世界第2位の塗料メーカー、PPGインダストリーズは継続的に利益を蓄積しており、株主資本は8年間で1.4倍に積み上がりました。一方、時価総額は過去8年間で2割減少しており、同業他社と比較しても、株価に割安感があります。

また、同社は原料調達体制が米国中心のため、ホルムズ海峡封鎖による影響を比較的受けにくいと考えられます。


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祖業のガラスから塗料事業へ軸足をシフト

  PPGインダストリーズ(PPG NYSE) (株価109.80ドル、時価総額246億8,300万ドル:4月24日終値)は、米国・ピッツバーグに本社を置く世界最大級の塗料・コーティングメーカーです。


 事業は「建築用塗料」「高性能塗料」「工業用塗料」の3セグメントで構成され、自動車補修、航空宇宙、建築、産業用途など幅広い市場に製品を供給しています。2025年の売上は約159億ドルです。70カ国以上で事業を展開し、約4万3,000人の従業員を抱えている、世界第2位の塗料メーカーです。


 PPGインダストリーズの競合には、米 シャーウィン・ウィリアムズ(SHW NYSE) 、 日本ペイントホールディングス(4612 東京) 、アクゾノーベル(AKZA アムステルダム)、 RPMインターナショナル(RPM NYSE) などの企業があります。


 特にシャーウィン・ウィリアムズ、アクゾノーベル、日本ペイントHDの3社とは激しい競争を繰り広げています。


 シャーウィン・ウィリアムズは建築用塗料で世界最大のシェアを持っており、北米市場でPPGインダストリーズと激しく競合しています。アクゾノーベルは欧州中心ですが、建築用・工業用・粉体塗料など事業領域が広く、PPGインダストリーズとの重複が大きいです。日本ペイントHDはアジアで圧倒的シェアを持ち、自動車補修・建築用でPPGインダストリーズと競合する状況です。


 PPGインダストリーズは1883年に米国・ピッツバーグで創業し、当初はピッツバーグ・プレート・ガラス社として板ガラス製造を主力としていました。20世紀前半には自動車産業の成長を背景に事業を拡大し、1950年代以降は塗料・コーティング事業へ本格参入。高機能塗料の需要増に合わせて事業の中心をガラスから塗料へとシフトしました。


 1980~2000年代には航空宇宙、自動車補修、工業用塗料など高付加価値分野を強化し、世界各地の企業を積極的に買収。2016年にはガラス事業を完全に売却し、塗料・コーティングに特化したグローバル企業へ転換しました。現在は70カ国以上で事業を展開しています。


継続的な利益積み上げの一方、株価は低迷

 PPGインダストリーズの当期純利益は過去9年間、10億~16億ドルのレンジで推移してきました。原材料コストの変動、再構築費用などの一時要因が利益を上下させながらも、グローバル塗料市場で第2位の規模を誇る事業基盤に支えられ、継続的に利益を積み上げてきている状況です。


 2026年以降は、需要回復・高採算事業の成長・コスト削減効果により利益増加が見込まれています。航空宇宙やラテンアメリカ建築が好調で、効率化による利益率改善も進行。販売数量の持ち直しと価格維持が収益拡大を後押しする見通しです。


<PPGインダストリーズの当期純利益推移(2017年12月期以降)>
塗料大手PPGインダストリーズに割安感、原料調達体制に安心感あり(西 勇太郎)
※2026年は予想値出所:PPGインダストリーズ資料などより楽天証券経済研究所が作成

 他方、株価は2017~2021年にかけて堅調に上昇し、2021年に過去最高値を更新しました。背景には世界的な景気回復、需要増、利益率改善、そして市場全体の強気相場がありました。


 しかし2022年以降は、欧州の建築需要低迷、原材料高、利益率の伸び悩み、景気敏感セクターの不調が重なり下落基調へ転換。2026年時点では、2021年の高値から調整局面が続く推移となっています。


