五十嵐亮太が語るWBC2023

侍ジャパンの理想オーダー

鈴木誠也が抜けた侍ジャパンはどうなる? 五十嵐亮太が語った理...の画像はこちら >>

鈴木誠也の出場辞退で起用に注目が集まる近藤健介(左)と、緊急招集された牧原大成

【グラウンド内外で存在感を発揮するダルビッシュ有

――強化合宿、壮行試合、強化試合も始まり、WBCに向けて着々と侍ジャパンの調整が続いています。あらためて、全30名のメンバーについてどう見ていますか?

五十嵐 バランスがいい理想的な選考になったと思いますね。これは本当に栗山英樹監督が、かなり時間を使って粘り強く交渉したから実現したメンバーだと思うんです。

選手たちに直接熱く訴えかけることで「栗山監督のために」となるケースが多かったし、各球団やスタッフたちに対しても、しっかりと交渉されたんだなと。栗山さんじゃなかったら、ここまでのメンバーは揃わなかったかもしれませんね。

――栗山さんの実直な人柄、粘り強い交渉力で可能となったメンバーですね。これまでWBCを率いた、王貞治原辰徳山本浩二監督たちとはまた違ったタイプの監督なのかもしれないですね。

五十嵐 確かに、今までの監督とはタイプは違うかもしれないけど、それは栗山さんの個性だし、栗山監督ならではのカリスマ性だと言えます。田中将大投手も代表入りを希望表明していたけど、栗山さんは直々に電話をして断りを入れるなど、選ばれなかった選手へのケアも「さすがだな」と思いました。
そこまで選手の気持ちを考えて丁寧に交渉していくことは、時間も労力も必要なことなので、栗山さんはほとんど寝ていなかったんじゃないですかね。

――投打の精神的支柱について伺いたいのですが、連日、ダルビッシュ有投手を中心とした報道が続いています。やはり、投手陣の中心はダルビッシュ投手でしょうか?

五十嵐 それは間違いないでしょうね。ダルビッシュ投手の場合、「勝つためにどうするべきか」を1番に考えています。それに加えて、今までの自分の経験を踏まえて、「それをどうやって若い選手に伝えるのが正しいか?」ということも考えている。それは、本当に労力が必要なことです。


――五十嵐さんもアメリカから帰ってきてソフトバンクに入団した際には、その点を意識していたのですか?

五十嵐 もちろん、意識はしました。何かよくなる方法があればそれは伝えたし、間違った方向に進んでいれば意見を言うようにしていましたね。でも、僕の場合は普段からチームメイトの選手が相手だったので時間があったけど、侍ジャパンのように期間限定のチームで時間が限られている中で、無駄なく、なおかつ的確に伝えられないと選手も混乱してしまうので、その難しさは比じゃないと思います。

――本人から積極的に若手に声をかけて、自らコミュニケーションを取るように意識しているように見えますね。

五十嵐 今まで、いろいろな経験をしているというのもあるでしょう。彼自身、若い頃から代表入りしていますし。
はたから見ていても、決して「上下関係」を押しつけず、「同じ目線でやっていきましょう」というスタンスが伝わってきます。とにかく「いいものは共有しましょうよ」という組織作りを意識していますね。

【野手の中心は、大谷翔平、そして村上宗隆】

――投手の中心がダルビッシュ投手だとすると、野手の中心は誰になるでしょうか?

五十嵐 "二刀流"の大谷翔平選手を「野手」として見るとすれば、やはり大谷選手だと思います。

――大谷選手ですか! その理由を教えてください。

五十嵐 間違いなく、みんなが大谷選手の動向を気にするし、一挙手一投足に注目するわけです。彼がどんな調整をしているのか、どんな練習をしているのか、他の選手たちは「少しでも何かを吸収したい」という思いで一緒にいると思うので、必然的に彼が中心になるんじゃないかと。ただ、「中心」という言い方は、ちょっとニュアンスが違う気もするんです。



――どのように違いますか?

