名選手の「これぞプロ」という技を間近で見られるのが審判員だ。今回、昨シーズンまでプロ野球史上最長となる38年間NPBの審判員を務めた橘髙淳(きったか・あつし)氏に、守備の名手を各ポジション5人ずつ選んでもらった。

どの選手のどこがすごいのか語ってもらった。

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ゴールデングラブ賞を8回受賞した桑田真澄

【浅尾ー谷繁バッテリーは最強】

── 投手は、最多勝や最優秀防御率のタイトルを獲得した選手がゴールデングラブ賞に選出されることが多いですが、橘髙さんから見た「フィールディングがうまい投手」「牽制がうまい投手」は誰でしたか。

橘髙 桑田真澄投手(元巨人ほか)、斎藤雅樹投手(元巨人)、野村弘樹投手(元横浜)、松坂大輔投手(元西武ほか)、浅尾拓也投手(元中日)です。この5人の守備センスはとにかく抜群でした。マウンドを降りてきてのバント処理、投手ゴロをさばいての1−6−3のダブルプレー、ライナー捕球、一塁牽制、クイックモーション......。守備や牽制のうまさは、自らのピンチを未然に防ぎます。

 試合中盤から終盤の勝負どころでマウンドに上がった浅尾投手は、リリーフ投手として初めてゴールデングラブ賞に輝きました。

 また野村投手は、一塁手としてもやっていけたんじゃないでしょうか。それほどグラブさばきは見事でしたね。

── 捕手はいかがですか。キャッチング、スローイング、肩の強さが基準になると思います。

橘髙 まずキャッチングなら、谷繁元信選手(元中日ほか)が群を抜いていました。昔の捕手のキャッチングは、ストライクゾーンに入れるようにミットを動かしていたのですが、谷繁選手は捕球の際にミットが動かない。

最近流行りの"ビタ止め"というやつですね。

 ストライクとボール、どちらにコールしてもいいような際どい球でも、私のジャッジと谷繁選手のズレは少なかったかもしれません。谷繁選手は「ちょっと甘かったですかね」と正直に申告してくれました。

 谷繁選手は1998年に横浜を日本一に導き、一流から超一流になったと思います。中日移籍以降は、捕手としての技量にさらに磨きがかかったように思います。

 城島健司選手(元ダイエーほか)もソフトバンク時代より、メジャーを経て、阪神に移籍してからのほうがキャッチング技術は向上していたように思います。

それに城島選手は、座ったまま送球するなど、球界屈指の強肩でもありました。

 大事な局面で盗塁を企てたランナーを刺すのは、捕手の見せ場のひとつです。地肩の強さでモノが違ったのは、中嶋聡選手(元オリックスほか)です。中嶋選手がまだ二軍にいた頃、イニング間の投球練習後の二塁送球に見とれました。「低くて強い、すごい球を放るな」と会話したのを覚えています。"甲斐キャノン"の異名をとる甲斐拓也選手もすごいですが、中嶋選手はそれ以上でしたね。

 スローイングで言えば、中村武志選手(元中日ほか)も力強いボールを投げていましたね。あとは古田敦也選手(元ヤクルト)の二塁送球も印象に残っています。手首を効かせて、しなやかに美しい軌道のボールを投げていました。

中田翔の守備センスは抜群】

── 内野ですが、まず一塁からお願いします。

橘髙 一塁手は駒田徳広選手(元巨人ほか)、長内孝選手(元広島ほか)、中田翔選手(巨人)、ロベルト・ペタジーニ選手(元ヤクルトほか)、アンディ・シーツ選手(元広島ほか)です。

 ペタジーニ選手とシーツ選手の外国人ふたりは、バントの打球を素手で捕球し、そのまま送球するアームワークがうまかった。

 駒田選手、長内選手の左利きの一塁手は、右手にはめたミットでボールを処理するため一、二塁間の守備範囲が広い。

たとえば無死、もしくは一死一塁で一、二塁間の打球を捕れるか否かは雲泥の差です。このふたりはショートバウンド、ハーフバウンドの捕球もうまかったです。

 中田選手は抜群の守備センスの持ち主です。ゴロ捕球、一塁ベースカバーに入った投手への送球は見事で、上から横から下からと、いいタイミングで捕りやすいところに投げます。

── 二塁手はいかがですか。

橘髙 セカンドはロバート・ローズ選手(元横浜)、篠塚和典選手(元巨人)、菊池涼介選手(広島)、荒木雅博選手(元中日)、辻発彦選手(元西武ほか)の5人です。

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バッティングだけでなく守備にも定評があったロバート・ローズ

