そして、今季もまだ始まったばかりではあるが、チームの中心として違いを見せつけているサムライが多い。すでにチームで絶対的な立ち位置を確立している三笘薫や板倉滉、久保建英、守田英正、伊東純也……。新天地で早速チームのキーマンになりつつある菅原由勢や鎌田大地、佐野海舟、鈴木彩艶……。「世界一」を目標に掲げる日本サッカー界の今後を担うのは彼らだ。
登竜門のベルギーと最高峰のプレミアリーグ
ベルギーで着実に力をつけている町田。昨季はチームにカップ戦のタイトルをもたらしている photo/Getty Images
国別で最も多いのはベルギー1部で15人。日本人選手を積極的に獲得しているシント・トロイデンに6人という事情もあるが、ベルギーリーグは欧州でステップアップしていくための入口として機能しているからだ。欧州で最も早くアフリカから多くの選手を獲得していた過去もあり、外国籍選手にとっての登竜門になっている。
多くの日本人選手がレギュラーとしてプレイしているが、注目はサンジロワーズの町田浩樹。開幕から6試合すべてに先発出場している。190cmの長身で左利き。日本代表にも選出されていてW杯予選の中国戦、バーレーン戦で先発出場した。
ベルギーに次いで日本人選手が多いのはイングランドとドイツ。イングランドは1部に5人、2部8人。ドイツは1部9人、2部5人。欧州最高峰のプレミアリーグに所属するのは三笘薫、冨安健洋、鎌田大地、遠藤航、菅原由勢。チームで主力としてプレイしているのは三笘(ブライトン)、菅原(サウサンプトン)。
ケガで後半戦を棒に振った昨季の雪辱を果たすべく、開幕戦からゴールを決めて違いを見せつけた三笘 photo/Getty Images
昨季は負傷で長期欠場を余儀なくされた三笘だが、復帰後は開幕戦から得点するなど攻撃の中心として活躍している。プレミアリーグの特徴はフィジカルの強さで、とくに守備の厳しさ、真剣さは他国のリーグと比べても抜きんでている。そこで無双できる三笘の実力は世界でもトップクラスと言っていいだろう。
今季、オランダのAZからサウサンプトンに移籍した菅原は3試合連続で先発出場。
したい。
やはり今季からクリスタル・パレスに加入した鎌田大地も主力の地位を築きつつある。ボランチもシャドーもこなし、飄々としたプレイぶりと独特の戦術眼はプレミアでも異色の選手と言えるかもしれない。チームにフィットすれば同じタイプがいないだけに不可欠な存在になりうる。
欧州5大リーグの中でも図抜けているプレミアだけに、そこで主力として活躍していればワールドクラスと認定できる。
守備型が多いドイツと攻撃型が集まるオランダ
板倉はボルシアMGで安定したパフォーマンスを披露し、守備の要となっている。ステップアップの日も近いか photo/Getty Images
ブンデスリーガで主力となっているのは板倉滉(ボルシアMG)、堂安律(フライブルク)、町野修斗(キール)。すでにボルシアMGの守備の重鎮となっている板倉は空中戦の高さ、タックルの深さといったCBとしての守備力だけでなく、MFでも起用されたこともあるように足下の技術も高い。冨安健洋、伊藤洋輝もそうだが、日本人CBの特長として技術の高さがあげられる。いずれもボランチとしてもプレイできるタイプである。
堂安律はキレのあるドリブルと正確で強い左足のキック、運動量もあり安定感のある右サイドのアタッカーとして定着。キールのブンデスリーガ昇格に貢献した町野は開幕から2試合連続で先発フル出場。
マインツに加入した佐野海舟も早くも主力の扱い。2試合で175分間プレイした。ボール奪取能力が高く、かつてブンデスリーガのデュエル王だった遠藤航を継ぐかもしれない。
ブンデスリーガはプレミアに次ぐフィジカルなリーグだが、日本人選手の献身性は高く評価されていて、欧州の中でも日本人選手がフィットしやすい環境といえる。先発起用されている選手たちはいずれもフィジカル能力が高く、守備型の選手が多いのは他のリーグとの違いかもしれない。
相手を2人背負いながらボールを受ける上田。勝負の2年目ということもあり、今季は結果を残したい photo/Getty Images
オランダには上田綺世(フェイエノールト)と小川航基(NEC)の日本代表FWがいる。同世代の2人はアンダー世代の日本代表でもポジションを争ってきた。現在も日本代表のCFとして競っている。
上田は身体能力が高く、強靭なポストプレイと強烈なシュートを持ち、ラストパスを受けるポジショニングの上手さも光る。
