チベット自治区からインドやバングラディシュに流れ込むヤルンツァンポ川に中国がダムを建設したことで、インドでは一部メディアが、土石流をもたらすなどで、インドにとって脅威と報じた。中国政府・外交部の華春瑩報道官は、「中国は長年にわたり、中印友好の大局と人道主義の精神にもとづき、インド側に多くの資料を提供してきた」などと反論した。


 チベット自治区内ではヤルンツァンポ川本流初のダム式水力発電所である蔵木水力発電所が23日、本格的送電を始めた。同発発電所は標高3200メートルの場所にあり、ダムの高さは116メートルだ。

 ヤルンツァンポ川はチベット南部を西から東に向けて流れ、南に転じてインド領内に入る。インド領内では西北西に流れ、再び南に転じてバングラディシュに入りガンジス川と合流し、ベンガル湾にそそぎこむ。インドではブラマプトラ川、バングラディシュではジョムナ川と呼ばれる。

 インドの一部メディアは中国によるブラマプトラ川上流のダム建設は「下流に洪水や土石流ののリスクをもたらす」、「生態環境に悪影響」、「中印が両国が衝突すれば、中国は下流に水を流さない可能性がある」などの理由を挙げ、「インドにとっての脅威」と報じた。

 中国政府・外交部の華春瑩報道官は24日の定例記者会見で、中国は自国内を流れる国際河川の開発と利用で、「責任ある態度を一貫して取り続けてきた、「下流地区への影響を十分に考慮している」、「計画する発電所が下流地区への洪水や生態に悪影響を与えることはない」と反論した。


 華報道官によると、「国際河川の問題について、中国側はインド側との意思疎通と協力を維持し続けてきた」、「「中国は長年にわたり、中印友好の大局と人道主義の精神にもとづき、インド側に多くの資料を提供してきた」、「緊急事態発生時の処理についても、下流域における洪水防止と災害減少のために膨大な作業を続けてきた」という。

 華報道官は、中印両国は2013年に同問題についての覚書を取り交わし、それ以来は専門家の会議も良好に機能していると主張。今年(2014年)に朱金平国家主席が訪印した際の共同声明でも、インド側は同問題についての中国の対応を感謝したと指摘した。

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◆解説◆

 水力発電は石油や天然ガスなど燃料用資源の消費を減らし、地球温暖化の原因になるとの説がある二酸化炭素の排出を減らせる効用がある。しかし、ダム湖の堆積物からは「温室効果」が二酸化炭素の21倍あるメタンが発生するので、「地球温室化抑制効果」がどの程度あるかは疑問とされている。


 また、大型ダムは下流への土砂流出を食い止めてしまうので、エジプトではアスワン・ハイ・ダム建設によりナイル・デルタの縮小という問題が発生している。

 また、ダム決壊の事故が、下流に甚大な被害をもたらす場合がある。中国では1975年、台風に伴う大雨で、河南省駐馬店市の板橋ダムが決壊。流れ出した泥水のために下流の大小計60基のダムが次々に決壊した。同事故では数万人が溺死し、その後数十万人が飢餓や病気で死んだとされる。

 中国は蔵木水力発電所の建設目的を、「チベット自治区における深刻な電力不足の解消のため」と説明している。少数民族地域の安定を目指すことを意図した開発プロジェクトと考えてよい。中国国内が安定することは、周辺国にとっても悪いことではない。

 しかし、事故発生を度外視するにしても、ダム建設にともなう環境変化について事前の予想が完全にできるとは言えない以上、「下流国で同ダムが原因とみられる悪影響が発生し、中国との緊張が高まる」ことは、リスクとして否定できないことになる。(編集担当:如月隼人)


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