独身者1万人を対象にした内閣府の調査結果が注目を集めている。独身研究家の荒川和久さんは「いわゆる『女性の上方婚志向』(自分と同等かそれ以上の経済力を結婚相手に求める傾向)が顕著に表れている。
これは単なる個人の問題ではなく、婚活市場全体の需給ミスマッチが発生しているせいだ」という――。
■内閣府が暴いた「婚活ミスマッチ」の実態
2025年に内閣府経済社会総合研究所が発表した「現実的な配偶者の決定要因~結婚候補者の存在確率に関する定量的評価~」という論文があります。
これは、独身者1万人を対象とした大規模アンケートで、結婚相手に対する希望とその成立率、ミスマッチの発生状況を定量的に把握したものです。具体的には、結婚相手に求める6つの条件(年齢・年収・雇用形態・学歴・身長・体型)を用いています。
発表されるや、この結果はSNSなどで話題となり、拡散されました。
なぜなら、6つの条件をすべて満たす相手が、婚活市場全体での中でたった3.8%しかいないという結果だったからです。もちろん、実際の婚活において希望条件をすべて満たす者だけが結婚するわけではありませんが、何よりこれは、「まずは条件検索ありき」で始まる婚活の構造自体が「結婚不成立」の可能性を高める要因を内包しているともいえるでしょう。
特に、年収条件においては、男性が希望する条件に合う女性の割合は71%であるのに対し、女性の希望に合致するのは43%しかいません。男性は相手の年収にあまり頓着しないが、女性は相手の年収条件が高くなるというもので、その成立率は29%と、6つの条件の中ではもっとも低い成立率となっています。
いわゆる「女性の上方婚志向(女性は自分と同等かそれ以上の経済力を結婚相手に求める傾向)」が顕著に表れています。
■「女性の希望」と「現実」の年収に深い溝
実際、内閣府の2019年の別の意識調査でも20~30代未婚男女の結婚相手の希望年収を聞いていますが、それと実際の年収(2022年就業構造基本調査より)とを比較すると、女性はほぼ一致しているのに対し、男性は大きく食い違いが生じています。
特に、女性は年収400万円以上の男性を求めているのに対し、実際の男性は200万~400万円がボリューム層というズレです。
2022年以降賃上げが加速したとはいいますが、むしろその賃上げ率以上に希望条件そのものがインフレしており、今や女性の希望は500万や600万といわれるようになりました。
「上方婚なんて昭和の話だ。最近は男女ともに同額レベルの結婚が増えている」という論もまことしやかに流れますが、決してそういうわけではありません。確かに、東京の都心3区(千代田区・港区・中央区)のタワマンに住まう夫婦は同じように稼ぐ者同士のパワーカップルといえるでしょう。しかし、その構成比は微々たるものに過ぎません。
全国的にみれば、実際に結婚している夫婦の年収バランスは、2022年の就業構造基本調査で29歳以下の妻の子なし世帯だけを抽出した場合、上方婚7割、同額婚2割、下方婚(妻の方が夫より高年収)は1割です。つまり、結婚した女性は、少なくとも自分と同額かそれ以上の夫と結婚しているのが9割ということになります。
■高望みではない「構造的な不都合」
また、上方婚というと「玉の輿」「高望み」のようなイメージもありますが、現実の上方婚はもっと現実的です。
2024年の内閣府「少子化・女性活躍の経済学研究に向けたアンケート調査」より、25~49歳の未婚女性の年収別に相手に望む年収が自分の年収の何倍にあたるかという係数計算をすると、300万~500万の中間層で1.58倍です。
そして、この1.5倍程度の年収差というのは、実際に結婚している20~30代夫婦でも同様で、婚活女性が決して現実離れした無謀な高望みをするようになったからではないのです。
しかし、たかが1.5倍、されど1.5倍です。ここにこそ、女性の意思とは関係なく、結婚の経済的ハードルを上げてしまう構造的原因が隠されています。

