■依然赤字は続くも、株価は絶好調
長きにわたり低迷を続けてきたCPU最大手のインテルが、ここにきて反転攻勢の兆しを見せている。
4月23日に発表された同社の2026年1~3月期(第1四半期)決算は、最終損益こそファウンドリ(受託製造)部門の影響により37億2800万ドルの赤字だったものの、売上高は135億7700万ドル(前年同期比7.2%増)、粗利率は41.0%(前年同期は39.2%)と着実に改善。
第2四半期の業績見通しに関しては、売上高138億~148億ドル、EPS(一株当たり純利益)0.2ドルと、市場予想(売上高約131億ドル、EPS0.09ドル)を大きく上回る強気の水準が示された。
さらに、同日の決算説明会ではデビッド・ジンスナーCFOが「AI関連事業は売上の60%を占め、前年比で40%成長した」「CPUは、AI時代の不可欠な基盤としての地位を再び確立しつつある」など、業績見通しに関する強気の発言を展開した。
これら一連の発表を受け、同社の株価は急騰。24日の終値は前日比24%増となる82.57ドルまで上昇し、ITバブル期(2000年8月)の記録を抜いて史上最高値を更新した。さらに5月に入ってもその勢いは止まることを知らず、足元の株価は100ドルを優に超える水準で推移している。
わずか1年前には企業の存続すら危ぶまれていたインテルが、一体なぜここまで市場の期待を集めるに至ったのか。その背景にはいくつかの要因が存在している。
■「AIエージェント」の普及でCPUがより重要に
要因その① AI開発のフェーズシフトに伴うCPU需要の急増
一つ目は、現在進行形で進むAI需要の質的変化に伴う、CPU需要の急増と価格高騰だ。
これまでのAIブームを牽引してきたのは、巨大なデータを読み込ませて基礎モデルを作る「学習」であったが、2026年現在、AI開発のフェーズは、完成したAIを実際のサービスとして運用する「推論」、とりわけ人間に代わって自律的に複数のタスクを計画・実行する「AIエージェント」の本格普及段階へと急速にシフトしている。
これまでの「学習フェーズ」では、半導体の主役は膨大な「並列処理」を得意とするGPUだった。しかし、AIエージェントの運用においては、ユーザーの曖昧な指示の解釈や、外部データベースの検索、さらにはシステム間の連携や指示出しなど、複雑に条件分岐したタスクの「直列処理」が重要となる。そのため、汎用的な処理能力に長けたCPUの重要性がここにきて再注目され、急速に需要が高まっているのだ。

この点に関して、インテルのリップ・ブー・タンCEOは、23日の決算説明会で「かつてAIサーバーにおけるCPUとGPUの使用比率は1:8だったが、現在は1:4であり、将来的には同等かそれ以上の水準になる」と強気の見通しを示した。
また、台湾の調査会社トレンドフォースも4月中旬のレポートで「CPUの需要は従来の4倍に跳ね上がり、将来的にはCPUとGPUの比率が1:1~1:2の水準までシフトする」との予測を示しており、CPU需要の高まりが一過性ではなく、かつ爆発的なものとなることを示唆している。
■「CPUが足りない」…AI特需で価格が30%上昇との予測も
この急速な需要拡大は、販売数量の増加のみならず単価の上昇にもつながっている。
インテルをはじめとするCPUメーカーの生産能力は足元の需要拡大ペースに追いついていないのが実情で、業界関係者の証言として報じられたところによれば、サーバー向けCPUのリードタイム(発注から納品までの期間)は従来の1~2週間から、最大で半年近くにまで長期化、2026年生産分はすでにほぼ完売状態にあるという。
この極端な需給逼迫を受けてインテルは年初より段階的な価格引き上げを実施しており、2026年の累積値上げ幅は前年比で最大30%に達するとの観測も示されている。
現在のCPU市場では、長年のライバルである米AMDがじわじわとシェアを拡大しているほか、半導体設計分野のトップ企業である英アームも満を持して自社製CPUの販売に乗り出すなど、インテルの存在感はかつてほど圧倒的ではない。
しかし、4月にはGoogleが次世代AIインフラの開発におけるインテル製CPUの採用、および複数年にわたる協業拡大を発表するなど、依然として重要な地位を占めていることは間違いない。そんなインテルが、CPU需要急増の恩恵を最も大きく受ける企業の一つであることは疑う余地がないだろう。
■ファウンドリ部門に明るい兆し
要因その② ファウンドリ部門の歩留まり改善と超大型顧客の獲得
二つ目は、長年にわたりインテルの最大の悩みであった「ファウンドリ部門の顧客獲得」について、ようやく明るい兆しが見えてきたことだ。
具体的事例の一つが、昨年末に量産を開始したばかりの最先端プロセス「18A(1.8ナノ級)」に関する報道だ。18Aプロセスに関しては、昨年夏の時点でタンCEOが歩留まりの不安定さに懸念を示しており、同プロセスを「自社製品の製造」に限定する方針を示唆していた。
しかし足元では、米国の投資銀行から「歩留まりは商業的な採算ラインである60%を安定して超え、競合であるサムスンの同世代プロセス(40%未満)を上回った」との分析が発表されるなど、技術進捗を示唆する情報も出てきており、タンCEOもこの結果を踏まえ「外部顧客への提供」に向けた方針の再転換を検討しているという。

