アメリカ現地時間9月29日、U2はラスベガスの新たなコンサート会場「スフィア」(Sphere)でのこけら落とし公演である、『Achtung Baby』の記念公演『U2:UV Achtung Baby Live At Sphere』をスタートさせた。今回のレジデンシー公演は、2019年12月に『The Joshua Tree Tour 2019』が終了して以来、約4年ぶりのコンサート。
当日は『Achtung Baby』収録曲のほか、同日にリリースした2年ぶりの新曲「Atomic City」など22曲を演奏した。当日の現地レポートをお届けする。

ラスベガスで開催された「スフィア」のオープニング・ナイトは、多くのことを象徴していた。ジェームズ・ドーランと彼のビジネス・パートナーにとっては、20億ドルの投資を世界に紹介する機会だった。ライブ・ミュージック業界にとっては、ビートルマニアの時代から巨大コンサートを開催してきたスタジアム/アリーナ以外で、巨大コンサートが成功するかどうかを確かめるチャンスだった。そして、ラスベガスにとっては、今後何年にもわたって観光客を呼び込むことになる壮大な新アトラクションの試運転だった。


一方のU2にとって、今回のレジデンシー公演はまったく別の意味をもっていた。長年の活動休止と、大きな熱を生み出せなかったニュー・アルバムの後にバンドを再起動させ、ラリー・マレン・ジュニアが背中の手術から回復する間に代理ドラマーのブラム・ヴァン・デン・ベルクを迎え入れ、過去最大のヒット作の一つ『Achtung Baby』を完全な形で再訪することで、バンドが進むべき道を見出す機会だった。

U2、「新時代のコンサート」でラスベガスを席巻 歴史的一夜の総括レポート

「スフィア」は外側がLEDパネルで覆われた球体型のコンサート会場。高さ366フィート(約112メートル)、幅516フィート(約157メートル)、外側を58万平方フィート(約53,884平米)の2KのLEDが覆い、内部には16万個以上のスピーカー、120万個のLEDスクリーンの解像度は地上最大の解像度16K、総工費は約3400億円というこれまでにない画期的な会場として話題となっている(Photo by @FlyByChicago)

結論から言うと、どう考えても大成功だった。まばゆいばかりの16K解像度のスクリーンで、18,600人のファンを夜空の星から、シュールにコラージュされたベガスのイメージ、ネバダ州の乾燥した砂漠、Zoo TVの情報過多な空間へといざなったスフィアは、長年の誇大宣伝にどうにか応えることができた。さらにサウンド面も、アリーナ/スタジアムのコンサートにありがちなドロドロした音像ではなかった。
クリアで、鮮明で、清純で、耳栓はまったく必要ない。宣伝通り、これはコンサート表現にとって飛躍的な進歩だった。

最初に会場に入ったときには、そんなことはまったくわからなかった。スクリーンを外した状態だと、世界最大のIMAXシアターに足を踏み入れたような気分になる(ステージの後ろに席はなく、どの角度から見ても視界は悪くない)。ネオンの車に乗ったDJが一般フロアを走り回り、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」、ヒューマン・リーグ「Don't You Want Me」、ビヨンセ「Run the World (Girls)」などの曲をかけて観客を温めたが、観客に「American Pie」を一緒に歌わせようとした彼の試みは、滑稽なほど失敗に終わった。

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Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Live Nation

(現地時間の)午後8時半頃、照明が落ち、U2がレコードプレーヤーのような形をしたコンパクトなステージに登場した。
ラリー・マレン・ジュニア抜きでのライブは、70年代に彼らがティーンエイジャーだった頃以来であり、最初は見慣れなかった。しかし、ヴァン・デン・ベルクが「Zoo Station」のお馴染みのオープニング・ビートを叩いた瞬間、しっかり予習してきたことが明確に伝わった。彼はオリジナル・レコーディングのあらゆる細部まで完璧に再現していた。

