防衛装備庁が動画公開した未来の装備「レールガン」。米軍が開発をあきらめた新兵器を、いかにして日本はモノにしたのか、担当者に聞いてきました。

動画公開で注目あつまる日本のレールガン

 2023年12月1日、防衛装備庁は公式YouTubeチャンネルで研究中の「レールガン」に関する動画を公開しました。レールガンとは、電気の力で弾丸を加速させる砲であり、従来の火薬の爆発力を用いた砲とは根本的に異なります。「未来の大砲」として諸外国でも研究されているなか、日本は今年10月に世界で初めて洋上射撃試験を実施するなど、一歩リードした位置にいます。

 そこで、レールガン開発の現状や、想定される用途について、研究を担当している陸上装備研究所に話を聞いてきました。

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防衛装備庁が公開したレールガン射撃試験の様子(画像:防衛装備庁)。

 まず、レールガンについて基本的な能力を確認しておきましょう。

前述したとおり、電気の力、すなわち電磁気力(ローレンツ力)で弾丸を射出する大砲です。もう少し詳しく解説すると、弾丸に付属する電機子を介して砲身レールに瞬間的な大電流を流すことで強い磁場を発生させ、これを用いて電機子と弾丸を加速させ射出する、というものです。

 現在、試験が行われている日本のレールガンは砲部、いわゆる加速装置が全長約6m、砲口径は40mm四方です。砲の大きさに対して、弾がとても小さいことがわかります。

 たとえば、同サイズの火薬式火砲と比較すると、陸上自衛隊で最も多く運用されている榴弾砲FH70は砲身長約6m、口径155mm。海上自衛隊のもがみ型護衛艦やあたご型護衛艦、あきづき型護衛艦などに搭載されている艦載用のMk45単装砲は、砲身長約7m、口径127mmです。

これらと比べると、砲身の長さに対して口径がとても小さいことが理解できます。

 ただ、レールガンの弾丸は極めて高速で射出されます。試験中のレールガンは、秒速2297m、おおよそマッハ7(地上で約8568km/h)を発揮できるそうです。例に挙げた火薬式火砲の初速がおおよそ秒速800mなので、文字通りケタ違いと言えるでしょう。弾丸の威力(運動エネルギー)は「重量 × 速度の二乗」で算出されるため、サイズは小さくとも破壊力は決して低くないと思われます。

 このような超音速で射出された弾丸は射程もケタ違いです。

火薬式火砲が射程20~30km程度なのに対して、レールガンは一般に150~200kmとも言われています。

最大の問題「エロージョン」を克服

 こうして見てみると「レールガン」は極めて高性能な砲であることがわかるでしょう。しかし、レールガン開発には大きな問題が横たわっています。

 それが「エロージョン」すなわち砲身の摩耗です。瞬間的に大電流を流し、マッハ7の超音速で弾丸を射出するため、電流による加熱が生じて砲身内部が激しく削れてしまうのです。

 実はアメリカ海軍は、2021年にレールガンの開発を事実上中止しました。

その理由の一つがエロージョン問題だったとも言われています。アメリカの報道によれば、12~24発の射撃で砲身が使い物にならなくなったそうです。

 では、日本のレールガンは、この問題にどう取り組んでいるのでしょうか?

これぞ未来の大砲「レールガン」の使い方、研究現場で聞いてきた 米軍も諦めた課題、日本が世界をリード!
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現在試験されているレールガン。側面の青いラインについては、機能に関わる特殊な材質なのかと思いきや、単なるデザインという回答だった(画像:防衛装備庁)。

 日本は、「レール(砲身)の素材変更」と「電流の流し方の変更」、この2つによって、エロージョン問題を克服したとのことでした。

 まず前者ですが、これまで導電性や加工のしやすさから銅を主に砲身の素材として使っていたところを、導電性が高く摩耗に強い素材に変更することでクリア。

そして後者については、瞬間的に大きな電流が加わらないように流し方を工夫したそうです。

 これにより、日本のレールガンは秒速2000m以上の弾丸を120発まで発射することに成功しました。しかも120発撃ったあとでも砲身に目立った損傷はなく、実用化に向けて大きく前進しています。

超高速・小型・安価がキーワード

 日本はレールガンをどんな用途に使うつもりなのでしょうか。防衛装備庁が公開した動画では、車載型や艦載型が敵艦艇を攻撃する様子や、落下してくるミサイルを迎撃する様子が描かれていました。

 公開された資料でも、対艦・対空(対極超音速ミサイル)が将来構想として示されています。

一方で、こうした用途にはミサイルという既存兵器が存在します。どのように、差別化や役割分担をしていく考えなのでしょうか。

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レールガンの基本的な機能を解説したイラスト。電気を流すことによって生じる電磁気力(ローレンツ力)によって弾丸を前方に射出する(画像:防衛装備庁)。

 まず、レールガンのメリットとして挙げられるのが、コストやサイズのメリットが大きいという点です。ミサイルは1発1発が複雑なシステムで構成されており、大きく高価です。対してレールガンの弾丸はミサイルより小さく、とても安価です。

 そのため大量の弾丸を携行したり、射撃したりすることが可能になります。また弾丸が小さいためレーダーで捕捉されにくく、迎撃がとても難しいという点もレールガンの強みに挙げられます。

 ただし、ミサイルには射程が長い(数百~数千km)ことや、高精度な誘導能力でピンポイント攻撃が可能といった強みがあります。そのため、ミサイルとレールガンのそれぞれのメリットを活かした多層的な運用が構想されているようです。

「発射機」から「砲システム」へ

 現在、1発1発の単射により技術的課題を解明するための試験が行われており、今後は連射や電源、弾丸の安定飛翔などの課題に取り組むことが予定されているとのことでした。つまり、単なる「発射機」から「砲システム」へと、より実用的な防衛装備品に近づけていくことが、これから必要になります。

 動画で公開された現在の砲も、そのまま実戦に用いるようなシロモノではなく、あくまでレールガンの基礎技術を確立するための試作機です。そのため、最終的には運用目的やプラットフォーム(車両や艦艇、または地上固定式など)にあわせて、大きさや口径も変化していきます。

 たとえば、長射程を活かした運用が考えられる一方で、速度(威力)を重視した比較的短射程の運用も考えられます。運用側、すなわち自衛隊サイドが何を要望するかによって、完成形はまったく違うものになるでしょう。

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イラストで示されたレールガンの将来構想。長射程を活かしたスタンドオフ防衛能力(敵の脅威圏外からの対処)や、安価で大量の弾丸を携行できることから連射能力が強味となっている(画像:防衛装備庁)。

 では、いつ実戦配備される見込みなのでしょうか。この点については、具体的な明言こそありませんでしたが、レールガンについては「早期装備化」が防衛省の資料でも示されているため、研究サイドとして技術の積み上げと実証に注力し、いち早い実用化に貢献していくとのことでした。

 実用化されれば、日本の防衛力に大きな役割を占めることは間違いないレールガン。研究者の皆さんからお話を伺い、改めてその完成が待ち遠しいと感じました。

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