五十嵐 僕は、ダルビッシュ投手の言葉がすごく好きで、彼は「僕が引っ張るとかじゃない」と言っている。さっきも言ったように、ダルビッシュ投手の場合は「みんなでやっていこうよ」という意識が強いですよね。そのほうが、ひとりひとりの選手が自覚を持ってやれるんです。

 今回の侍ジャパンは、特定の誰かに頼るというチーム作りじゃないはず。もちろん、結果的にダルビッシュ投手や大谷選手が活躍するとチームに勢いがつくから、チームの中心であることは間違いないですが、彼らはいわゆる「キャプテン」的な存在ではないと思いますね。

――では、打線の注目は「四番・村上宗隆」となるでしょうか?

五十嵐 彼の場合はオリンピックにも出ているし、こういった代表の中に入った時でも普段通りにプレーができる。
きちんと「自分がどうすべきか」「何をすべきか」と、自分の役割も理解していると思うんですよね。昨シーズンは三冠王に輝いて、自信も実力も兼ね備えている。「若いけれど四番」という自分の立場もしっかりわかっているので、チームを鼓舞するような役を自分から買って出ると思います。まさに適任です。本当に謙虚で、丁寧で、人間味があるし、いかにも"ヤクルトらしい"選手という気がしますね。

【五十嵐亮太が考える「侍ジャパンスターティングメンバー」】

――昨秋に、「五十嵐亮太が選ぶWBCスターティングオーダー」を伺いました。

五十嵐さんが候補に挙げた塩見泰隆、柳田悠岐両選手は代表入りとはなりませんでした。また、鈴木誠也選手(カブス)がケガの影響で出場辞退となり、ソフトバンクの牧原大成選手が追加招集されましたが、あらためてスタメンを考えていただけますか?

五十嵐 そうですね、塩見選手、柳田選手の代わりに、吉田正尚選手、そしてラーズ・ヌートバー選手が選ばれました。もちろん、塩見選手や柳田選手とはタイプが違うけれども、それぞれいい選手であるのは間違いないですから、何の問題もないでしょうね。鈴木選手の出場辞退は残念ですが、みんなでカバーしていくでしょう。

――それを含めて、オーダーの発表をお願いします。

五十嵐 僕が考える打順は、こんな感じですかね?

1番......大谷翔平(DH)

2番......近藤健介(センター)

3番......吉田正尚(レフト)

4番......村上宗隆(サード)

5番......山川穂高(ファースト)

6番......ヌートバー(ライト)

7番......牧秀悟(セカンド)

8番......源田壮亮(ショート)

9番......甲斐拓也(キャッチャー)

 当初はセンターにヌートバー選手、ライトに鈴木選手と考えていましたが、ヌートバー選手をライトに、センターに近藤健介選手を入れます。打順も、「2番・吉田、3番・鈴木」から、「2番・近藤、3番・吉田」に変更しました。左打者が続いてしまうことになりますが、そこは仕方ないですね。

 そのほか、村上、山川、そして巨人の岡本和真と、ちょっとファースト、サードに似たような選手が多いという気がするけど、それでもやはりいい選手が並んでいますね。もちろん、控えの選手を見ても、誰が試合に出ても何も問題のないメンバーばかりですから、本番が本当に楽しみです。

(投手編:「初戦・大谷翔平、2戦目・ダルビッシュ有」となるのか。五十嵐亮太が考える投手陣のローテ 第二先発や抑えに適任の投手>>)

【プロフィール】
五十嵐亮太(いがらし・りょうた)

1979年5月28日、北海道生まれ。千葉県の敬愛学園高等学校から、1997年にドラフト2位指名でヤクルトに入団。クローザー転向後、最優秀救援投手や優秀バッテリー賞を獲得したほか、2004年には当時の日本人最速タイ記録となる最速158kmを記録した。その後、MLBに挑戦し2010年からメッツ、パイレーツ、ブルージェイズなどを渡り歩く。2013年に日本球界に復帰し、ソフトバンク、ヤクルトで活躍。2020年のシーズン限りで引退した。現在は野球解説者として多方面で活躍している。