資産を守るにはどうすればいいのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「普通のインフレであれば、株や不動産を買っておけば資産を守ることができる。
しかし、私が危惧している円の価値が大暴落するハイパーインフレや、長期にわたって高インフレが続く事態が起きた場合、こうした防衛策が有効とは思えない」という――。
※本稿は、藤巻健史『物価高・円安はもう止められない!』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■資産防衛の「ベストの選択肢」とは
私が考える資産防衛のベストの選択肢は、ドル建ての「マネー・マーケット・ファンド(MMF)」です。アメリカでは、銀行預金よりもMMFのほうが規模も大きく安定的で、利回りも良いというのが、その理由です。
MMFは、償還までの期間が非常に短い債券や短期金融資産を組み入れて運用しているため、元本割れリスクが極めて低いのが特徴です。
また、日本の証券会社や銀行でかんたんに購入できる点も魅力です。26年1月末時点の分配率(利回り)は、運用会社によって若干の差はありますが、おおよそ3.2%近辺で推移しています。
もちろんドル建てなので、日本円で投資した場合は、為替レートの変動によって、円ベースの収益性は大きく変わってきます。円安が進めば、分配金に加えて為替差益を得られるのでリターンが増えます。逆に、円高が進めば、分配金があっても為替差損のほうが大きくなり、損失が出ます。
ハイパーインフレや高インフレの長期化、円の価値下落に備えるのであれば、ドル建てMMFに資産を移しておくことが資産防衛策の最優先施策になります。
ドル預金に対して最大のメリットは、外貨預金の為替益が総合課税になり確定申告が必要になる可能性もあるのに対し、MMFは20%源泉分離で確定申告も必要ない点です。
現在、5%、10%の所得税の方でも、私が予想するようにドル円が暴騰すると大儲けとなり、総合課税だと簡単に45%の税率にいってしまう可能性もあるからです。
■米国債よりMMFのほうが低リスク
もし、米国のインフレを気にするのであれば、MMFに加えて、米国債券ベアファンドの購入を検討してみてはいかがでしょうか。このファンドは、米国債券の価格が下がる=金利が上がると利が得られますので、インフレ対策になります。
ちなみに、ベアは熊で、熊は攻撃するときに上から下に爪を振り下ろすので、価格が下落するマーケットをベアマーケットと言います。他方、ブルは牡牛で、牡牛は攻撃するときに下から上に角を振り上げるので、価格が上昇するマーケットをブルマーケットと言います。
ですから、ベアファンドは、価格が下落するときに利が得られるファンドで、ブルファンドは逆に価格が上昇するときに利が得られるファンドになります。
ドル資産をもつという意味では、米国債を買うという選択肢もあります。米国債もドル建てなので、円の価値が下がるリスクを回避することができます。
ただ、トランプ政権は財政出動に重きを置いた政策を優先していますし、アメリカのインフレが進み、金利が上昇すると、債券市場で売買されている米国債の価格は下がります。
今後の金利上昇リスクを考えれば、米国債よりもドル建てMMFのほうがリスクは低いと言えるでしょう。
■株や不動産で資産は守れるのか
米国債をお買いになりたいのであれば、再び米国がインフレになっても(ドルでの)値下がりの小さな短期債に限ると思っています。
インフレに備える資産防衛策として、一般的には株や不動産を買うことが推奨されます。
26年に入って、日経平均株価が最高値を更新し続けているのも、インフレを見越して買い進めている投資家や機関投資家が多いからというのが理由の1つでしょう。
日本のインフレが普通のインフレであれば、株や不動産を買っておけば資産を守ることができます。しかし、私が危惧しているのは円の価値が大暴落するハイパーインフレや長期にわたって高インフレが続く事態です。
10%超のインフレが何年も続いたときに、製品やサービスの価格がどこまで上がるのかわかりませんし、それによるショック(危機)が日本経済にどれほど大きな悪影響を及ぼすのかも読めません。
株価や不動産価格がどう動くのかもわからず、したがって、株や不動産を買っておくことが資産防衛策になるのかは正直なところわかりません。
たとえば、1997年のアジア通貨危機のとき、韓国も通貨危機に陥り、国際通貨基金(IMF)の救済を受けました。このとき韓国の株価は約3分の1に大暴落しました。
■円暴落でも生き残る企業の選び方
ローンで不動産を購入していた人たちの中には、失業して返済が滞り、不動産を担保として取られた人もいます。また、投資目的で不動産を購入した人であっても、借り手が失業すれば家賃が入ってこないため、毎月のローン返済ができず、不動産を手放す結果になった人もいます。こうした実例を見ると、株や不動産を買うことが、通貨危機のようなハイパーインフレ対策になるとは、ちょっと思えません。
日本企業の株の場合、その企業が今回の危機で業績不振に陥り、仮に倒産してしまえば株は紙くずになってしまいます。特に、日本国内だけで事業を展開している企業は、日本経済の影響をもろに受けますので危険です。
将来的には景気が良くなるとしても、それ以前に企業がなくなってしまえば元も子もありません。
日本企業の株を買うのであれば、海外で事業を展開しており、海外に多くの資産をもっている企業を選んだほうが良いでしょう。外貨資産をもっていれば、円が暴落しても生き延びられる可能性があります。
