リーダーの人間性それ自体が、事業の盛衰のみならず、組織の命運を決定づける。『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』の編集を担当した小森俊司さんは「名選手が名監督になれない理由として、『いつまでも自分が主役だと思っているからだ』というラグビーの平尾誠二さんの言葉は経営者、管理職の胸に刺さるのではないか」という──。
(第3回/全3回)
■リーダーはメンバーの生死を握る
第6回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で連覇を期待されながらも、準々決勝でベネズエラに逆転負けを喫し、大会史上最低のベスト8敗退という結果に終わった侍ジャパン。井端弘和監督が退任の意向を示したのは、その直後のことだった。
選手起用、継投策、チーム編成……など、様々な敗因が取り沙汰されているが、いずれにせよ敗北の最終責任を負うのは指揮官ということになる。
スポーツの世界のみならず、あらゆる事業の盛衰はリーダーの指示・決断によって決まることを痛感する。その在り方が組織のメンバーの生き死にさえも決定づけることさえある。
その象徴的な例の1つが、探検や冒険の世界である。
陣頭指揮を執るリーダーの決断・指示によって隊員たちは行動するが、その在り方がプロジェクトの成否はおろか、多くの命の明暗を分けたことが歴史上にもあった。
■全滅した「スコット南極探検隊」の悲劇
かつて第一次南極観測越冬隊長を務めた西堀榮三郎氏は、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』の中で、こんな話を展開している。
朝日新聞の本多勝一君が書いた『アムンセンとスコット』という本がありましてね。これがなかなかおもしろいですね。両方の隊の日記をベースに、この日はこっちはどうしたということを比較しながら書いているんです。
ご承知の通り、アムンセンは南極に最初に到達した。
スコットはそれから1カ月半遅れてようやく着いたが、全員全滅した。私はそれは偶然ではなく、必然だと思っていたんですが、それが如実に表われている。

■両者の運命を分けたのは「階級組織」
時は1910年。ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊。
二人のリーダーは、ほぼ同時に南極点を目指し、互いにその存在を知っていた。しかし両者の運命は栄光と悲劇に分かれ、対照的である。
一体なぜそうなったのか。西堀氏は次のように述べる。
両者の運命を分けることになったことの一つにね、隊長の「情熱」の差がある。
アムンセンは少年の時から極地探検を志し、そのために機会あるごとに勉強し、鍛錬していた。スコットは自ら望んだ極地探検でなく、南極に情熱を持っていたマーカムにお膳立てされた南極行きだった。この時点で、すでに二人の間には大きな「心構え」の差がある。

それから、アムンセンの組織というのは自立主義です。スコットはイギリス海軍の将校ですから、階級組織です。その階級的意識がずうっと後まで災いするんですね。で、結局、兵卒であった者から順ぐりに死んでいく。
スコットは責任を持ってるから一番最後に死んだと英雄化されていますが、下の者ほど心理的肉体的な疲労が激しかったということでしょうね。

■「服従型」のメンバーは逆境に弱い
恐ろしいことに、2人の持つ心構えの差、探検に対する姿勢の差は、隊全員が辿る運命の差にも通じていく。
スコットのほうは「貧すれば鈍する」というようなことばっかりが次から次へと起こってくる。アムンセンのほうは、誰一人ケガもしないんで、すいすいと行く。
で、日記を並べてみるとね、同じ嵐の時に、片一方はイライラしとる。当時は無線がないですからね。ところが、一方は「ああ、この神の与えてくれた休暇、嵐よ」ということをいってるわけです。
また、一方はちゃんと隊員に物を考えさせる余地を作ってる。
それで、自分がくたばっても、その隊は誰も死なずに無事帰れるようにせないかんということを常に仕込んどるわけです。ところが一方は、自分がみなを連れてきとるんだと、こういう考えです。上官には絶対服従です。

リーダーの姿勢は、そのまま部下にも伝わり、組織全体を左右することの顕著な例と呼べるだろう。
同時にこのことは、各自が自主的に仕事をするようになれば、リーダーの指示がなくても動くようになることを指し示してもいる。全員が参画精神を持って1つの目標に向かった時、素晴らしいチームワークを発揮することができるのだ。
■スポーツ界も「トップダウン」から「自立型」へ
スポーツの世界においても、近年大きな変化が起きている。
「トップダウン型」から、選手や現場が主体的に意思決定を行う「自立型組織」への転換が求められているのだ。
既存のトップダウン型組織の限界に早くから気づき、その危うさを約20年前から指摘していた人物がいる。
選手時代は司令塔として大学選手権3連覇、神戸製鋼時代には全日本7連覇を達成。引退後は日本代表監督としてチームを世界レベルに押し上げ、「ミスターラグビー」の異名を取った平尾誠二氏である。
2005年に行われた取材の中で、氏は「なぜ名選手は必ずしも名指揮官になれないのか」という話を展開している。

名選手が必ずしも名指揮官になれないケースが多いのですが、それは、いつまでも自分が主役だと思っているからだと僕は思います。
野球の監督であれば、まだベンチからいろんな指示が出せますが、ラグビーとかサッカーはまったく出せません。ゲームが始まる前までが勝負で、いったん始まればやることがない。極端なことを言えば、寿司屋で寿司を食いながらテレビで観戦していても結果は変わらないんです。
スタンドから「気合を入れろ!」などと檄を飛ばしているコーチもたくさんいます。それが悪いとは言いませんが、それをやったからといって、何も変わらない。そんなエネルギーがあるなら、グラウンドに出る1分前までに発揮しておいたほうが、本当は効率がいいんです。
そういうことを、自分もいろいろ体験を積みながら気づいていったのです。

■「ミスターラグビー」平尾誠二の後悔
かく言う平尾氏にもまた、過去に自ら苦汁を嘗めたことがあるという。
実は、そのことで一度失敗がありましてね。試合中にスタンドから僕が言ったことがたまたま当たって、それまで自分たちの判断でゲームを進めていた選手たちが自信を失い、僕の顔ばかり見始めたんですよ。「次はどうしよう」と。

それ以来、試合中は何があっても黙っていよう、どんな状況になっても「おまえたちのプレーは間違っていない」という顔をしておこうと決意したのです。
いま組織は新しい転換期に差し掛かっていますし、プレーヤーの評価の仕方も変わってきています。昔は監督の言ったことをちゃんとやってくれるのがいいプレーヤーでしたが、いまはそういうプレーヤーは頼りない。それよりも、新しいものを自分で創り出せる人が求められます。

指揮官の在り方が、それにふさわしい運命を招来する。組織が新しい転換期を迎えたいま、リーダーとしてのあなたの在り方はどうだろうか。あなたは組織を繁栄へと導くリーダーだろうか。

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小森 俊司(こもり・しゅんじ)

致知出版社書籍編集部

1979年滋賀県生まれ。京都精華大学1年の時、文章を見てもらった某雑誌の副編集長から「君みたいな人間は、東京に行って潰されてきたらいい」と言われ、一念発起。在学中に執筆したダチョウ倶楽部とナインティナインの評論記事が、雑誌「日経エンタテインメント!」に掲載される。2004年致知出版社入社。月刊『致知』で10年間、企画・取材・執筆に携わり、2014年より書籍編集部へ。
2020年に刊行した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)が31万部を突破し、ベストセラーに。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」で総合グランプリ受賞。

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(致知出版社書籍編集部 小森 俊司)
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