
※本稿は、和田秀樹『これだけでいい!老けない!ボケない!和田式「アウトプット健康法」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■「会話」は高度な脳の作業
私の講演会に参加していた60代の男性から、こう話しかけられました。
「最近、どうもやる気が出ないんです。人と話すことも減って、なんとなく1日が終わってしまう」
検査をしても特別な異常はなかったと言います。ただ、われながら表情に張りがなく、外出も減っているとのこと。こうした変化の背景には、脳の前頭葉の働きの低下があります。
では、どうすれば前頭葉を若く保ち、脳の活性化を促すことができるのか。
カンタン、かつ効果的な方法としておススメしたいのが「人と話すこと」。
実は、「会話」というのは高度な脳の作業です。相手の話を理解し、自分の記憶を引き出し、適切な言葉を探し出し、相手の反応を見ながら伝え方を調整する。
この作業中、記憶をつかさどる側頭葉と、意欲や判断を担う前頭葉が同時にフル稼働します。
まさに脳の活性化そのものです。
難しい話はいりません。「今日は寒いですね」「それは面白いですね」のような他愛のない会話で十分なのです。
■使わないと機能が衰えるのは脳も筋肉も同じ
一方で、こんな悩みにも皆さん共感するのではないでしょうか。
私のクリニックに通院している70代の女性の患者さんは、「最近、ものの名前がすぐに出てこなくなって……」と話していました。
会話のなかで「アレ」「ソレ」「あの人」「その人」といった言葉が増え、夫からも「名前が出てこないことが多いね」と言われるようになったそうです。
本人は「もしかして認知症の始まりでは」と不安を感じていました。
その女性患者さんは、家にいることが多いとのこと。そうなると、他人との会話が減る。会話が減ると、言葉を探す機会も減る。脳は刺激を失う。テレビのニュースを観たり、新聞を読んだりしていますが、それだけでは知識のインプットが増えるだけで、前頭葉を十分に使うことにはなりません。

その結果、「アレでいいか」「ソレで通じるだろう」と相手(この場合は夫)の記憶に甘えて省略が増える。すると、脳もラクなほうへと流れ、働かなくなる。
つまり、使わないと機能が衰えるのは脳も筋肉も同じなのです。
■脳を鍛える絶好のチャンスと捉える
ただし、年齢とともに言葉がすぐに出にくくなるのは、ある程度自然な変化です。問題は、その状態をそのままにしてしまうこと。
だから、私はその女性患者さんに伝えました。「名前が出てこない」と感じたときこそ、脳を鍛える絶好の機会だと。
最後まで思い出そうとする。具体的な言葉で言い直してみる。その小さな努力が、前頭葉を刺激し、脳の活性化を促します。
単なる記憶力の強弱だけで“若さ”は測れません。人とかかわり、言葉を発し続けられているか否か。
それこそが若さを測るバロメーターなのです。
ですから、多少の「アレ」「ソレ」を気にすることはありませんが、その登場回数が思いのほか増えてきたら要注意。それは老化が進んだサインであると同時に、「もっと話しなさい」という脳からのメッセージでもあるのです。
1日中ボケーっとテレビを見て過ごし、人とほとんど話さない生活が続くと、脳は受け身になります。反対に、人と話せば、その分よく頭を使い、意欲も自然と増していく。
だからこそ、まずは人と話す機会をちょっとでも増やしていくようにしましょう。それこそが、認知症を遠ざける最も身近な生活習慣となるのですから。
■難しい話題は「たとえ話」でくるんで伝える
精神科医という仕事をしていると、どうしても専門用語が多くなります。
前頭葉、側頭葉、ドーパミン、アミロイド……。何の解説もないまま、そのまま使うと「先生、難しいです」と言われてしまいます。
そこで、私がいつも意識しているのが「たとえ話」です。難しい話ほど、やわらかくくるんで聞き手に渡す。
それが、私なりのアウトプットの工夫なのです。
たとえば、前頭葉の働きを説明するとき、私はこう言います。
「前頭葉は、会社でいえば社長です」

「感情や欲望など『これをやりたい!』と騒ぐのは社員」

「それに対し前頭葉は、『ちょっと待て、本当にそれでいいのか』と判断を下す」

「社長がしっかりしていれば、会社はうまく回ります」

「反対に社長がチャランポランだと、組織はバラバラになるでしょ?」
あるいは、脳の機能について。
「脳は預金口座と同じです。ほったらかしでは増えません」

「若いころに貯めた“知識の残高”がいくらあっても、それだけでは意味がない。引き出して会話や発言に使うという、いわば“投資”が大事。投資するからこそリターンがある、すなわち脳=預金口座の中身も増えるのですから」
難しい神経学の話をするより、このほうがずっと伝わります。
■専門知識の説明は脳への刺激としても不合格
当然のことながら、人は抽象より具体のほうが理解しやすい。その点、たとえ話のよさは、相手の頭のなかに“映像”をつくれること。
「どう言えば、よりわかりやすく伝わるか?」

「相手の生活や立場に置き換えると、どんな表現がふさわしいのか?」
これは立派なアウトプットの訓練です。
たとえば、夫の頑固さを指摘する場合、「あなたは頑固だ」ではなく、「あなたは昔のカーナビみたいね。道を間違えても、自分が正しいって言い続けるの」と言えば、角が立ちにくいでしょう。
しかも少し笑いも取れます。
つまり、たとえ話は相手を責めずにマイナス面を伝える知恵でもあるのです。
私はよく言います。
「難しいことを難しく話すのはカンタン。難しいことをやさしく話すのが、その人の本当の実力だ」と。
専門知識をひけらかすような説明は、単なる自己満足にすぎません。しかも、記憶しているものを、なんら吟味もせずそのまま話しているだけ。これでは、脳への刺激としても不合格です。
■話のアウトプットは“サービス業”
その反面、たとえ話を考えつこうとすれば脳は必然的に働くことになります。ですから、日常の出来事を「これ、何にたとえられるかな?」と常に考えてみるクセをつけましょう。
とりわけ自分の話のアウトプットは、いわば“サービス業”のようなもの。レストランのメニューと同様、素材のまま客に出せるようなレベルのものなど、なかなかありません。

反面、人生経験を積んだ人であればあるほど、ひと手間加えればごちそうになるネタが豊富なはず。
難しい話を、少しでもやさしく。まじめな話を、少しでもやわらかく。
そのひと工夫が、あなたの言葉を生きたものにするのと同時に、あなたを老化から一歩も二歩も遠ざける“魔法のスパイス”となるのです。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

----------

(精神科医 和田 秀樹)
編集部おすすめ