読者の皆さまにとって、2010年はどのような年でしたでしょうか? 分断深化、民主主義後退が始まり、株価指数急騰、世界同時株高、金価格急騰が始まったタイミングでした。こうした激変の背景は、すべての投資家・市場関係者が知らなくてはならないことだと筆者は確信しています。

中東情勢悪化・ホルムズ海峡封鎖の根底にある原因でもあります。


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すべての投資家のためになる「2010年は終わりの始まり」説
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「2010年」は終わりが始まった年だった

 2010年は、「終わりが始まった年」だったのかもしれません。


 複数の株価指数が、糸が切れたたこのように上昇し始めたり、株価指数と金(ゴールド)の価格の両方が上昇し始めたり、SNS・AIなどのハイテクのマイナス面がポピュリズムと共鳴し始めたり、世界の自由度・民主度が急低下し始めたりするなど、後戻りできないカオス(混沌:こんとん)に突入し始めたタイミングだからです。


 カオスに突入し、数十年の経験を持つ金融関係者ほど、2010年ごろ以降の株価指数の急騰ぶりや、株価指数と金(ゴールド)の価格がともに急上昇している背景を、数十年前と同じ熱量で説明することができなくなっているのではないでしょうか。それは過去の常識が通じないからです。


図1:「2010年」とは?
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出所:筆者作成

 今、投資家を含む全ての市場関係者は、2010年という年がどんな年であったのかを知らなければなりません。「今の常識」を知る意味でも、このことは大変に重要です。分かりやすいから、著名人が言っているから、などの理由で過去の常識に縛られたままでは、今の、そしてこれからの投資に関わる活動はできないでしょう。


糸が切れたたこのように上昇する株価指数

「ドクター・カッパー(Doctor:医者・Copper:銅)」という言葉があります。銅相場の動向が景気の先行きを診断している、という考えに基づいた言葉です。少し具体的にいえば、銅相場が上昇している時は、世界中で電線や建物などのインフラ整備が活発に行われている時(景気が良い時)だ、となります。


「経済の血液」という言葉もあります。原油相場の動向が景気の先行きを示すヒントになる、という考え方に基づいた言葉です。少し具体的にいえば、原油相場が上昇している時は、世界中でモノやヒトの移動が活発で、各種素材の需要が旺盛な時(景気が良い時)だ、となります。


 株価指数は半年から1年程度先の景気動向に関わる思惑(プラスの思惑は期待、マイナスの思惑は懸念)を織り込んでいる、と述べる筆者の身近にいる株の専門家の話と合わせて考えると、株価指数が上昇しているタイミングは、銅と原油の相場も上昇していることになります。


図2:S&P500、原油、銅の価格推移(年間平均 1986年を100 2025年まで)
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出所:ブルームバーグのデータより筆者作成 イラストはPIXTA

 このことは、多くの経済関連の専門書にも書かれており、かつ、新入社員を迎えた金融機関でのレクチャーでも、語られていると考えられます。


 しかし、図2のとおり、2010年と2025年を比較すると、銅相場は1.3倍、原油相場は0.8倍と小動きの中、米国の主要株価指数の一つで、日本の多くの個人投資家の皆さまにもなじみがある「S&P500種指数(以下、S&P500)」は、5.5倍にもなりました。


 景気動向を診断するといわれる銅の相場が1.3倍(やや上昇)、景気動向の先行きを示すヒントになるといわれる原油の相場が0.8倍(やや下落)であることを考えれば、さほど景気は強くなく、S&P500はそれほど上昇していない、と予想することができそうですが、実際には銅や原油をはるかにしのぐ上昇を演じました。


 史上最高値水準で推移している銅が1.3倍の中でS&P500が5.5倍をたたき出したことを考えれば、S&P500側が、2010年以前にはなかった新しい要素を抱えていることを考慮する必要があるでしょう。


 図3は、世界の六つの地域における合計46の株価指数の、2010年と2025年の年平均を比較した資料です。上昇した株価指数の数と下落した株価指数の数を確認すると、前者が43、後者が3でした。


図3:株価指数(現地通貨建て)の地域別騰落率(2010年と2025年の年平均を比較)
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出所:Investing.comのデータより筆者作成

 北米にはS&P500のほか、ダウ工業株30種平均やナスダック総合指数などが、アジア、オセアニアには日経平均株価などが含まれています。46の株価指数の9割を超える43の株価指数が上昇したことだけでなく、騰落率の平均が217%に達したことも、大きなポイントです。