小川はこれまでの4試合で2試合に先発、1得点と、今のところ上田を一歩リードしている状況だ。小川のいるNECに加入した佐野航大は開幕から4試合すべで先発出場、1ゴールをゲット。ボックス勝負型の上田、小川とは異なり、幅広く動くユーティリティー性が特長。フィジカル能力も高く若手注目の1人である。
主力中の主力のフランス勢。ポルトガル勢はMFの中心に
個の力がモノを言うリーグ・アンで、スピードを武器に今やリーグ屈指のアタッカーとなっている伊東 photo/Getty Images
フランスリーグの4人はいずれも主力中の主力だ。南野拓実(ASモナコ)は[4-4-2]のときはサイドハーフのポジションだが、主戦場は常に中央。これはチームのプレイスタイルなのだが、南野はそれにぴったり合っている。ラストパスの上手さと得点力を併せ持ち、今やリーグでも屈指のアタッカーである。
スタッド・ランスの両翼を占める伊東純也、中村敬斗は攻撃の切り込み役、フィニッシャーとして欠かせない。
オセールのオナイウ阿道はエースストライカーとしての地位を確立。トゥールーズから2部のオセールへ移籍し、チームとともに昇格を果たした。スピード、パワー、テクニックのバランスの良い点取り屋だ。
スポルティングへ加入して以降、攻撃にもより一層磨きをかける守田。 先日の日本代表戦でもその成長が結果に現れた photo/Getty Images
ポルトガルリーグ1部でプレイしている守田英正(スポルティング)、藤本寛也(ジル・ヴィセンテ)、福井太智(アロウカ)の3人もそれぞれのチームで主力を張っている。
昨季、スポルティングの優勝に貢献した守田は完全にチームの中心。「欧州クラブで欠かせない戦力となっている日本人選手」という表現が最もふさわしい選手である。ボランチとして攻守に優れ、タイムリーな攻撃参加で得点もあげる。戦術理解度の高さは、スポルティングと同じシステム([3-4-2-1])を使い始めた日本代表にとっても活用されるだろう。
ジル・ヴィセンテで4シーズン目の藤本はすっかり攻撃の中心に定着。今季も4試合すべてに先発出場し、第2節はハットトリックを決めた。得点力のある左利きの攻撃的MFだ。
18歳でサガン鳥栖からバイエルンに完全移籍した逸材、福井はポルティモネンセを経てアロウカへ加入。開幕から4試合すべてに先発出場している。
ポルトガルはブラジル人選手が多く、欧州でもテクニカルなリーグとして知られている。イングランド、ドイツ、フランスほどフィジカル要素は強くないので、小柄なテクニシャンが多い日本人選手には合っている半面、日本人選手と似た特長の選手もたくさんいるので埋もれてしまう可能性もある。現在プレイしている3人はすべてMFで、主力として活躍しているのは興味深い。技術の高さだけでなく、戦術理解の良さや献身性が評価されているのだろう。優れたMFが多いリーグの中で、日本人選手が主力として活躍しているのは日本人MFのレベルの高さを表しているといえる。
移籍の噂が絶えない久保。猛威を振るうセルティック3人衆
ソシエダに欠かせない選手となった久保。ビッグクラブも注目する存在に photo/Getty Images
スペイン1部でプレイしているのは久保建英(レアル・ソシエダ)、浅野拓磨(マジョルカ)の2人しかいない。
久保はレアル・ソシエダの攻撃の中心として活躍してきたが、今季は第2節のエスパニョール戦で先発メンバーから外れ、途中出場で決勝の1点をゲット。起用に不満を表すようなパフォーマンスで話題になった。それ以外の3試合は先発で起用されているが、主力の移籍もあり、久保自身にも移籍の噂が絶えない。高度な技術とセンスは定評があるが、より大きなクラブに移籍するかどうかの分岐点になるシーズンかもしれない。
対照的に浅野は今季からスペインへ参戦。マジョルカでも快足ぶりを披露、3試合に先発、1試合は交代出場と主力に収まっている。ドイツでも認められたスピードと意外性のあるランはスペインでも健在だ。
イタリア1部は鈴木彩艶の1人のみ。ただ、GKというところが貴重である。欧州のビッグクラブでプレイしたGKはこれまでいないが、鈴木にはその可能性がある。
スコットランドの名門、セルティックには古橋亨梧、旗手怜央、前田大然の3人がプレイしている。古橋は俊敏な動きと得点力でクラブを代表する選手の1人になっている。もともとユーティリティー性は高く、マンチェスター・シティへの移籍の噂もあったように高い評価を得ている。
前田はスピードスターとして活躍、旗手もMFの重鎮となった。アンジェ・ポステコグルー監督が昨季プレミアのトッテナムへ移ったことで日本人獲得ブームも終了したようだが、3人とも主力として不可欠な存在だ。
文/西部 謙司
※ザ・ワールド2024年10月号、9月15日配信の記事より転載