<PPGインダストリーズの株価推移(2017年12月期以降)>
塗料大手PPGインダストリーズに割安感、原料調達体制に安心感あり(西 勇太郎)
※2026年は直近値出所:PPGインダストリーズ資料などより楽天証券経済研究所が作成

PBRが過去平均水準に回復すれば株価は178ドル

 過去8年間の変化を見ると、売上高が1.1倍、当期純利益は1.0倍とおおむね横ばいの状態になっています。この期間、株主資本は1.4倍に積み上がりましたが、時価総額は0.8倍とむしろ減少しています。

結果的に株価純資産倍率(PBR)は5.4倍から3.1倍へと低下しており、割安感が出ている状況となっています。


 この割安感が解消され、PBRが過去8年間の平均水準である5.0倍にまで上昇した場合には、株価は178ドルとなります。


<PPGインダストリーズの業績推移(2017年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2017年12月期 2025年12月期 変化(倍) 売上高 14,748 15,875 1.1 売上総利益 6,539 6,559 1.0 営業利益 2,014 2,169 1.1 税引前当期純利益 2,005 2,045 1.0 当期純利益 1,594 1,576 1.0 株主資本等合計 5,557 7,941 1.4 時価総額 29,728 24,683 0.8 PBR(倍) 5.4 3.1 - PER(倍) 19 16 - ※時価総額は、2017年12月期は期末時点値、2025年12月期は直近値
出所:PPGインダストリーズの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ちなみにセグメント別では、高性能塗料セグメント(航空宇宙、自動車補修、船舶向け)の航空宇宙・自動車補修など高採算分野が業績をけん引し、セグメント利益が1.3倍となりました。他方、工業用塗料セグメント(自動車OEM、家電・工業製品、包装材向け)は安定的に売上高と利益水準を維持しています。


<PPGインダストリーズのセグメント別業績推移(2017年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2017年12月期 2025年12月期 変化(倍) 売上高 14,748 15,875 1.1   工業用塗料 6,018 6,524 1.1   高性能塗料 8,732 9,351 1.1 税引前当期純利益 2,005 2,045 1.0   工業用塗料 972 875 0.9   高性能塗料 1,323 1,747 1.3 税引前当期純利益率 14% 13% -   工業用塗料 16% 13% -   高性能塗料 15% 19% - ※比較を可能とするため、2025年12月期はグローバル建築塗料セグメントを高性能塗料セグメントに合算
出所:PPGインダストリーズの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 地域別で見ると、総じて安定的な中、ラテンアメリカの堅調拡大が際立つ状況です。ラテンアメリカは建築用塗料販売が伸びており、PPGインダストリーズ全体の成長ドライバーとして存在感を高めています。


 また北米は減収増益となっていますが、高利益率事業への集中戦略として、北米・カナダの建築用塗料事業を2024年に売却したことと、高利益率の航空宇宙・自動車補修事業の業績拡大を達成できたことがあらわれた形となっています。


<PPGインダストリーズの地域別業績推移(2017年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2017年12月期 2025年12月期 変化(倍) 売上高 14,748 15,875 1.1   米国・カナダ 6,309 5,372 0.9   ラテンアメリカ 1,529 2,198 1.4   欧州・中東・アフリカ 4,389 5,368 1.2   アジア太平洋 2,523 2,938 1.2 税引前当期純利益 2,005 2,045 1.0   米国・カナダ 1,131 1,101 1.0   ラテンアメリカ 234 522 2.2   欧州・中東・アフリカ 569 581 1.0   アジア太平洋 361 418 1.2 税引前当期純利益率 14% 13% -   米国・カナダ 18% 20% -   ラテンアメリカ 15% 24% -   欧州・中東・アフリカ 13% 11% -   アジア太平洋 14% 14% - 出所:PPGインダストリーズの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 今後については、航空宇宙やラテンアメリカ建築の好調さ継続に、2024~2025年にかけて行った低採算事業の縮小・売却(低採算の製品ラインを整理、北米・カナダの建築用塗料事業売却)による利益率向上効果が加わり、2026年12月期、2027年12月期と増収増益が継続する見通しとなっております。株価水準がこのまま変わらなければ、低PBR状態も継続することが見込まれます。