現時点では18Aプロセスの外部顧客に関する公式発表は出ていないものの、有力候補とされるのがAppleだ。5月8日、米紙Wall Street Journalは、両社が製造委託について暫定合意に達したと報じた。
さらに、最も市場の期待値を高めたのが、イーロン・マスク氏が掲げる「Terafab(年間1テラワット規模の計算能力を生産する超大型のAI半導体工場)」構想への参画だ。
■復活のカギを握るイーロン・マスクの“1190億ドル計画”
マスク氏は4月22日、テスラの決算説明会において、「Terafabの製造技術として、インテルの次世代プロセス『14A(1.4ナノ級)』を採用する」と明らかにした。
14Aについては一部で開発進捗の遅れも噂されてきたが、ジンスナーCFOは3月時点で「2027年リスク生産に入り、2029年に量産開始」という当初の計画通りに進捗していることを強調、マスク氏も「Terafabが本格稼働するころには、14Aはおそらくかなり成熟しているか、実用段階に入っているだろう」と、インテルの技術力に対する信頼を示した。
もちろん、14Aが本当に安定量産を実現できるかは未知数であり、そもそもTerafab自体も実現には相当高いハードルが見込まれる案件ではある。しかし、初期投資だけで550億ドル、総投資額は1190億ドルに及ぶといわれる超巨大プロジェクトの主要パートナーに選ばれたことは、インテルにとって、単なる「巨額の売上獲得」だけに留まらない意味を持つ。
実現すれば、大規模量産を通じた最先端プロセスの早期習熟や、さらなる顧客獲得に必要な実績の確立など、同社のファウンドリ事業の飛躍に直結しうるものであり、まさに最大の好機を得たといってよいだろう。
■巨大テック各社が「前払い」してでも欲しがる技術
要因その③ 先端パッケージ領域における勝機
三つ目は、前工程のみならず、先端パッケージ領域においてもインテルに勝機が生まれていることだ。
AI半導体の性能向上には、前工程における微細化だけでなく、複数のチップを一つのパッケージ内に統合して高性能な半導体を作る「先端パッケージ」の技術が欠かせない。一方で現在、世界の先端パッケージ市場はほぼTSMCの「CoWoS」技術が独占している状態にあるが、エヌビディア1社だけで全体キャパシティの6割超を占めるなど、市場の需要に供給がまったく追いついていないのが実情だ。
さらに、CoWoSの製造拠点は、TSMCが海外進出を果たした現在も依然として台湾内に集中しており、地政学的リスクの観点からも「セカンドソース(第2の供給源)」を求める声は多かった。

そのため足元では、GoogleやAmazonといった巨大テック企業が、自社開発のカスタムAI半導体の製造において、インテルの先端パッケージ技術「EMIB」の採用を本格的に検討しているという。ジンスナーCFOは3月時点で、「一部顧客から(キャパシティ確保を目的とした)前払いを受け入れるための準備を整えている」と述べており、別の関係者によれば、受注額は全体で数十億ドルに達する見込みだという。
■ニーズに合わせたビジネスモデルの転換もいとわず
「前工程は他社に任せ、先端パッケージ工程だけを受託する」というのはこれまでのインテルにはなかったビジネスであり、関係者曰く「大きな発想の転換」だが、裏を返せば、それだけインテルの先端パッケージに対する市場の期待や引き合いが強いことの表れでもある。
ジンスナーCFOによれば、先端パッケージ事業の粗利率は約40%と、他の自社製品と遜色ない水準にあるという。18Aなどの前工程部分が安定した収益を上げられるまでにはまだまだ時間を要すると見込まれるなか、先端パッケージ事業はインテルがAI特需の恩恵を享受するための最短領域、かつファウンドリ事業再建の柱として、非常に重要な位置付けにあるといえよう。
以上のように、インテルを取り巻く状況は、存続すら危ぶまれていた1年前からは想像もできないほどに好転している。
同社の市場評価の劇的な高まりが、「AIの推論シフトに伴うCPU需要の再燃」、および「地政学リスクの高まりを受けたセカンドソース需要の拡大と半導体製造の米国回帰の機運」など、外部の環境変化に恵まれた結果であることは間違いない。
しかし、技術革新が著しく、絶えず環境が変化し続ける半導体業界において、自社の強みを活かせる潮流を逃さず掴むのが何よりも重要であるということは、AIの学習フェーズにおけるエヌビディア、そして過去のPC時代におけるインテル自身が証明してきたとおりだ。
■再起を図るかつての王者に日本企業が学ぶこと
加えて、潮流を掴んだ背景には、最先端プロセスや先端パッケージなど、強みとなり得る技術への継続的な投資と研鑽に加え、米政府の出資受け入れにみられるような自らの地政学的ポジションの最大活用、そして「先端パッケージ工程のみの受託検討」に象徴される現CEO体制下での企業文化の柔軟な変革など、インテル自身の努力があったことも忘れてはならない。
こうしたインテルの姿は、グローバル市場での復権を模索する日本の半導体産業にとっても重要な示唆となる。
折しも、足元のAI市場では、サイバー空間でのデータ処理から、自動運転やロボティクス、スマート工場といった現実世界で稼働する「フィジカルAI(エッジAI)」のフェーズへの移行が進み始めるとともに、爆発的な増加を続ける電力消費の抑制が最重要課題となっている。
これらの分野は、イメージセンサーなどの「知覚デバイス」、電力効率化に寄与する「パワー半導体」や「先端パッケージ素材」、そして長年積み上げてきた「製造業・ロボティクス基盤」など、日本の強みを存分に活かせる領域である。

インテルが時流の変化を巧みに捉えて復権への道筋を描いたように、日本企業にも、自らの強みを最大限に活かし、目前に迫る好機を逃さぬための大胆な技術投資や戦略的な立ち回りが求められているといえよう。

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小林 泰斗(こばやし・たいと)

伊藤忠総研 副主任研究員

2013年東京大学法学部卒業。同年に三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、産業・政策調査等に従事。2024年1月より伊藤忠総研にて、半導体産業の調査を担当。

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(伊藤忠総研 副主任研究員 小林 泰斗)
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