個人が外貨資産をもつことがインフレ対策になるように、企業も外貨資産をもつ、あるいは海外で事業を展開しドル収入があることがインフレ対策になります。
不動産は、一時的に価格が急落したとしても、時間はかかるかもしれませんが価格が戻る可能性が高いと言えるでしょう。とは言え、それも需要のある不動産に限られますが。
■住宅ローンは固定金利の一択
日本の住宅ローンについても言及しておくと、住宅ローンの金利を変動金利で借りている人は、固定金利に借り換えることをおすすめします。なぜでしょうか。
日本銀行は、政策金利を0.75%に引き上げましたが、金利を上げれば上げるほど、日銀の財務状況は悪化します。ゆえに、日銀はこれ以上政策金利を上げられないというのが、私の見立てです。
ただし、だからと言って、金利変動型の住宅ローン金利も上がらないと考えるのは間違いかもしれません。インフレ期は基本的に好景気なので、お金を借りて事業を行うと、借金以上の利益を出せます。
事業資金の需要が増加し、金利を上げても借り手がいるのであれば、資金を貸す銀行は貸出金利を上げます。そのほうが銀行は儲かりますから当然です。住宅ローンの金利もそれにつれて上がることになります。
日銀が政策金利を上げないのに金利変動型の住宅ローン金利が上がる、すなわち日銀が短期金利をコントロールできなくなるなど、かつては笑い話でしたが、ここまで日銀財務が悪化すると、その可能性も十分にあると思います。
■「S&P500」「オルカン」の落とし穴
これが、日銀が政策金利を上げられなくても、住宅ローンは固定金利にしておいたほうがいい理由です。もし変動金利が急騰すれば、住宅ローンを払えずに破産する恐れもあります。
確かに、現在の金利相場で変動金利と固定金利の住宅ローンを比較すると、変動金利のほうが低いですが、その差は保険料だと思って、あえて金利が高い固定金利型に切り替えておくのが得策ではないでしょうか。
借金をして不動産投資をするにしても、ドル建てMMFを買ったうえで行う。ドル資産と不動産という両建てにしておいたほうがいいと思います。
日本では24年1月からNISA(少額投資非課税制度)の制度が見直され、S&P500をはじめとする米国株インデックス投資が人気を集めています。
現在も、S&P500やオール・カントリーといった株価指数連動型の投資信託は非常に強い資金吸収力をもっています。
大きな資産を築くためには、強い国のリスク資産をもつのが手っ取り早い方法で、実際、アメリカのこの手のリスク資産は、2000年から比べるとゆうに10倍を超えています。
しかし、ここまで値上がりすると、いつ本格的なクラッシュが生じるかわかりません。その点は考慮に入れておいたほうがいいでしょう。
■「伝説のトレーダー」が最も大切にしていたこと
もし、これから米国株式へ投資を行うのであれば、日本のバブル時の投資家のような「イケイケどんどん」スタイルはやめるべきです。こわごわと、こまめに少額であっても利益を確定させる投資に徹したほうが無難です。
そして、アメリカの株価が何かの理由でクラッシュしたときこそ買い時で、そのときは全力で買いを入れても良いかもしれません。もちろん、こうした投資判断はご自身の責任で行ってください。私は一切その責任を負いません。あしからず。
私はモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)に約15年間在籍していましたが、トレーダーとして最も大切にしていたのは長期的視点で物事を見て考えることでした。
長期的ポジションで102の利益を出し、短期トレードで2の損失が出て、トータル100の利益を出していました。短期トレードでもうけるのは無理なのですが、それでも短期トレードを行うのは、アドレナリンを常時出しているためでした。
■個人投資家は長期視点に徹せよ
1年に1回ぐらい大きな勝負をすることになるのですが、それはやはりとてつもなく怖いことで、アドレナリンが出ていないといざというときに足を踏み出せないのです。
だから損失覚悟で短期トレードも並行して行っていました。
しかし、一般の個人投資家は、アドレナリンを出す必要はありません。長期的な視点で経済の動きをよく見て投資を行えば、大損することはなく、資産を少しずつ増やせます。
短期トレードは、ときに大きくもうかることもありますが、大きな環境変化やマーケットの変化に気づくことができず、大損してしまうことも多々あります。
個人投資家にとって一番重要なのは、経済や金融の基本的な仕組みを理解したうえで、動きを見ながら長期投資を行い、大きな波に乗ることです。
世界における日本のGDPの順位や経済成長の現状、日本の財政状況、日銀の財務状況など、「私には関係ない」などと思わず、日頃からさまざまなニュースに目を通し、経済や金融に関する知識や知見を地道にグレードアップしていくことが資産運用では非常に重要になります。このことは覚えておいてほしいと思います。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)

フジマキ・ジャパン代表取締役

1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年、24年から25年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中綬章受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)
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