日本人の強みとは何か。パーソナルスタイリストの政近準子さんは「グローバルに通用する日本人の良さは、誠実さやきめ細やかさ、空気が読める力が大きい。
こうした強みは、ファッションにおいても世界から注目を集めている」という――。
※本稿は、政近準子『装力』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
■商談で「相手の服装」が示していること
あなたの前に相手がどのようなファッションで現れるかは、あなたが、その人にとって、どう思われているのか、どういう存在なのかの表現だと考えて間違いないです。
商談の場面、あるいはデートなどプライベートなシーンでも、待ち合わせて会った瞬間に「少しちぐはぐだな」と感じることがあります。
その多くは、趣味や好みの違いもありますが、実はフォーマル度、格式の差による違和感から来る感覚です。
たとえば自分はきちんとした雰囲気でその場に臨んでいるのに、相手がラフすぎる装いで現れたら、「自分は軽んじられているのでは?」「大切にされていないのでは?」と無意識に感じてしまうものです。
逆に、相手が端正な服装なのに、自分は大雑把な装いなら、相手は「自分は大切に思われていないかも」と無意識に感じてしまうかもしれません。
ここで大事なのは、カジュアルが悪いということではなく、「相手と場の格式に合わせる想像力を持てるかどうか」です。
■人生や仕事を大きく動かす「装力」とは
目の前の人は、自分を映す鏡でもあります。
「なぜかいつも蔑ろにされている」あるいは「自分に興味がないのだな」と感じるときは、実は自分自身が相手や場への敬意を欠き、内面の整えを怠っていることを相手が示してくれているのかもしれません。
服装はもちろん、日々を丁寧に過ごすようにすることです。
そうすると、不思議と周囲も変わっていきます。
やがて相手も自然に「装力」を高め、互いに居心地のよい場や対話が生まれるのです。
私は仕事柄、相手がどんな装いで来るのかをかなりの確率で言い当てられるのですが、それは「大切に思えば、自分もまた装力をもって応える」という循環が、習慣として身についているからだと思っています。
「装力」とは、相手を尊重しつつも自分を失わず、お互いが気持ちよく立ち会える着地点を想像する力です。
その結果が、信頼を育み、人生や仕事を大きく動かしていくのです。
■グローバルに通用する「日本人の良さ」
相手や場と響き合い、ともに価値を高める装いであること。
それが「装力」の“発露”です。
そして「装力」の発露とは、心や感情、隠れたものが外見に現れること。
それを「佇まい」といいます。
「装力」は、アメリカ式のイメージコンサルティングから生まれたものではなく、日本発の考え方であることが特徴的で、趣が違います。
日本特有の美意識や生き方に根ざした思想を大切にしています。
アメリカで必須スキルの自己アピール力は、もちろん日本人でも大事ですが、グローバルに通用する日本人の良さは、実は誠実さやきめ細やかさ、空気が読める力が大きいとされます。
たとえば、誰もが電車に乗る際などに自然に順番を待てたり、見知らぬ人の落とし物を警察に届けたりするなどの日本人の習慣は、「自分さえよければいい」という精神では至らない美点であり、その性質を海外から高く評価をされています。

日本には古来より「わびさび」という、余白や簡素の中に美を見出す感覚があり、これらは品格やエレガンスに通じるものです。
また「温故知新」という言葉に象徴されるように、過去の伝統を尊びながら新しい価値を生み出す文化を大切にしてきました。
さらに「おもてなし」という精神に表れるように、相手や場を思い、和を尊ぶ心があります。
「装力」とは、まさにこれらの思想を土台にした、日本発の普遍的な概念です。
■なぜ皇室は世界から尊敬を集めるのか
そして、これらの哲学は日本だけでなく、いま世界が見習おうとしています。
その象徴的な一例が、東京・上野の国立西洋美術館の「モネ 睡蓮のとき」を鑑賞された、天皇ご一家の写真に表れています。
天皇陛下は深い紺色のスーツに臙脂色のネクタイを合わせ、品格と安定を体現されています。雅子さまは気品ある臙脂色のスーツで華やかさと力強さを示され、愛子さまは伝統的なグレンチェックのスーツに臙脂色のインナーを合わせ、凛とした誠実さを伝えています。
三者三様の装いでありながら、共通して臙脂色をまとうことで互いを響き合わせ、空間全体に調和を生んでいるのです。実際、背景の壁の色と臙脂色を合わされたそうです。
まさに「響装」とは、このように違いを尊重しながらも、場の価値を共に高める姿勢をさします。
ご家族の仲の良さも自然と伝わり、見る人は温かな気持ちにもなりますね。