 2010年以降の世界情勢を振り返ってみると、2011年ごろに北アフリカ・中東地域で武力衝突を伴った民主化運動の波「アラブの春」が起きました。2015年ごろにはチャイナショックと呼ばれた世界同時株安が起きました。


 2020年には新型コロナがパンデミック化し、2022年にはウクライナ戦争が勃発し、2023年には中東で大規模な軍事衝突が始まりました。

こうした荒波が訪れても、「ほぼ世界同時株高」だったのです。


 株価指数は半年から1年程度先の景気動向に関わる思惑を織り込んでいる、という言葉は株価指数の特徴を捉えていると、筆者は考えています。


 プラスの思惑「期待」があれば、どんな荒波が訪れようとも、株価指数は上昇することができるのかもしれません。「思惑(=実態ではない)でどこまでも上昇してしまう株価指数」が見られるようになったタイミングが、2010年だったと言えます。


なぜ株高・金(ゴールド)高なのか?

 図4は、S&P500と金(ゴールド)の価格推移です。1990年代は、世に言う「株と金(ゴールド)は逆相関」という言葉の通り、「株高・金(ゴールド)安」でした。


図4:S&P500、金(ゴールド)の価格推移
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出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 しかし、あの「2010年」ごろから、様子が一変します。株価指数も金(ゴールド)も、急上昇しています。2010年ごろ以降は「株大幅高・金(ゴールド)大幅高」なのです。


 このことは、過去の常識が通じない最たる例です。筆者は、金(ゴールド)価格が上昇するシナリオを耳にすると、「不穏なシナリオ」とばかりに表情を曇らせる、長年株に関わってきた関係者を知っています。


「逆相関」の時はその思惑で問題はなかったものの、常識が変わった2010年ごろ以降は、決して「不穏なシナリオ」ではありません。2010年ごろ以降の金(ゴールド)の価格上昇は、決して株価指数の上昇を妨げる存在ではないのです。


 株価指数が大きく上昇する中で、金(ゴールド)を大量に買う市場参加者がいます。中央銀行です。中央銀行は対外的に何かあった場合への備えとして「外貨準備高」を保有しており、多くの中央銀行は、その一部を金(ゴールド)で保有しています。


 図5のとおり、あの「2010年」以降、中央銀行は全体として金(ゴールド)を買い越しています。購入量が売却量を上回る状態が、2010年以降、続いています。特に2022年以降は、過去最高水準の買い越し量で、2025年の同量は全需要のおよそ17%に上りました。


図5:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移(2025年まで) 単位:トン
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出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料を基に筆者作成

 積極的な株の売買を行うことがない中央銀行の動向が金(ゴールド)の価格動向を支えていることから分かるとおり、株から流出した資金が金(ゴールド)に流入して、金(ゴールド)価格が上昇しているわけではないことが、うかがえます。


 中央銀行の動向は、2010年ごろ以降の金(ゴールド)の長期視点の価格上昇を支える「土台」のような存在です。


カオスの真因にSNS・AI、ポピュリズム

 中央銀行が金(ゴールド)を購入する一因に、世界的な不安感の高まりが挙げられます。2010年に買い越しが始まったことから、2010年ごろに、世界的な大きな不安感を強める事象がはじまったと、推測できます。


 筆者はこの世界的な不安感を「非伝統的な有事」と表現し、それが強まった経緯に、図6のとおり、あの「2010年」から世界的に急速に普及したSNSやAI、ドローンなどのハイテク技術のマイナス面(2010年は日本でiPhone4が発売された年)、そしてポピュリズム(人気取り)が強く関わっていると考えています。


図6:2010年ごろ以降の株高・金(ゴールド)高の一因
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出所:筆者作成

 軍事や一般(個人・国)の分野で、ハイテクのマイナス面は、情報戦におけるかく乱、浸透、分断などの工作を横行させたり、戦争を長引かせたり、情報の受け手と発信者の関係を「思惑優先」にしたり、ポピュリズムと相成ってバラマキを横行させたりしています。


 その結果、世界の民主主義が後退したり、分断が深化したり、資源の武器利用が横行したり、長期のインフレが継続したり、通貨の不確実性が増したり、株高への不安が拡大したりしていると考えられます。


