厚生労働省の統計によると、日本人の死因第1位はがん、第2位は心疾患。糖尿病の研究をする山田悟さんは「日本のみならず世界で心不全患者が増えているのは、高齢化や肥満だけではなく、糖質の摂取の仕方にも原因があるのではないか」という――。

※本稿は、山田悟『糖質老化』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■食後血糖値が続く「糖質疲労」
ランチを取った後に眠くなる、食事の後にだるい、頭痛がする、満腹にならないといった、「糖質疲労」を感じていながら、糖質を減らす食べ方にまだ取り組まれておらず、食後高血糖が続く状態は、細胞や臓器に変化を起こします。
「食後眠い」とか「ランチの後にボーッとする」といった「糖質疲労」がいわば感覚的なものである一方で、「糖質老化」とは、そんな食後高血糖が長く続くことによる、細胞や臓器の悪しき変化とお考えください。
食後高血糖状態が慢性的になると、からだの中では「糖化×酸化」により糖質老化が始まります。
糖質より脂質を有効活用する「脂質起動」ができていない人も――書籍『脂質起動』に、糖質疲労を解消する食べ方の詳細を書きました――これから糖質老化が本格化する恐れがあります。
■100歳以上の人に糖尿病は少ない
糖尿病(2型)も糖質老化によって生じるものと言えるかもしれません。実際、日本人では、糖尿病の患者さんの平均寿命は、そうでない人と比べて男性で約7年、女性で約10年短いと言われています[J Japan Diab Soc 2024; 67: 106-128]。それだけ老化が早いと言えるのです。
100歳以上の百寿者の研究をしている慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターによると、百寿者には糖尿病が少ないこともわかっています[J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2007;]。
普段の生活で無意識に糖質老化を避けているため、老化スピードが遅くなり、100歳を超えても元気に暮らせている可能性があります。
■病気に直結する果糖は「老化糖」
糖質はエネルギー源になりますが、果糖だけは全身のエネルギー源にはならず、代わりに体内で様々な反応を起こします。
その反応の多くは、古代においては冬に備えるための生存に適した反応だったはずなのですが、飽食の現代においては過剰で生存にネガティブな影響を与えるものです。
糖質老化を進める老化糖以外の何ものでもないのです。
果糖は、糖質老化の元凶であるAGEsをブドウ糖の数倍のスピードで発生させます[Am J Clin Nutr 1993; 58 (5 Suppl):779S-787S]。
■世界的に心不全が急増している
近年、世界的に心不全の患者さんが著しく増えています。これを「心不全パンデミック」と呼ぶ専門家もいるほどです[JMA J 2019; 2: 103-112][iScience 2023; 27: 108641]。
原因として高齢化や肥満、糖尿病の増加が挙げられていますが、最近、新たな“容疑者”して注目されているのがこの「果糖の摂りすぎ」です[Diabetes 2016; 65: 3521-3528]。
果糖を摂りすぎると、まず肝臓で中性脂肪がどんどんつくられます。それが脂肪肝やインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)を引き起こし、動脈硬化や高血圧へとつながって、心臓に負担をかけます。
ところが最近の研究では、果糖が心臓をもっと“直接的に”傷めることもわかってきました。
高血圧や心臓の病気などで心臓に負荷がかかると、心臓をつくっている心筋細胞が果糖を積極的に取り込んで燃料として使い始めます。問題は、果糖の代謝にはブレーキがないことです。
心筋細胞が果糖を使い続けることで、心臓が異常に肥大し、心機能が低下して、心不全が進んでいく――そのような悪循環が起きることが、スイスの研究チームによって明らかにされました[Nature 2015; 522: 444-449]。
さらに最近の別の論文では、果糖を多く与えると心機能や血管の異常が生じることが報告されています[Tappia PS et al. Can J Physiol Pharmacol 2026; 104: 1-10]。

