※本稿は、和田秀樹『これだけでいい!老けない!ボケない!和田式「アウトプット健康法」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■「85歳を過ぎて、がんがない人はいない」
「がんになったら人生終わり」
「認知症になったら、もう何もできない」
認知症を恐れる気持ちはわからないではありません。ただ、実はこうした言葉もまた、高齢者のアウトプットを止めてしまう“常識のような非常識”です。
はっきり言います。「がんや認知症になったらおしまい」ではありません。
かつて私は、東京都杉並区にある高齢者専門の総合病院、浴風会病院に勤務していました。そこでは年間100例ほどの解剖が行なわれ、私はその検討会に毎回出席していました。
そのとき、病理の先生がこんなことを言ったのです。
「85歳を過ぎると、体のどこにもがんがない人はいません。同様に、脳にアルツハイマー型変化がまったくない人もいません」
最初は耳を疑いました。けれど、解剖結果は事実を雄弁に語っています。
実際、亡くなった方の死因を見ると、がんで亡くなるのは3人に1人。残りの3分の2は肺炎や老衰でした。つまり、多くの人はがんを抱えながら、がんで苦しむことなく亡くなっていたのです。
■「がんになったらダメだ」は大間違い
知らないまま、症状もなく、天寿をまっとうしていた。
まさに「知らぬが仏」です。
私は、これまで6000人以上の高齢者と接してきました。その経験から言えるのは、70歳を過ぎて見つかったがんの多くは、進行がゆっくりで、命取りにならないケースも少なくないということです。
私が診た80代の男性に、前立腺がんが見つかりました。医師からは「手術もできます」と言われましたが、本人はこう言い返します。
「畑もやりたいし、旅行にも行きたい。痛くもないのに、なんで体を切るんだ」
結局、積極的な治療はせず、経過観察を選びました。その男性はその後も10年以上元気に畑に通い、最後は老衰で静かに旅立ったのです。
これでも、がんにかかったから不幸だったといえるのでしょうか。
認知症も同じです。先ほどの浴風会病院での解剖結果にもあったように、85歳を過ぎれば、誰の脳にもアルツハイマー型の変化は見つかります。しかし、それですぐに「何もできない状態」になるわけではありません。
実際、軽度の認知症でも、笑い、怒り、恋をし、趣味を楽しみ、人を思いやることはできます。言い換えれば、アウトプットは続けられるのです。
問題は、診断そのものよりも、「もうダメだ」と思い込んでしまうこと。
「がんだから安静に」
「認知症だから危ない」
そう言われ、周囲も腫れ物に触るように接する。すると、本人は役割を失い、社会との接点を失い、急速に元気をなくしていきます。
■がんや認知症は人生後半戦の“条件”
私にしてみれば、がんや認知症は、しわや白髪と同じで、歳を重ねれば誰にでも起こる変化にすぎません。
ですから、大事なのは、「病名」より「どう生きるか」です。
症状がないがんなら、慌てない。
・人と会う
・話す
・笑う
・好きなことをする
がんや認知症になっても、これをやめなければいいのです。
「病気=人生終了」という思い込みこそが本当の敵です。
85歳を過ぎれば、がんも認知症もあるのが“普通”。言ってしまえば、それは人生の後半戦の“条件”にすぎないのです。
条件が変わっても、プレーは続けられる。そう考えられる人の人生こそが、最後まで輝き続けるのです。
■医者は最初から「答え」を決めつける人種
医者にかかり診断を受けると、たとえ「あれ?」と思うようなことを言われたとしても「先生が言うのだから間違いない」と、多くの人は聞き返しません。
けれども私は、医者の言うのをそのまま信じることこそが、危険だと考えています。なぜなら、医者というのは、ときに現実より理屈を優先し、最初から「答え」を決めつけてしまう“人種”だからです。
先日、私は石川県加賀市で開かれた講演イベント終わりの二次会後に倒れ、救急搬送されました。搬送先は加賀市医療センターです。
急な尿閉(膀胱に尿が溜まっているのに、排尿できない状態のこと)でムリに力んだ結果、持病の心不全が悪化し、心臓ぜんそくの発作を起こしたのです。
病院ではすぐに尿道カテーテルで導尿し、翌日にはMRI検査。すると、大きな前立腺肥大が見つかったのですが、処置はきわめて迅速で的確でした。
このときも思いましたが、日本の急性期医療は本当に優れています。急病になれば、誰でも比較的低負担で高度な医療を受けられる。この点は世界に誇れます。
