「日本の石油は枯渇しないが、原油高騰は終わらない!!」 エネ...の画像はこちら >>

中東に代わる有力な代替輸入先として注目されるのは南北米大陸の石油。写真はブラジルのペトロブラス

2週間の停戦に合意したアメリカとイラン。
だが、依然として先行きは不透明だ。現実味を帯びていた日本の石油枯渇は? 原油の価格高騰は避けられないのか? 日本と世界を取り囲む石油危機の本当の話。

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【停戦合意で最悪の事態は免れたが......】

4月7日、アメリカのトランプ大統領がイランとの2週間の停戦合意を発表。トランプ大統領が「今夜、ひとつの文明が消滅するかもしれない」と物騒な言葉で警告していたイランへの総攻撃は取りあえず回避された。

事実上封鎖されていたホルムズ海峡では、すでに3月末から数ヵ国のタンカーが通過しており、今回の停戦合意で、長期間足止めされていたほかの船舶もペルシャ湾を脱出できることになりそうだ。

しかし、停戦に合意したとはいえ、依然としてイラン情勢を巡る先行きは不透明なまま。そもそも合意どおり2週間継続するという保証もない。

それは、原油輸入の94%以上を中東の湾岸諸国に依存する日本にとって、深刻なエネルギー危機・不安が当面続くことを意味している。

では、日本の石油は枯渇してしまうのか? それとも、別の手立てがあるのか?

長年にわたり経済産業省でエネルギー政策に携わり、経済産業研究所コンサルティングフェローも務める藤和彦氏はこう語る。

「日本の石油が枯渇することはありえません。日本は必ず、中東以外の地域から代替原油を確保できるからです」

なぜそう言い切れるのか? 藤氏は原油市場そのものの性質から説明する。

「そもそも原油は、供給ルート(販路)の組み替えが非常に柔軟な資源なんです。

その理由は輸送方法にあります。

原油の主な輸送手段はタンカーによる海上輸送です。一部、陸続きの国ではパイプラインも使われますが、島国の日本は船さえあれば輸入ができる。例えば、これまで中東から運んでいた原油を、別の産油国から船で日本に向かわせることも可能なのです」

「日本の石油は枯渇しないが、原油高騰は終わらない!!」 エネルギー政策に関わった元経産官僚が解説
代替輸入先の候補のひとつであるカナダのサンコール

代替輸入先の候補のひとつであるカナダのサンコール

しかし、そのためには、中東以外で日本に輸出してくれる産油国が必要になる。高市早苗首相は「中東に代わる原油の代替輸入先確保に官民一体となって全力で取り組んでいる」と強調しているが、中東から輸入していた国内総需要の94%超に上る原油を本当に確保できるのだろうか?

「できるはずです。理由は単純で、金さえ払えば原油は買えるからです。すでに出光、ENEOS、コスモ石油といった国内大手元売りや、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事といった総合商社が、代替原油の確保に動き出しています。

そもそも世界の多くの国は、複数の地域から原油を調達しており、供給は分散されています。特定の地域に依存している国ばかりではないため、原油は世界中で行き先を変えながら流通しているのです。

代表的な原油指標だけでも、アメリカ産の『WTI』、イギリス北海産の『ブレント』、そして中東産の『ドバイ原油』と大きく3つありますが、これらは互いに連動しており、完全に分断されているわけではありません。

そのため、世界の原油価格はおおむね似た水準で"一物一価"のように取引されます。実際、開戦前の2月下旬にはWTIやブレントが1バレル60ドル台、ドバイ原油も同水準で推移しており、産地が異なっても価格差は数ドル程度に収まっていました。

今回のイラン情勢によってそのバランスは一時的に崩れ、ドバイ原油は一時1バレル140ドル近くまで急騰。WTIも120ドル近くまで上昇するなど、市場は大きく揺れ動きました。

それでも、中東のリスクが高まれば各国は北米や中南米など別の地域から原油を調達する。結果として需要が分散し、価格は全体として上昇しながらも、最終的には再び収束しています」

「日本の石油は枯渇しないが、原油高騰は終わらない!!」 エネルギー政策に関わった元経産官僚が解説
『インベスティングドットコム』を基に編集部作成。WTI・ブレントは先物(5月限)、ドバイはスワップ先物を使用

『インベスティングドットコム』を基に編集部作成。WTI・ブレントは先物(5月限)、ドバイはスワップ先物を使用

実際、3月末以降はホルムズ海峡を通るタンカーも徐々に戻り始め、4月7日の停戦合意もその流れを後押しした。WTI先物は一時120ドル近くまで上昇したものの、停戦合意後には95ドル前後まで下落している。

【良い客の日本になら売りたい国も多い?】

では、その代替輸入先は具体的にどこなのか?

