中小企業金融円滑化法、ゼロゼロ融資などの政策支援で10年以上にわたり倒産は低水準で推移した。この間、債権回収のノウハウが共有されず、実務で苦労するケースもある。


 契約や債権回収などの民事・商事案件などに多くの実績を誇る弁護士法人三宅法律事務所東京事務所・鈴木雅人弁護士に契約書と債権回収の基本と秘訣を聞いた。


鈴木 雅人 弁護士
 1997年 司法試験合格
 1998年 立命館大学法学部卒業
 2000年 弁護士登録(大阪弁護士会)
 2007~08年 欧州三井物産HD法務部へ出向
 2009年 ニューヨーク州弁護士登録
 2010年 弁護士登録換え(第一東京弁護士会)
 2012年 弁理士登録

―なぜ弁護士を志したのか

 高校時代に裁判官という仕事に関心を持ち、司法試験への挑戦を視野に法学部を選択した。弁護士に関心を持ったきっかけは、大学時代に経済小説家・高杉良の著作である実際の会社更生事件を題材にした『会社蘇生』を読んだこと。この本のお蔭で、倒産も含め弁護士には様々な業務があることを知った。その後、司法修習を大阪で実施したが、大阪は個性的な弁護士が多く、指導担当弁護士の先生が大変魅力的だったこともあり最終的に弁護士を選んだ。

―弁護士法人三宅法律事務所の特徴は

 1938年に大阪で創業し、東京事務所は2002年に開設した。大手生命保険からの保険関連業務など金融に関する事件が多い。一般民事も手がけ、会計事務所からの紹介案件も含め中小企業の事件も担当している。私としては、裁判、訴訟の紛争解決が中心。債権回収の訴訟や民事執行などのほか、倒産分野では破産申立のほか、債権者側の代理で回収の交渉を行うこともある。

債権回収のポイント「契約書と現地観察が重要」 ~ 三宅法律事...の画像はこちら >>

インタビューに応じる鈴木雅人弁護士

―債権回収が「上手くない企業」とは

 端的に言えば「日頃から準備をしていない企業」だ。言い方を変えれば「債権回収は取引を始める契約締結段階から既に始まっており、未収が発生した際だけの問題ではない」という意識を持たない企業のことである。そもそも、契約書や注文書に自分が販売している商品やサービスの内容や代金すら特定されておらず、「別途定める」との記載がありながら何も決めていない場合などは法的なアクションの際に大きな制約が出る。
 また、準備段階の契約書案の内容が立派でも、取引開始を急ぎ、押印等を先延ばしにして未締結が継続している場合もある。これは未収などの問題が発生した際に大きな問題だ。



―債権回収で最も重要なことは

 まずは「回収すべき金額が、回収したいタイミングで本当に法的に回収できる状況なのか」というところである。肝心な際に回収できるよう、普段からの遺漏ない準備が重要だ。
 提供する商品・サービスの内容とその対価である代金が明確であること、支払期限が明確であることといった、ある意味「当たり前」のことが立証手段も含めて準備できているというのがまずは大事である。
 それから別の視点として、取引先企業の動向を、現地確認なども行い注意深く観察することも重要だ。というのも、回収できない債権が発生する前には兆候があるケースも多い。例えば、急に普段にはない妙な形で発注量が増加する、支払が少しずつ数日遅れ始めるなど。支払遅延の場合、数日だからと静観していると、それが常態化し、いつの間にか1カ月遅延に、などということもよくある。
 こうした兆候を察知した際、現地を訪ねると、社員から給与の支払遅延が発生していると聞かれる、在庫状況が不自然、何度訪ねても社長が不在など、債権回収の緊急性を認識せざるを得ないようなケースもある。
 また、遅延発生の際に現地を確認し、担当者と面談するなどして、何らかのコミュニケーションを取ることは、相手企業に「この取引先は未収を絶対に曖昧にしないな」「この取引先にはしっかり支払をしないと大変なことになるな」と思わせ、支払の優先順位を高めてもらうことにもつながる。

―回収困難な債権の原因と対応策は


 回収困難な債権の発生原因は、概ね3つに分類できる。
  ①お金はあるが、支払意思がない。
  ②提供した商品やサービスに不満があるため、払いたくない。
  ③支払意思はあるがお金がない。