 これらのほとんどが、2010年ごろ以降に目立ち始めたため、筆者はこれらをまとめて「非伝統的な有事」と呼んでいます(いずれも目に見えにくいという特性があるため、「見えない有事・不安」とも言えます)。この非伝統的な有事は、金(ゴールド)相場の2010年ごろに始まった長期上昇トレンドの「土台」です。


 中央銀行も土台ですが、非伝統的な有事は中央銀行の金(ゴールド)買いの動機の一因とみられるため、同有事は「土台の土台」とも言えます。


 SNS・AIの普及により、2010年ごろを機に大きく変化した情報の受け手と発信者の関係については、図7のとおりです。SNSとAIは、情報の受け手が見たい情報を際限なく見ることを可能にしました。このことは、見たくない情報を見ない、という姿勢を強めるきっかけになりました。


図7:SNS・AIのマイナス面が株価指数の動向に与える影響
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出所:筆者作成

 情報の受け手の姿勢の変化に順応するように、情報の発信者は「受け手が見たい情報を見せる」という姿勢を強めました。こうした双方の変化により、世の中の少なくない情報が過程、本質を軽視するもの、人気取りを目的としたものとなり、乱立するはずのない真実が乱立する事態になりました。


 もうすでに、世界は実態よりも「思惑」を優先する環境になっていると言えます。このことは、2010年ごろから、株価指数が急騰したり、世界同時株高が起きたりしている土台になっていると言えます。プラスの思惑である「期待」は、SNSやAIによって、実態がなくても際限なく膨張し得るためです。


世界全体で民主主義後退・分断深化中

 非伝統的な有事が発生・拡大していることを示すデータがあります。図8は、V-Dem研究所(スウェーデン)が、法の支配、選挙・裁判の仕組み、言論の自由など、自由度・民主度を測る上で欠かせない多数の要素を用いて算出した指数です。


 同指数の推移を確認すると、あの「2010年」から急低下していることが分かります。それまでは、世界大戦や冷戦が終結すると上昇したり、世界大戦中や冷戦期に下落したりしていました。


図8:世界の自由民主主義指数(人口加重平均)
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出所:V-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 2025年の0.273という値は、1960年代の冷戦期の水準と同等です。それほどまでに、世界の自由度・民主度が低下しているのです。そしてその始まりが、SNS・AIなどのマイナス面が拡大し始め、それを主な要因として非伝統的な有事が拡大しはじめた、あの「2010年」なのです。


 自由民主主義指数を別の角度から見ます。図9は、同指数が0.6以上の自由で民主的な度合が高い国・地域の数と、同指数が0.4以下の自由で民主的な度合いが低い国の数の推移を示しています。


 あの「2010年」ごろ以降、自由で民主的な度合が高い国・地域の数が減っています。そして近年、自由で民主的な度合が低い国・地域の数が増えています。


 この動きは、グラフの青とオレンジの線の形状から連想されるように、「世界分断深化」を象徴していると考えられます。非伝統的な有事の一つが拡大していることを示す動きです。


図9:自由で民主的な度合が高い国・地域と低い国の数(自由民主主義指数ベース)
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出所:V-Dem研究所のデータを基に筆者作成

 2010年はやはり、非伝統的な有事の拡大がはじまった、「終わりが始まった年」だったのかもしれません。

筆者はこの「2010年は終わりの始まり」説は、全ての投資家・市場関係者が知らなくてはならないことだと確信しています。


 私たちは今、株価指数が糸が切れたたこのように上昇したり、株価指数と金(ゴールド)の価格が上昇したり、SNS・AIなどのマイナス面がポピュリズムと共鳴したり、世界の自由度・民主度が急低下したりする、後戻りできないカオスの中にいます。カオスでは、過去の常識は通じません。


「今の常識」を知り、今後の投資に関わるさまざまな活動を推進するため、同説を意識することは大変に重要です。分かりやすいから、著名人が言っているから、安心できるから、などを理由に、同説から目を背け、安易に過去の常識に頼ってはいけないのです。


[参考]コモディティ関連の投資商品例

投資信託

SMTAMコモディティ・オープン (NISA成長投資枠活用可)
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
iシェアーズ コモディティインデックス・ファンド
eMAXISプラス コモディティインデックス
DWS コモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWS コモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)


海外ETF/ETN

Direxion オースピス・ブロード・コモディティ戦略 ETF(COM)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
ファーストトラスト グローバル タクティカル コモディティ戦略ファンド(FTGC)


(吉田 哲)

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