「まずはアメリカなどの北米産原油です。これまでアメリカの輸出は欧州向けが中心で、設備も東海岸に集中していましたが、アジア需要が高まれば、長期的には太平洋沿岸での設備投資が進む可能性もあります。

また、ブラジルをはじめとする中南米産原油も有力です。原油価格の上昇で油田開発の採算が取りやすくなり、中東リスクの高まりも追い風となって、今後は中南米の石油産業が成長する可能性があります。

中東も一部の原油はパイプラインで紅海沿岸まで運ばれ、そこからタンカー輸出されています。紅海からスエズ運河を経由するルートもありますし、状況によっては南アフリカの喜望峰経由での輸送も可能です。

ただ、他国が買っていた原油を横取りする形になるため価格は上がり、輸送コストも増えます。それでも石油の枯渇という最悪のシナリオに比べればはるかにマシです。

原油はドル建てで取引されるため、円安の今、日本にとっては不利ですが、日本企業は契約を守る"グッドバイヤー"として国際的な信用があります。資金さえ出せば、売り手に困ることはないでしょう。

原油由来の石油製品のナフサについても同様で、これまで国内需要の44%以上を中東に依存してきましたが、アメリカ、ペルー、アルジェリア、オーストラリアなどから代替確保が進んでおり、こちらも枯渇の心配はないと思います」

【パニックを起こせば無用なダメージが】

藤氏の言うように、日本は「石油枯渇」という最悪のシナリオは回避できる可能性はある。

しかし、その一方で避けられないのが原油価格の高騰だ。

開戦前に1バレル60ドル台だった原油価格は、今や倍近い水準にまで上昇している。さらに、代替原油を巡る国際的な争奪戦が激化すれば、価格は一段と押し上げられる。

原油やナフサ価格の上昇はインフレを加速させ、コストプッシュ型の物価高で景気は後退。その影響は最終的に家計を直撃する。

加えて、日本が高値で原油を確保すれば、その分、経済力に劣る途上国は買い負ける。エネルギー不足に直面する国が増えれば、世界経済全体にも深刻な影響が及ぶ。

「1970年代、日本の高度経済成長がオイルショックを契機に止まったように、ここ数年、急成長してきたインド経済も今回の原油高で停滞する可能性があります。また、東南アジアや中国にとっても大きな打撃になるでしょう」

「日本の石油は枯渇しないが、原油高騰は終わらない!!」 エネルギー政策に関わった元経産官僚が解説
1973年、商品が消えたスーパー。第1次オイルショックは日本の高度経済成長期を直撃し、景気は失速。今回の危機でも新興国が大きな打撃を受ける可能性が高い

1973年、商品が消えたスーパー。第1次オイルショックは日本の高度経済成長期を直撃し、景気は失速。今回の危機でも新興国が大きな打撃を受ける可能性が高い

この20年余り、中国やインドなど新興国の成長が世界経済を支えてきたことを考えれば、原油高は単なる資源問題にとどまらない。グローバル経済全体を揺るがすリスクをはらんでいる。

「とはいえ、原油価格は需要と供給で決まります。この先、原油高で世界経済が減速すれば需要も縮小し、逆に原油の価格は一定水準まで下がるかもしれません」

世界的な影響は計り知れないが、特に原油輸入の中東依存度が高かった日本は、ダメージを最小限に抑える対応が求められる。

「今回の出来事は、長年放置されてきた日本の中東依存を見直す契機にもなります。輸入先の多角化が進めば、リスク分散という意味ではプラスに働くかもしれない。

もちろん、その過程で日本や世界の経済が大きく傷つく厳しい現実が待っていることは否定できません。

その上で、私があえて『石油枯渇はありえない』と強調するのは、有識者と呼ばれる人たちがメディアなどで、日本の石油枯渇の可能性を現実的なリスクであるかのように語っているからです。

人々がこうした言説を信じてパニックに陥れば、日本が70年代に経験した2度のオイルショックの二の舞いになりかねない。

本当に厳しい現実が待っているからこそ、パニックによる無用な混乱は避けなければならないのです」

「日本の石油は枯渇しないが、原油高騰は終わらない!!」 エネルギー政策に関わった元経産官僚が解説

確かに「枯渇しない」という事実は、漠然とした不安が広がる今の日本にとって必要な鎮静剤かもしれない。

しかし、それは「何も心配しなくていい」ことを意味しない。原油は高値を払えば買えるかもしれないが、その高値が日本の家計を直撃し、世界の貧しい国々のエネルギーを奪い、グローバル経済を減速させる。無用なパニックは不要だ。だが、原油高騰への油断も危険であると心に刻んでおくべきだろう。

●藤 和彦 Kazuhiko FUJI
1960年生まれ、愛知県出身。経済産業研究所コンサルティングフェロー。84年通商産業省入省。2003年に内閣官房内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官を経て、研究職へ。著書に『シェール革命の正体』ほか

取材・文/川喜田研 撮影/鈴木大喜 写真/時事通信社

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