問題は普段の医療、とりわけ高齢者への“基準値至上主義”です。
血圧、血糖、コレステロールなどの数値が、少しでも基準から外れると、「薬を飲まないと脳卒中になりますよ」と患者を脅す。患者の年齢やそのときの体調よりも、決められた数値が最優先されるのです。
■高コレステロールのほうが、人は死なない
しかも、そうした数値の基準を、医師はまったく疑わない。
コレステロールも同じで、「高い=悪」という単純な図式が常識になっています。
コレステロールに関しては、1993年にアメリカでデータ解析のレポートが出された「フラミンガム研究」という大規模調査が有名です。
この研究では、1948年から1980年までデータをとり、コレストロールが血中に1mg増えると、死亡率がどれだけ上がるかが示されていました。
これによれば、コレステロールが1mg増えると、40歳では死亡率が0.5%上昇。ところが、60歳でプラスマイナス0%、70歳でマイナス0.1%、80歳ではマイナス0.7%と、逆に死亡率は下がっていきました。
つまり、高齢になるほどコレステロール値が高いほうが死亡率は下がるという結果が出たのです。
日本でも1976年から1991年、東京都小金井市の70歳以上の高齢者を対象に行なわれた追跡調査では、コレステロール値と死亡率の関係上、最も長生きするのはコレステロール値が高めのグループだったという結果が出ています。
また、最近の学説でも、コレステロール値が250mg/dLを超えると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるものの、240ぐらいまでは、むしろ血管の弾力性を高めることがわかっているのです。
■健康診断の数値を気にしてピリピリしない
そもそもコレステロールは、人間の体にとって重要な働きをしています。コレステロールが高いと、免疫機能が高まり、がんや感染症の予防になります。また男性ホルモンの材料となるので、若々しさを保つためにも重要です。
またコレステロールには、「善玉」といわれるHDLコレステロールと、「悪玉」といわれるLDLコレステロールがあります。
だが、実はコレステロールには善玉も悪玉もなく、むしろ悪玉といわれるLDLのほうが、がんやうつ病にかかりにくくしてくれるのです。ここからもわかるように、健康診断の数値を気にしすぎて、ピリピリするのは意味がありません。
実際、コレステロールは、細胞膜やホルモンの材料であり、免疫機能にもかかわる重要な物質です。数値が高すぎるのは問題ですが、「やや高め」まで薬でムリに下げる必要があるかは、年齢によって異なります。
私自身、総コレステロール値は300前後ですが、元気に活動しています。血圧もコレステロールも少し高め、小太り。それでも活力は十分あります。疫学データでも、私のような数値のほうが長生きなのです。
医者の多くは、理屈を信じます。しかし、その理屈が最新とは限らない。しかも現実の高齢者の体は、教科書通りには動きません。
ダメな医者は、患者を見ていません。検査データだけを見ています。
いい医者は、じっくり問診し、表情や声の調子、生活背景を観察します。数字ではなく「その人」を診るのです。
■自分の頭で考えることも大切なアウトプット
過激に聞こえるかもしれませんが、医者という職業には”思考停止”が起こりやすい側面があると、私は思っています。患者に「この薬を飲まないと死にますよ」と言うのはカンタンです。
しかし、本当にその人の人生を考えて言っているのかどうか、はなはだ疑問だと言わざるを得ません。
ここまで説明してきたアウトプット健康法の視点から言えば、医者の言葉を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えることも大切なアウトプットです。
高齢者が元気で長生きするために必要なリテラシーは、「基準値に従うこと」ではなく、「自分の体の声を聞くこと」。そして、信頼できる医者を選ぶことです。
医者の言うことが常に正しいわけではありません。
しかし、対話すれば、よりよい答えに近づくことはできます。
受け身ではなく、主体的に。
それが、医療との上手な付き合い方なのです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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