この時点では、ボノ、エッジ、アダム・クレイトンの巨大な影が映し出され、スクリーンの可能性を示唆するのみだった。ボノが「The Fly」のサングラスをかけ、”Everything You Know Is Wrong”のようなフレーズが矢継ぎ早に点滅し始めたのは、曲が終わってから。そこでこの会場の凄まじい広さを思い知らされることになる。
スクリーンは観客の視界を遥かに超えているため、すべてを一度に見渡すことは不可能。我々にできることは音楽の旅に加わり、できるだけ多くのことを吸収することだけだ。

壮大な会場と演出、ヴァン・デン・ベルクの貢献

2曲目の「The Fly」は、この30年間がまるでなかったかのような、この夜一番のノスタルジックな瞬間だった。Zoo TVの映像がそのまま使われ、ボノは自身のオルターエゴであるThe Flyになってステージを歩き回る。彼らは一晩中このモードのままで、多くの昔からのファンを喜ばせることもできただろうが、それでは大きく後退することになっただろう。

「Even Better Than the Real Thing」では、エルヴィス・プレスリーのアーカイブから、ジョニー・デップ出演『ラスベガスをやっつけろ』や、ニコラス・ケイジ出演『リービング・ラスベガス』のシーンまで、ラスベガスの映像がトリッピーなコラージュが映し出される。
ステージそのものが天井に向かって移動しているように感じられるほど、それらの映像はあっという間に通り過ぎていった。

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Photo by RICH FURY

「なんてファンシーな会場だろうね」ボノは曲の最後にそう言った。「エルヴィスは間違いなくこの建物にいる。ここはエルヴィスの礼拝堂だ。エルヴィスの大聖堂だ。そうだろう。
そして今夜、この大聖堂に入るには”flirtation(戯れの恋)”というパスワードが必要だった。このあと、僕たちは結婚するんだ。いいね?」

陽気な「Mysterious Ways」から「One」へと移行したときは、スクリーンを消してアンセムだけで会場を満たすという英断を下した。黙示録的な「Until the End of the World」は嵐雲と稲妻が対となり、バンドが30年ぶりにライブで演奏した「Tryin' to Throw Your Arms Around the World」では、ボノがステージを引き回す大きな白い紐に結ばれた風船の映像が映し出された。途中、彼はとても興奮した女性ファンをステージに招き入れ、風船とスイングしながら一緒に歌った。

このまま最後までアルバム収録曲をパワフルに駆け抜けるかと思われたが、その予想は外れた。「俺たちは『Achtung Baby』としばらく距離を置く必要があった』とボノは言った。「お互いを知るために、あの強烈さ(intensity)から離れる必要があったんだ。『Achtung Baby』は難産だった。子供を育てることは大冒険であり、自分を育ててくれるのは子供だということを発見することなんだ」。

「このことは誰にも話したことがなかった」彼は続けた。「この曲は、女性の視点からウェディングソングを書こうとしたものなんだ」

そこからストリップダウンした「All I Want Is You」を皮切りに、「Desire」「Angel of Harlem」、ボノがジミー・バフェット(今年9月1日に死去)と彼の家族に捧げた「Love Rescue Me」の4曲からなる『Rattle & Hum』のミニセットが披露された。その途中、ボノはブラム・ヴァン・デン・ベルグを紹介した。「1978年の10月以来、ラリー・ミューレン抜きでライブをやったことはない」ボノは言う。「彼の代わりを任せられる唯一の男を紹介しよう。ブラム・ヴァン・デン・ベルク! 今日は彼の誕生日なんだ(1982年9月29日生まれ)! 何か言いたいことはあるかい?」

「お間違いのないように」ドラマーはこの夜、ただ一言こう言った。「ラリー・マレン・ジュニアは唯一無二の存在です」。観客は喝采を送った。

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Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Live Nation