年収の絶対額ではなく、「女性は自分の1.5倍の年収相手を求める」というのを基準にすると、女性自身の年収が上がればあがるほど相手に求める年収が上がってしまうことになります。
女性の大学進学率の増加や大卒女性の絶対数の増加で女性の年収は上昇しています。それに伴い、若年層の特に正規社員における男女の賃金格差は以前に比べればかなり解消されています。
それはそれで良いことと思いますが、仮に、そうして女性の年収自体が上昇して、同年齢の男性とほぼ同額となったとします。その場合でも、この1.5倍の基準を守ろうとすると、自然に希望年収そのものが上昇するために対象相手がいなくなることになります。
■8割が陥る「婚活疲れ」の当然の理由
皮肉にも、女性自身の年収増により、相手への希望年収が自然スライドして高騰する「結婚年収のインフレ」が生じることになります。
高望みではなく、構造上の必然です。
結婚生活は経済生活ですから、自分より稼ぎの少ない相手をあえて選んで苦労はしたくないと思うのは自然です。しかし、その基準を守ろうとすると、「選べる相手はいない」という現実と直面します。
結婚相談所の現場で、仲人から「お相手の年収条件を少し下げてみませんか」などと提案される婚活女性も多いでしょう。仲人が意地悪しているわけではなく、それが現実だからです。
結局、婚活の女性は「良い相手がいない」と愚痴り、男性は「こっちが良いと思っても(経済条件で)相手から選ばれない」とこぼす。
婚活男女の8割が「婚活疲れ」をしているというニュースもありましたが、それも当然かもしれません。前述した内閣府の論文は、まさにこの現実に起きている婚活のマッチング不全を数値化したようなものです。
■「年収」を追ううちに「年齢」で選ばれなくなる
年収条件だけではありません。年齢の影響もあります。皮肉にもそれは年収条件とも密接にからみあっています。
たとえば、20代の女性が結婚相手の年収希望を追い求めて婚活しても、条件に合致する相手は婚活市場には存在しません。いたとしても婚活市場に流れてくる前に完売しています。
「適当な相手がいない」と次々に候補を消去していくたびに、無駄に時間だけを浪費し、ついには男性側が求める条件である「年齢の若い女性」という条件から外れていくことになります。しかも、その間、自分の年収も上がるわけですから、ますます年収条件も上げ続けることになります。その結果、「年収で選ぶべき相手がいない→年齢で選ばれなくなる」という悪循環が生まれます。
これは男性にとっても同様で、20代のうちは「年収が低いと結婚できない」とがんばって女性の求める年収を達成したとします。しかし、その時点で仮に35歳になっていたら、もう婚活市場では「おじさん」扱いで、俗に「おぢアタック」などといわれて避けられようになってしまいます(「おぢアタック」とは、35歳以上で8歳以上の年下にアプローチすることを指します)。

男も女も八方ふさがりです。
昨今の婚姻減少の本質的な問題がここに凝縮されています。年収条件が若者の結婚を阻害し、時間を無駄にした挙句、年齢条件で男女とも対象外となってしまう。条件検索で相手を値踏みする婚活は、結局自分自身が値踏みされて選ばれない「結婚できない活動」と変わるのです。
■「最初に条件ありき」の闘争からの脱却を
これは単なる個人の問題ではなく、婚活市場全体の需給ミスマッチであり、条件前提の婚活が図らずも招いた自爆装置なのかもしれません。
単に「条件を下げましょう」「妥協しましょう」と条件の最適化を図るのではなく、根本的に結婚とは何かというものに向き合う必要があります。年収いくら以上の完成品を探す婚活は不毛です。「最初に条件ありき」という条件闘争から脱却し、20代の若い時には、趣味や関心の一致する人の出会いとつながりに心掛け、そうした出会いを演出するお膳立てが求められてくるでしょう。
最近、自治体では、婚活と銘打つのではなく「友活」や「趣味の集まり」という形で若者を集め、そこでの交流を結果としての結婚に結び付けようという良い動きが活発化しています。地元のスポーツチームを一緒に応援するイベントや肉好き・酒好き・犬好き・猫好きなどの「好きを共有するイベント」などが効果的です。
少子化対策としての子育て支援は出生増につながらないどころか、かえって子育てコストを高騰させ、結婚や子育てにはお金がかかるという意識のインフレを増長させてしまいました。同様に、結婚を増やしたいからといって表面的な婚活支援もまた的外れになるでしょう。

結婚を増やす、子どもを増やす前に、まず若者が笑って過ごせる場所と機会を提供する。マッチングアプリなどデジタルツールの発達により条件闘争化してしまった人との出会いを、アナログでリアルな場に取り戻すことが必要なのではないでしょうか。
完成品を探すのではなく、一緒に完成品を作りたいと思える相手と出会うために。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

コラムニスト・独身研究家

ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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