高市首相の政策は日本経済にどのような影響を与えるか。投資ストラテジスト武者陵司さんは「日本はデフレから脱却し、企業は儲かり、税収は見積もりを大幅に上回り続けた結果、税金の取り過ぎが起きた。
高市政権が手をつける、責任ある積極財政により消費は増え、他の先進国から大きく引き離されていた潜在成長率が高まり、税収も、経済成長の高まりによって、むしろ増えていくことが見込まれる」という――。
※本稿は、武者陵司『トランプの資本主義革命』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■高市早苗が推し進める保守革命の必然
日本で史上初の女性首相が誕生したことは、自由の国である米国やフランスに先駆ける歴史的快挙である。しかし新政権のより大きな歴史的意義は保守革命を遂行しようとしていることにある。
これまでの自公連立はリベラル中道連合(憲法改正やスパイ防止法、防衛力増強などを後回しにしてLGBT法や選択的夫婦別姓などリベラル政策と財政健全化路線を推進)といえるものであった。
それに対して自民維新の新連合は保守連合(改憲、自主防衛、積極財政)といえ、これは保守革命ともいえる基軸の大旋回である。公明の連立離脱は、高市氏率いる自民党の路線大転換を見越してなされたものであり、平和主義に徹する公明党にとって、他の選択肢はなかったのであろう。
中国の異常とも見える対日威圧も、日本で保守革命が起きようとしていることへの反発に端を発している。中国は2025年11月7日の高市首相の国会答弁を、日本が台湾有事に介入する姿勢を見せたと難をつけて、強烈な対日威嚇と答弁撤回(=台湾有事不介入の約束)を求めている。
日本は対中宥和姿勢を継続するべきか、毅然とした対中現実主義にシフトするべきかの選択を迫られている。それは戦後の「戦力放棄を伴う絶対平和主義」の幻想からの目覚めの過程でもある。
■高市首相にあり安倍元首相にはない3つの優位性
この歴史的使命に対して高市政権は及び腰で、持論の消費減税、毅然とした対中・対米姿勢を封印しているように見えるのは、先の総選挙で圧倒的多数を確保したものの、与党内での支持は必ずしも絶対ではないことにも理由があろう。

いずれ、高市首相は選挙公約として掲げた積極財政とともに、国家安全保障戦略や憲法改正を強力に押し出していくだろう。公約が実現できず人々に生活改善の実感を届けられなければ、高市人気が衰えることも考えられる。
そうした不安を除けば、高市内閣は長期政権化する可能性は高い。高市首相には、先達者である安倍元首相にはない3つの優位性がある。それは稼ぐ力、保守・ナショナリズムを正当化する現実、インターネット・SNSによる情報発信力、である。
まず稼ぐ力について。2012年12月、第二次安倍政権発足時の日本の稼ぐ力は奈落の底にあった。2000年以降、十数年にわたって名目GDPは500兆円前後、法人企業利益は40兆円前後で低迷し、株式時価総額や税収は、10年前に比べ1~2割も減少した。
加えて、1ドル=85円の超円高のもとで、日本企業の競争力は地に落ち、総力を結集した日の丸半導体、エルピーダメモリは破綻した。
■巨額の隠れた投資原資
また、雇用も10年間で5%減少した。安倍政権が投資や国民生活向上に振り向けることができる原資はまったくなかった。
それに対して、高市政権が船出した現在、アベノミクスの成功と円高是正により、企業収益は劇的に改善し、税収は倍増、株式時価総額は4倍になるなど、国民の富は激増している。

政府には、年間で6兆~10兆円と試算されている恒常的な税収の上振れに加え、米国国債保有の為替差益約40兆円、日銀保有のETF含み益48兆円、GPIF累積運用益180兆円など、巨額の隠れた投資原資もある。
いかに高市政権の船出が投資余力に恵まれているかは、明々白々であろう。
第二の保守・ナショナリズムを正当化する現実について見てみよう。第二次安倍政権が誕生したとき、日中は尖閣諸島問題で激しく対立していたものの、米国の態度は不明であった。靖国神社に参拝した安倍元首相を、米国の保守系新聞であるウォールストリートジャーナルまでもが、危険な国家主義者の登場というキャンペーン記事を連載したくらいである。
■日本の領土と国民の命を守る必要性が明らか
中国は、日本軍国主義に対してともに戦った米中は、日本の軍国主義復活に対してもともに戦うべきだと米国に呼び掛けた。
中国による南沙諸島の埋め立ても、中国国内における民族抑圧も、ロシアによるウクライナ侵略も、この時点ではまったく見えておらず、北朝鮮のミサイルも火遊びに過ぎないなどと軽視されていた。
また日本国内では朝日新聞社が、自ら引き起こした従軍慰安婦捏造報道を、2014年8月に自己批判する前であり、執拗にこの問題を取り上げた安倍元首相を、報道の自由に対する権力の介入であると、メディアは一斉に攻撃していた。安倍元首相が主張したナショナリズム・保守主義を正当化できる現実は、何も見えていなかった。
しかし、高市政権が誕生したいま、日本の領土と国民の命を守る必要性は、ほぼすべての国民の前に明らかになっている。
第三の情報発信・拡散力については、2012年当時、インターネットによる個人の情報発信は限られ、SNSの利用も普及しておらず、情報発信は圧倒的にマスコミ4媒体であるテレビ、新聞、ラジオ、雑誌に支配されていた。
しかし今日、インターネット広告はマスコミ4媒体を大きく凌駕し、マスメディアの影響力は顕著に低下している。

