俳優のジャッキー・チェンさんが9日、微博(ウェイボー、中国版ツイッター)で、香港の民主化要求運動を批判する考えを発表した。「3500億(香港ドル、約4兆8600億円)の損失」、「国が強くなければ、裕福な家などない」などと主張。
新華社など、大陸メディアはつぎつぎに同“つぶやき”を紹介。賛同のコメントが相次いでいると報じた。ただし実際には、批判のコメントも多い。

 ジャッキーさんはまず「ニュースで知ったが、このたびの(運動で)香港の経済損失は3500億(香港ドル)にも達した。(解決を)本当に急がねばならない」と主張。続けて「わたしは、香港人はだれもが香港を愛しており、皆が香港はよくなってほしいと思っていると信じる」と論じた。

 さらに、2008年の北京五輪大会の際に自らが歌った歌曲「国家」の歌詞を引用。「国が強くなければ、裕福な家などない」と主張し、「皆が一緒に努力して理性を取り戻し、未来に向かってほしい。われわれの国を愛し、われわれの香港を愛してほしい」と書き込んだ。

 書き込んだ時刻は9日午後6時52分(日本時間同日午後7時52分)。10日午前になっても、コメントの投稿が相次いでいる。賛同のコメントとしては「兄貴を支持する。
すばらしい」、」「ジャッキー兄貴は中国のイメージ・キャラクターだ。すばらしい」、「芸能人はだれもこういう声を上げないのに」などがある。

 反対の意見としては「なんでまた、共産党や国のために話をするのか。カスであるあなたの可愛い子を放っておいちゃだめだぜ」、「まずは子どもの面倒も見ろよな」、「イメージキャラクターになるのが好きだなあ。(整髪料の)覇王のキャラクターもやった。薬物乱用防止のキャラクターもやった。ただし絶対に香港のイメージキャラクターはやるな」などがある。多くは、8月に息子のジェイシー・チャンが大麻を使用して逮捕されたことにからめた批判だ。

 ジャッキーさんが中国当局と協力関係にあるとの批判も多い。ジャッキーさんを「大五毛」と決めつける書き込みもある。「五毛」または「五毛党」とは、中国当局の依頼を受け、インターネットのコメント欄で当局に有利な書き込みをする人。書き込み1件当たり5毛(=0.5元、約8.8日本円)の「アルバイト料」が支払われるとされることからの命名。
「大五毛」は「五毛党の親玉」程度のニュアンスだ。

 写真は微博におけるジャッキーさんのアカウントのトップページ。書き込みの下には「10月9日 18:52」との投稿日時、「サムソンのギャラクシー・ノートIIからの投稿」との表示があり、「よいね」が7万3607(「よくない」の数の表示はなし)、転送が1万3523件、コメント書き込みが1万2890件と表示されている。

 ジャッキーさんは断続的に微博への書き込みをしていたが、息子のジェイシー・チャンが8月18日に北京市内で大麻使用の疑いで当局に身柄を拘束されてからは、同月20日に謝罪のコメントを2件投稿してからは、書き込みをしていなかった。

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◆解説◆
 1997年の返還以来、中国中央が香港の経済発展のために尽力してきたのは事実だ。特に2002年から03年までの重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)流行で香港が大打撃を受けた後には、香港側と協議を重ね、「大陸へのゲートウェイ」という香港の位置づけと経済発展のモデルを確定し、力を尽くした。

 しかし政治的には、香港における反共産党的な勢力の力を削ごうとの画策を続けたことで、香港人の間では大陸に対する不信感も高まった。さらに、大量の大陸人が香港に押しかけるなどで、ただでさえ高かった香港の住居価格がさらに高騰した。大陸からの受験生が増加したことで、香港人にとって大学がさらに「狭き門」になった。香港での出産を願って大陸から妊娠した女性が大挙押し寄せ、香港人の産院確保が困難になった。

 考えてみれば、「経済全体を押し上げることで、政権に対する不満を低減する」方策は、中国共産党が大陸部で実施した政治手法と同じだ。90年代から2000年代初頭までは大きな成功をおさめたが、その後は急成長によるひずみが目立つようになり、大陸部でも「経済全体を単純に成長させる」だけでは、庶民が納得しないようになった。


 香港でも、同様の現象が発生したとみなすことができる。同様の事態は台湾でも発生した。

 ジャッキー・チェンさんがまず指摘した「3500億(香港ドル)の損失」がたとえ事実としても、経済全体に及ぼす影響だけでは、香港で進行中の民主化運動の是非を判断できるとは思えず、その意味で、限界のある論拠を言わざるをえない。(編集担当:如月隼人)


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