 まず発生原因①~③のどれかを見極めることだ。

見極めるには、先ほどお話したように取引先を訪問し、丁寧な状況のヒアリングが重要だ。ヒアリングによって、発生当初の推測や、発生後最初の相手の言い分と実態との間の齟齬に気がつくことも多い。正当な理由を装うための「②を装った①」、実は経営が厳しく支払を極力遅らせたいがための「②を装った③」などもある。その点を見極める必要がある。タチの悪い話だが「③を装った①」みたいなものまであるので注意が必要だ。
 見極めた上で、①の場合は基本的に単なる「ワガママ」であるから訴訟等も辞さない毅然たる姿勢での対応が望ましい。強制執行なども選択肢となる。②は債権者(つまり当方)側にも問題がある可能性がある。先方主張の当否もヒアリングしながら、まずは相手の不満のない部分だけの支払を要求することも現実的な対応としてあり得る。③は最も回収が難しい。「無い袖は振れぬ」は実際にそうなのだが、それでも経営に不可欠なお金なら少ない中からも支払う。先にも説明した、相手に支払の優先順位を高めてもらうための行動は特にこうした局面で効果的だ。


―弁護士が必要な状況は

 昨今、弁護士が通常の取引に出てくる場面が増えていることも承知はしているが、前提として、一般的な取引で弁護士の出番がある状態は異常事態だ。その後も取引があるなら当事者間で解決したほうが納得感もあり、後の「しこり」も残りにくい。
 当事者間で合意できない場合は弁護士が必要になるケースもある。特に先の未収発生原因②などのうち提供した商品やサービスをめぐる紛争性が強いケース、金額が非常に大きい場合など経営へのインパクトや自社の事業へ与える影響が大きいケースなどが考えられる。また、取引先担当者が性格的に難しく、まともな交渉が困難なケースも考えられる。

―債権回収に有利な契約書とは

 繰り返しだがまずは代金、支払期限を明記した契約書・注文書であることが基本である。実際のところ代金の記載はあっても支払期限が明確でないことは少なくない。
 続いて、倒産を想定した場合、期限の議論に関連して、期限の利益喪失(期失)条項は重要である。倒産局面でダメージの減少を考えた時に期限の問題は大きく、「法的に今すぐ請求できるか立場にあるのか」は回収可能性を大きく左右する。
 このほか、ダメージの減少を考える場合に商品の引き上げが考えられる。ここで重要なのが上述の期失条項と並んで解除条項だ。勝手に持ち帰ることは不可能なため、こうした条項を組み込むことで商品の引き上げの可能性も出てくる。加えて、担保は強力だ。担保というと「不動産?抵当権?」「保証?」となりがちだが、例えば代金支払が確認できたタイミングで初めて所有権を移転する所有権留保も立派な担保である。


 こうした内容は、金銭面だけでなく商品面のダメージを最小限に抑えることにもつながる。

―債権回収の実例として印象的な事案は

 1つは、再生事件の債権者側の代理人としての交渉案件で、大きな額を回収できた案件。このケースで強く感じたのは担保の有無で回収可能性が大きく変わることだ。販売先企業が商品を第三者に転売しており、法定担保の1つである動産売買先取特権の物上代位も使って大きな額を回収できた。
 もう1つは、個人に対する債権回収案件。この事例では、債務者が所有不動産を地方の親族に信託譲渡しており、詐害行為が疑われる案件であった。そこでさらなる第三者への処分を阻止するため、処分禁止の仮処分を申立てて裁判所の命令が発令されたタイミングで、命令の送達を受けた親族が債務者を強く諭し、全額回収できた。恐らく親族は何も事情を知らされておらず、そんななかで突然裁判所からの命令が来て驚愕したと推測される。処分禁止の仮処分は担保金の供託が必要になる。手間の面も含め依頼者も私も当初申立には慎重だった。しかし、何が奏功するかはわからないもので、何事も選択肢から排除してはいけないと感じた。

―債権回収の限界は

 先ほどお話した未収発生原因③は、本当にお金がないため限界を感じることも多い。判決も回収が出来なければただの紙だ。
 この点に関連して、一般に債権者は全額回収にとらわれ、0か100で考えがちだが、一部でも回収する方法が無いかを探ることは非常に重要だ。

一部なら債務者も支払意思を見せる可能性もある。また、先ほども少しお話したが仮に金銭の回収が困難でも商品の引き上げができれば、その商品を他社に販売することでダメージを軽減できる可能性もある。

―今からできる債権回収の対策は

 まず契約書の点検が必要だ。先ほど述べた期限の利益喪失や解除条件などだ。長い取引で、契約書も既にある中で急に変更を持ち掛けると警戒されるが、昨今は取適法やフリーランス法などが施行されており、法改正を契約見直しの契機にできる。 
 また、既存の契約の見直しができなくとも、新規契約では各条件を確実に盛り込むことはできる。すぐにすべてを満点の状態にすることは難しいが、少しずつでも改善していくことが重要だ。あと、先ほども説明した取引先の観察を行うことはすぐにできるので、明日からでも行うべきだと思う。


 インタビューの最後に鈴木弁護士は、「日常の対応が有事を左右する。有事になってからでは遅く、各企業は普段からの準備を充実させるべきだ」とコメント、平時からの与信管理や債権管理の重要性を強調した。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年4月20日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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