もちろん、心不全の原因は一つではありません。しかし、世界中で果糖を大量に含む清涼飲料水や加工食品の消費が増えている現状と、心不全パンデミックの広がりは、無関係とは言えないのです。
■痛風にも果糖が関わっているか
お酒の飲みすぎで陥るというイメージが強い「痛風」にも、果糖が大きくかかわっている可能性があります。
痛風の発端は、血液中の尿酸濃度が高くなる高尿酸血症です。尿酸値が高くなると尿酸が血液に溶け込めなくなり、尿酸ナトリウムとして結晶化します。この結晶の刺激で足の親指の付け根などが炎症を起こし、痛風発作を発症するとされます。
高尿酸血症は、動脈硬化や心臓病、高血圧や慢性腎臓病、糖尿病のリスクと関連することが指摘されています。
■体内のプリン体→肝臓→尿酸
体内で尿酸の原料となるのはプリン体という物質です。プリン体が肝臓で代謝されると尿酸が生じて血中へ送り出されます。
プリン体は食べものにも含まれています。魚卵や肉などにもプリン体は多く含まれていますが、個人的な印象としては、食品中のプリン体で高尿酸血症に陥るわけではありません。
それよりも問題なのは、果糖の摂取です。
果糖が肝臓で代謝される際、ATPが大量消費されます。このATPの“燃えカス”(AMP)が増えすぎると、AMPから尿酸が盛んにつくられるようになり、高尿酸血症に陥るのです[J Am Soc Nephrol 2009; 20: 545-553][PLoS One 2012; 7: e48801]。
果糖は脂肪肝の源になるばかりか、高尿酸血症や痛風の元凶でもあると言えます。
■血糖値が高いと、腎臓が果糖を作る
通常、口から摂った果糖は、肝臓で脂肪に換えられます。そのため、血液の中にはほとんど流れ出てきません。
AGEsは血液中の糖がたんぱく質と結びつくことで生まれるものです。血液中に果糖がほとんど存在しなければ、たんぱく質と出会う機会も少なくなります。果糖がブドウ糖より何倍もAGEsを生みやすい性質をもっていても、そもそも血液中の量が少なければ、実害はそれほど大きくないはずです。
けれど、糖質過多で血糖値が高い状態だと、話は変わります。腎臓で自ら果糖をつくるというとんでもないサイクルが回り始めるからです[J Am Soc Nephrol 2014; 25:2526-2538]。
通常、インスリンが分泌されると、筋肉などに血糖を取り込ませて血糖値を下げようとします。インスリンの作用が不十分だと、糖質を摂った後に血糖値が高い状態が続いて下がりにくくなります。

■尿に糖がまじり、糖質老化が進む
その状況が続くと、腎臓は血糖値を下げる裏ワザを発動させるようになります。
1つは尿糖を排泄すること。おしっこにブドウ糖を捨てるという裏ワザです。そして、もう1つの裏ワザがブドウ糖を取り込んで果糖に変換するというものです(これを「ポリオール経路」と呼びます)。
こうして腎臓で自家生産されてしまった果糖は血中に放出されます。そしてAGEsをつくり出すなどして糖質老化を促してしまうのです。
ジョンソン教授の説によれば、このルートが活性化されると、果糖を食べすぎていなくても、糖質全体を制限しない限り、からだは老化糖である果糖からのダメージを受け続けることになるのです。

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山田 悟(やまだ・さとる)

医学博士/北里大学北里研究所病院 糖尿病センター長

1994年、慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では、食べる喜びが損なわれている事実に直面。患者の生活の質を高められる糖質制限食に出会い、積極的に糖尿病治療へ取り入れている。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医・研修指導医、日本医師会認定産業医。『緩やかな糖質制限 ロカボで食べるとやせていく』(幻冬舎)、『糖質疲労』『脂質起動』(ともにサンマーク出版)、『適正糖質のトップドクターが教える ゆるやかな糖質制限 最強ランチレシピ』(プレジデント社)など著書多数。


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(医学博士/北里大学北里研究所病院 糖尿病センター長 山田 悟)
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