<PPGインダストリーズの業績予想> (百万ドル) 2025年12月期 2026年12月期 2027年12月期 実績 予想 予想 売上高 15,875 16,425 16,910 当期純利益 1,576 1,731 1,846 株主資本等合計 7,941 7,748 7,885 時価総額 24,683 24,683 24,683 PBR(倍) 3.1 3.2 3.1 PER(倍) 16 13 12 ※時価総額は直近値
出所:PPGインダストリーズ、FactSetの資料などより楽天証券経済研究所が作成

塗料・インキ同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は152ドル

 PPGインダストリーズの比較対象に適する塗料・インキの上場同業他社には、前掲の米シャーウィン・ウィリアムズ、日本ペイントHD、アクゾノーベル、RPMインターナショナルに加え、 DIC(4631 東京) 、米 アクサルタ・コーティング・システムズ(AXTA NYSE) 、 関西ペイント(4613 東京) 、 artience(4634 東京) 、 サカタインクス(4633 東京) などがあります。


 これらの企業について、自己資本利益率(ROE)を横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、おおむね比例関係にあることが分かります。その中で、PPGインダストリーズについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があるといえます。

この割安感が解消された場合のPPGインダストリーズのPBR(図の青破線に乗る水準)は4.3であり、相当する株価は152ドルです。


<主な塗料・インキ企業のROEとPBRの関係>
塗料大手PPGインダストリーズに割安感、原料調達体制に安心感あり(西 勇太郎)
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

<主な塗料・インキ企業10社のROEとPBR> 社名 証券
コード 取引所 売上高 ROE PBR 百万ドル % 倍 シャーウィン・ウィリアムズ SHW NYSE 23,574 59 16.9 PPGインダストリーズ PPG NYSE 15,875 21 3.1 日本ペイントHD 4612 東京 11,870 11 1.3 アクゾノーベル AKZA アムステルダム 11,479 14 1.8 RPMインターナショナル RPM NYSE 7,373 25 4.3 DIC 4631 東京 7,039 7 0.8 アクサルタ・コーティング・システムズ AXTA NYSE 5,117 18 2.4 関西ペイント 4613 東京 3,862 13 1.7 artience 4634 東京 2,341 4 0.7 サカタインクス 4633 東京 1,724 10 1.0 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、PPGインダストリーズは2.6%の利回り(一株当たり配当2.89ドルで計算)となっており同業他社比でそん色ない水準です。


<主な塗料・インキ企業10社の配当および総還元利回り> 社名 証券
コード 取引所 前年度 今年度 実績配当 総還元 予想配当 % % % シャーウィン・ウィリアムズ SHW NYSE 1.0 3.1 1.0 PPGインダストリーズ PPG NYSE 2.7 6.2 2.6 日本ペイントHD 4612 東京 1.5 2.4 1.7 アクゾノーベル AKZA アムステルダム 3.3 3.3 4.0 RPMインターナショナル RPM NYSE 1.8 2.5 2.0 DIC 4631 東京 5.5 5.5 4.3 アクサルタ・コーティング・システムズ AXTA NYSE 0.0 3.0 0.0 関西ペイント 4613 東京 2.3 18.7 4.3 artience 4634 東京 2.9 8.4 3.1 サカタインクス 4633 東京 4.0 4.8 4.2 出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 PPGインダストリーズは今後も高水準収益継続が見込まれる中で、現在の株価109ドルには割安感があります。過去実績比で割安感が解消された水準は178ドル、同業他社比で割安感が解消された水準は152ドルです。


(西 勇太郎)

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