『Rattle & Hum』コーナーのとき、スクリーンはほとんど暗転し、再び完全にバンドへと注目が集まった。「毎晩このターンテーブルのうえで、僕らの違うアルバムから曲を演奏するんだ」とボノが言った(これは事前に発表されていなかったが、彼らの全カタログから曲を取り上げる素晴らしい機会だ。彼らが『Pop』ナイトの時間を見つけてくれることを期待しよう。もうずいぶん待たされているのだから)。

1992年以来のパフォーマンスとなる「So Cruel」でショーは『Achtung Baby』に戻り、「Acrobat」と「Ultraviolet (Light My Way)」の激しい演奏が続いた。後者の曲では、実際の紫外線ライトが会場を跳ね回った。そして、「Love Is Blindness」と、30年前に録音したのと同じくらい堂々としたジ・エッジのギターソロでメインセットを締めくくった。

アンコール、ポール・マッカートニーへの敬意

1988年か1991年の曲で占められたメインセットのあと、彼らは再び登場すると「Elevation」で2000年代に突入し、そこから新曲の「Atomic City」、「Vertigo」と続けた。ラスベガスのスカイラインの巨大な映像がスクリーンを埋め尽くし、ビルはゆっくりと何もない砂漠を残して溶けていった。この演出は、『The Joshua Tree』の時間であることを意味しているとしか思えない。

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Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Live Nation

「Where the Streets Have No Name」で観客は総立ちになり、荘厳な「With or Without You」で、我々がいたのと同じような巨大な青いボールを中心にした、砂漠の砂に水が満ちていく映像が流れているあいだ、彼らはずっと立ち続けていた。「ハードワーカーに賛辞を送りたい」最後にボノが言った。「ジェームズ・ドーラン、『スフィア』をありがとう。君はイカれた野郎だ。この素晴らしい場所をありがとう」

それはアーヴィング・アゾフ、ジェフリー・アゾフ、アーサー・フォーゲル、マイケル・ラピーノ、そしてU2の元マネージャーであるポール・マクギネスとガイ・オセアリーを含む、長い謝辞リストの始まりだった。ポール・マッカートニーも会場のどこかにいて、ボノは「Love Me Do」「Blackbird」「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の断片をセットに散りばめることで、一晩を通して彼を称えた。「マッカが僕たちの前にいる」ボノは言った。「この場にモーツァルトがいるようなものだ。あなたの曲は1000年後も演奏されるだろう。僕たちはあなたのことを愛しているし、あなたの曲をたくさん盗んできたんだ」

この日の夜は「Beautiful Day」で幕を閉じ、動物界の隅から隅まで、まるでノアの方舟から飛び出すかのように詰め込まれた生き物たちのカラフルな映像が映し出された(”口に葉をくわえた鳥を見る/洪水の後に全ての色が飛び出した”)。

U2、「新時代のコンサート」でラスベガスを席巻 歴史的一夜の総括レポート

Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Live Nation

これは、U2が12月16日まで「スフィア」で行う25公演のうちの最初の公演である。来年初頭まで滞在期間を延長する可能性も示唆されており、今後のヘッドラインは発表されていないが、Variety誌はハリー・スタイルズがその一人になるかもしれないと報じている。

今後どうなるにせよ、「スフィア」にとって、このU2のショー以上にコンセプトを証明する機会は想像しがたい。このようなものを体験した後、ショボいスポーツ・アリーナでのショーに戻ることを想像するのは、ほとんど苦痛でしかない。

この夜、ポール・マッカートニーは「スフィア」のレジデンシー公演を想像したはずだ。もしそれが実現すれば、ジェームズ・ドーランは20億ドルを取り戻すことに大きく近づくだろう。それまでの間、U2がこのエネルギーをスタジオに持ち込んで新譜を制作することを期待しよう。特に「スフィア」のような場所で数週間、過去に浸るのは楽しいが、世界はU2の素晴らしいアルバムをもう1枚必要としている。彼らは何年も前に『Achtung Baby』で疑心暗鬼の人たちが間違っていることを証明した。今の彼らはもう一度やってのけるかもしれない。

From Rolling Stone US.

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