◆第107回全国高校野球選手権大会第1日 ▽1回戦  創成館3―1小松大谷(5日・甲子園)

 高校球児による真夏の祭典が開幕した。暑さ対策で史上初めて午後4時から開会式が行われた。

創成館(長崎)と小松大谷(石川)による開幕戦は史上最も遅い午後5時39分にプレーボールが宣告され、阪神外野手と同姓同名の最速149キロを誇る創成館のエース右腕・森下翔太(3年)が6安打1失点、毎回の13三振を奪い153球で完投勝利。ナイターの涼しさを生かして力投し、春夏通じて6度目で県勢初の開幕戦白星を飾った。夕方からの開会式、ナイター開幕戦について、効果を現地で取材する加藤弘士編集委員が「見た」でつづった。

 入場行進が始まった。甲子園名物の銀傘によって作られた日陰のグラウンド上で、選手たちが堂々と歩を進めた。朝の太陽に照らされた従来の開会式とはひと味もふた味も違う。結論から書く。午後4時開始。気温33度でも開会式は、快適だった。

 昨年大会も出場した健大高崎の加藤大成主将(3年)は「暑さは気にならなかった。対策として良かった」と歓迎し、昨夏Vの京都国際・倉橋翔主将(3年)は「だいぶ楽だった」と振り返った。花巻東の中村耕太朗主将(3年)は「全然暑く感じなかった。

熱中症になることはないと感じた」と話した。一塁側ベンチ前に集った司会者や吹奏楽団、合唱隊の高校生たちも笑顔で役割を完遂できた。

 阪神園芸のスゴ腕が9人がかりでホースを操り、水をまく。打席では3人がかりで正確に白線が引かれた。夕暮れの開幕戦を前に、黒土の戦場が美しく整備される。心が洗われる情景だ。

 大甲子園―。

 偉大すぎる、代えの利かない聖地。ある人は言う。「涼しい京セラDでやればいい」。そうはいかない。ここで戦うことに意味がある。

酷暑という巨大な敵にあらがいながら、夏の甲子園大会を続けるためにはどうすればいいのか。高校野球を取り巻く変化のスピードは、激しさを増している。

 課題も見えた。例年、初日は観客動員も上々だが、この日は開会式後に1試合のみとあって、特に外野席に空席が目立った(観衆1万9000人)。不慣れなナイターに臨む選手たちのコンディショニングの問題もある。小松大谷は午前6時、創成館は午前7時と通常通りの起床だったが、小松大谷のある野手は「朝早く起きて、どこでスイッチを入れるかが難しかった」と明かした。創成館は試合前にコンビニうどんを食べて臨むなど、食事面でも工夫した。両校からは薄暮の時間帯に「フライが見えにくかった」との声が相次いだ。今後はナイター対策が必須科目になるだろう。

 甲子園は午後からずっと、強い浜風が吹いていた。選手宣誓を終えた智弁和歌山の山田希翔主将(3年)は「涼しくてよかった。いい風が吹いていました」と笑った。

猛暑の中、運営側の試行錯誤と悪戦苦闘は続く。だが浜風に吹かれ、熱狂を生み出す甲子園大会の魅力は、永久に不滅であると信じたい。

 ◆今夏からの変更点

 ▽開会式は夕方開催 史上初の午後4時開始

 ▽大会史上最遅の開幕戦プレーボール 開会式後の午後5時39分に第1投

 ▽2部制拡大 午前の部と夕方の部に分けて試合を行う「2部制」を第1~6日の6日間に拡大。午前の部の第2試合は、午後1時30分を過ぎた場合、新たなイニングには入らず、同45分で打ち切り。夕方の部は午後10時を過ぎて新たなイニングに入らない。どちらも続きを後日に行う「継続試合」とする。午後10時以降は鳴り物を使った応援を禁止

 ▽ノック時間も短縮 原則7分間だった試合前のノック時間を5分間に短縮。行わないことも可能

 ▽CTは短縮 5回終了時のクーリングタイムは2分短縮し、8分に

 ▽補食を提供 昨年から球場で栄養を補給できるよう補食を配布しているが、今年は全試合でおにぎりやパンなどを提供

 開会式アラカルト

 ▼優勝旗返還 昨夏Vの京都国際・倉橋翔主将(3年)が優勝旗を返還。

 ▼先導役 大体大浪商(大阪)の安田智樹主将(3年)が49校の先導役。戦後初大会となった1946年に同校の前身、浪華商が優勝したことから、戦後80年の節目に平和への願いを込めて選出。

 ▼司会 武庫川女子大付(兵庫)の竹内舞桜(まお)さんと宮本リリさん。宮本さんは「立ってみないと分からないような熱気を実感できて、うれしかった」。

 ▼始球式 ベースボール5の日本代表として3月に行われたユースアジアカップVに貢献し、MVPに輝いた中京大中京(愛知)の女子軟式野球部・森本愛華(3年)が投げ、同チームの主将を務めた横浜隼人(神奈川)の硬式野球部・平野将梧(3年)が捕手役。ストライク投球で場内を沸かせた。

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