政府も企業・団体もSNSを通じて情報発信しており、受け手である個人も、それに呼応する情報の双方向チャンネルが確立している。かつて存在していた情報格差は、SNSの登場によって劇的に縮小し、既存メディアによる世論支配力は著しく弱くなった。
メディアに対する安倍氏の攻撃は、権力による言論統制と見なされてしまったが、今日、対等な空間での論戦を、すべての国民が観察できるようになった。米国でのトランプ政権の誕生も、先の参院選挙での保守系新興政党の躍進も、この情報環境の激変によるものだ。
高市政権はマスメディアを通さず、直接、SNSにより、国民に呼びかけ始めている。
■財政健全化タブーからの解放
高市政権はアベノミクスで残された課題、減税による消費の引上げに手をつける。
なぜ減税が鍵になるのか、第一に財政に余裕があり消費が著しく低迷しており国民の不満が強まっていること、第二に減税は先進国における景気対策の世界標準であること、第三に減税は景気拡大と税収増をもたらすこと、がほぼ明らかだからである。
そうなると日本経済は消費主導で成長率を高めるだろう。今年6月に策定される経済成長戦略骨太の方針では、高市カラーが打ち出されるだろう。片山蔵相、城内成長戦略担当相、経済財政諮問会議民間委員に若田部氏、永濱氏、日本成長戦略会議の民間委員に片岡氏、会田氏など積極財政派が選任された。
反減税派は依然健在、大手新聞の社説は批判一色である。
「財政健全化目標が揺らぐ、財政規律の緩みは金利の上昇を招きかねず」(11/5朝日新聞)

「野放図な財政出動は許されぬ」(11/8読売新聞)

「ガソリン減税、与野党は財源に責任を持て」(11/6産経新聞)

「緩む財政規律、収支黒字『単年度でなく数年』 試される市場の信認」(11/7日本経済新聞)
財政健全化路線タカ派、黒田日銀による異次元金融緩和に反対した経済論壇の主流派も健在である。
この人々はアベノミクスを批判しアベノミクスの完成・成就を阻んできた。
東大名誉教授吉川洋氏は「大規模緩和は全てが間違い」(1/11朝日)ととなえ、井堀利宏東大名誉教授は「危機的な財政状況を直視せよ」(8/8日経)との論文を発表し、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いという石破発言を正当化した。
■減税のメリットに目を向ける
それにしても減税を議論するとき、財政赤字増加と将来世代への借金の付け回しというデメリットのみが語られて、メリットがほとんど俎上に上ってこなかったのは不思議である。
減税のメリットは、減税乗数と税収弾性値という2つの変数に依存する。減税乗数とは1の減税がどれだけ最終需要を生むかという変数で、経験的に2~3と見られている。
また税収弾性値とは1%のGDP成長率が何%税収を増やすかであるが、財務省の公式見解はこれまで1.1で、2025年に1.2に修正されたが、それでも著しく実態から乖離している。この点を指摘した日本維新の会前参院議員柳ケ瀬裕文氏への政府答弁(2025年2月4日)で過去10年間の平均税収弾性値は3.23であることが明らかになった。
この2つの変数によって減税が経済と税収にどのような変化をもたらすのか、試算してみよう。6兆円(対GDP比1%)減税すると、最終需要は12兆~18兆円、対GDP比2~3%増加する。
これに柳ケ瀬議員に対する答弁の税収弾性値3.23を乗ずると、税収は6.46~9.69%増加する。2025年の税収を80兆円と見積もると、2026年の税収は5.17兆~7.75兆円増加すると計算される。つまり減税分はまるまる将来の税収増で回収できるのである。

日本はデフレから脱却し、企業は儲かり、税収は見積もりを大幅に上回り続けている。
その結果、税金の取り過ぎが起きたのである。
減税すればさらに消費は増え、税収も、経済成長の高まりによって、むしろ増えていくことが見込まれる。
日本経済の将来は明るく、増税しなくても税の増加が続き、年金や健康保険は安泰という楽観論への切り替えが必要である。そうした楽観論は、株式市場が歓迎するもので、株価を押し上げていく。
※2026年4月22日時点の内容を一部加筆修正しています。

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武者 陵司(むしゃ・りょうじ)

投資ストラテジスト、武者リサーチ代表

大和証券入社後、企業調査アナリスト、繊維、建設、不動産、自動車、電機・エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長に就任。09年、武者リサーチを設立。著書に『日本株の歴史的大相場が始まった!』(ワック)ほか多数。

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(投資ストラテジスト、武者リサーチ代表 武者 陵司)
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