 ローズ選手は5−4−3、6−4−3のダブルプレーの時のピボットマン(内野ゴロによるダブルプレーの際、打球を処理した野手からの送球を受けて、一塁へとボールを転送する"リレー役"の選手のこと)としての素早さと地肩の強さ。当時の横浜は、ローズ選手のおかげで間一髪のダブルプレーをたくさんとりました。それにバックトスもうまかった。1998年の横浜は"マシンガン打線"が注目されましたが、捕手の谷繁選手、一塁の駒田選手、二塁のローズ選手、三塁の進藤達哉選手、遊撃の石井琢朗選手と内野守備も鉄壁でした。

 篠塚選手はとにかく華麗で、守備範囲も広かった。ほれぼれするプレーでしたね。

 菊池選手は抜けそうな打球を捕ってしまう球際の強さが印象的で、ほかの二塁手と比べて守備位置が深かったですね。ヒット性の打球を止めるので、どうしても一塁はクロスプレーになります。そういう意味で、"審判泣かせ"の名手でしたね(笑)。

 荒木選手は堅実さと守備範囲の広さが持ち味ですが、ショートの井端弘和選手とのコンビネーションも光っていました。

【スローイングが安定していた長嶋一茂】

── 三塁手はいかがですか。強打の選手が守るイメージがありますが。

橘髙 中村紀洋選手(元近鉄ほか)はパ・リーグで5度、セ・リーグで2度、ゴールデングラブ賞を受賞した名手ですが、グラブさばきが柔らかく、肩も強かった。

 長嶋一茂選手(元巨人ほか)は槙原寛己投手の完全試合の時に三塁を守っていましたが、強肩でスローイングが安定していました。

 松田宣浩選手(巨人)と言えば、元気あふれるハツラツとしたプレーが印象的ですが、打球への反応がすばらしく、球際も強かったですね。

 あと渋いところでは、よく試合終盤に守備固めとして出場した高信二選手(元広島)です。エラーが許されない場面での堅実な守りは、さすがのひと言でした。

 三塁の最後のひとりは原辰徳選手(元巨人)です。ゴールデングラブ賞は2回とそれほど多くありませんが、やはり華がありました。ふつうのサードゴロでも華麗に見えるあたり、やはりスーパースターは違うなと思いましたね。

── 遊撃手のなかで5人を挙げるとすると誰になりますか。

橘髙 ショートは名手が多かったですね。そのなかで5人を選ぶとなると、川相昌弘選手(元巨人)、池山隆寛選手(元ヤクルト)、今宮健太選手(ソフトバンク)、金子誠選手(元日本ハム)、そして源田壮亮選手(西武)です。

 昔はダブルプレーを避けるためスライディングは激しかったのですが、川相選手や池山選手は足のつま先でのベースタッチは素早く、巧みでしたね。「これぞプロの技だ」と感心しました。

 今宮選手はグラブさばきが華麗で、捕球も安定しています。また三遊間の深い位置からの大遠投も見事ですね。

 金子選手は、派手さはないのですが、スローイングの強さと正確さには目を奪われました。

 今回のWBCでも活躍した源田選手は、スローイングの安定感はもちろん、走者へのタッチプレーの速さは秀逸でした。

【プロ野球史に残る名外野手たち】

── 最後に外野手ですが、守備範囲、肩の強さがポイントになると思います。

橘髙 飯田哲也選手(元ヤクルトほか)は、捕手出身の経験を生かした守備が魅力で、捕ってからの早さ、コントロールのよさがずば抜けていました。また足も速かったので、守備範囲も広かったですね。

 高橋由伸選手(元巨人)はフェンスを恐れない攻撃的な守備と強肩が印象的で、新庄剛志選手(元日本ハムほか)は守備範囲の広さと肩の強さは圧巻でした。新庄選手に関して言えば、コントロールはそれほどいいわけではなかったのですが、弾道の低い送球はプロのなかでもナンバーワンだったと思います。セ・パ両リーグで10度のゴールデングラブ賞に輝いただけのことはあります。

 パ・リーグでは、イチロー選手(元オリックスほか)、田口壮選手(元オリックスほか)の守備範囲の広さ、肩の強さは絶品でした。ファウルになりそうな打球、地面に落ちそうなフライでも難なく捕球していました。グリーンスタジアム神戸の外野を縦横無尽に気持ちよさそうに走り回っていた姿が、今でも記憶に残っています。