この哲学は日本だけでなく、いま世界が感動し見習う、新しい普遍性を持っているのではないかと、私は思っています。
■装いも「類は友を呼ぶ」
「目は口ほどにものを言う」と言いますが、私は「服は口以上にものを言う」と思っています。
服そのものがあなた自身であること、また家族や友人、所属している会社やコミュニティの一員である以上、あなたの服装が自分以外の仲間の価値まで上げたり下げたりしている可能性があることを心しておく必要があります。
「類は友を呼ぶ」とも言いますが、中身がなく本質ではない服装をする人のまわりには、同じような人が集まってきます。
たとえばブランドの背景、歴史などの深さや成り立ちを理解しようともせず、ブランドの名によって自分を上げようとする人の周囲には、同じような人が集まります。
あるいは「自分なんて」と卑下している人の周囲には、自分に自信が持てず、マインドレスな服の選び方をする人が集まります。
こういった人たちは、「皆がそうだから」という他責が、服にそのまま出てしまうのです。自分は内心ではそれが本当にいいとは思っていなくても、波風立てないように周囲に合わせてやりすごすうちに、服もまた売れ筋を安心して着てしまうような仲間が集まってしまうのです。
このケースは、互いが一種の“安心存在”なので、誰かが輝き出すと嫉妬してしまうような関係性になり、互いの価値を上げ合えるような人々はつかめません。
逆に、「なぜそれを選ぶのか」と吟味し、たとえ高価なものでなくても、手作りの小物を加えて工夫したり、手入れをして大切にしたりして着ている人の周囲には、おのずとお金では買えない価値をまとうような人が集まるでしょう。
■服装から「社風」がにじみ出る
また、社風と服装はリンクをしています。
自由な空気、堅い雰囲気など、トップのメッセージと写真を見れば、おおよその社風は想像でき、その会社に一歩足を踏み入れれば、どんな人が集まっているのかは、服装とともに一目で伝わってきます。

では、会社に制服がある場合はどうでしょうか。
制服で一見皆が同じには見えますが、ホテルを例にとれば、制服があってもなんとなくだらしなく見えるホテルもあれば、清潔感や信頼感に溢れ、こちらが大事にされているような気持ちになるホテルもあります。
その違いがどこから来るのかというと、ただあてがわれた制服を着ればいいという着方と、制服があっても、装力は伝播し、社風につながる制服によって心にスイッチが入り、そのホテルが大事にしているアイデンティティや誇りをまとっている着方の違いです。それが服装や態度に出てくるのです。
「装力」は伝播し、社風にもつながっていきますから、自分が属すコミュニティの一員であるという意識を持つ必要があります。

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政近 準子(まさちか・じゅんこ)

日本のパーソナルスタイリスト創始者

有限会社ファッションレスキュー代表。日本におけるパーソナルスタイリストという職業を創出し、業界を確立。大手アパレル勤務後、イタリアで研鑽を積み、帰国後に独立。累計2万人以上の装いを支援し、主に政治家・経営者・起業家など社会の第一線を担う人々のスタイリングを手がける。業界初となる百貨店でのパーソナルスタイリング常設カウンターを実現。NHK「あさイチ」「おはよう日本」ほか多数メディア出演。Eテレではファッション教育番組を担当。
企業研修や講演はマッキンゼー・アンド・カンパニー、JR東日本、三井ホームほか多数。大学での講義も行い、次世代教育に力を注ぐ。

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(日本のパーソナルスタイリスト創始者 政近 準子)
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