2025年春の選抜 スカウトの選手評~投手編 

 3月13日、某所。隣にいた某球団のスカウトの携帯電話が鳴った。

通話を終え、顔色を変えたスカウトがつぶやく。

「健大高崎の石垣(元気)が故障したらしい。センバツは無理そうだって。甲子園には彼を見に行くようなものなのに、これじゃあ、何をしに行くかわからないよ......」

 3月18日から行なわれた第97回選抜高校野球大会。注目度ナンバーワンの150キロ右腕・石垣の初戦は、大会初日の第3試合。真冬並みの気温だったこともあり、脇腹を痛めた石垣は大事をとって登板せず。試合終了まで残ったスカウト陣は空振りに終わった。

 さらにもうひとりの注目投手だった東洋大姫路の阪下漣も、ヒジを痛めたことが判明。ふたりの目玉を失ったスカウトはいっせいにため息をついた。

 その後、幸いなことに石垣は回復。短いイニングながら登板し、最速155キロをマークしたが、その投球を生で見たスカウトは少なかった。

 通常、各球団ともひと回り見て、全出場校をチェックするが、ドラフト対象選手が少ないため、ある球団のスカウトは途中で予定を変更。

近畿地区で行なわれていた甲子園に出場していない強豪校同士の練習試合を視察したり、全32校が登場する前に担当地区に戻ったり、異例の行動を見せた。それだけ現時点ではプロが注目するような選手が少なかった証である。

【選抜高校野球】スカウトが注目の好投手たちをリアル評価 「大...の画像はこちら >>

【大会ナンバーワン投手は?】

 そんな寂しい状況のなか、スカウト陣が高く評価した投手は誰なのか。

 万全ではない状態とはいえ、やはり一番は健大高崎の石垣だった。2回戦の敦賀気比戦の9回二死から登場。5球すべて150キロ超えのストレートを投じてスタンドをどよめかせた。

「大会ナンバーワンでいいでしょう。出力を出せるのが一番の武器。去年はもっと荒れていた。高めに抜けて、それを修正ができないまま終わる試合もあり、相手がボール球を振ってくれなければ厳しいという印象だった。それが今回はまとまった。リリースで強さを出せているし、それによってカットボールもよくなったよね。脇腹を痛めて、うまく力が抜けたのかな。

ケガの功名なのか、それはわからないけどね」(パ・リーグスカウトA氏)

「たった5球だったけど、それなりのものは見ることができました。去年の夏はただ投げているだけだったけど、今回はちゃんとピッチングをしているように感じた。その点は評価できる。あとは体づくりをしっかりしてほしい。とにかく、故障しないでこのままいってもらいたい。それだけですね」(セ・リーグスカウトB氏)

 もうひとりの目玉だった東洋大姫路の阪下は、初戦直前にヒジ痛を発症。初戦は志願して先発したが、1イニング23球で降板。次戦も投げられずに終わった。

「秋は好印象だった。コントロールがよくて、ラインを出せる。出力を抑えて、きちっと投げることができるし、完成度が高いという印象。将来は元中日の吉見一起のような感じになるかな、と思ったんだけど。

今回はかわいそうだったね」(パ・リーグスカウトC氏)

「見たことがなかったから楽しみにしていたけど、残念だったね。左足が少しクロスに入るので肩やヒジに負担がかかるんだろうね。万全なら腕が振れるし、コントロールもいい。いいピッチャーだと思うよ」(セ・リーグスカウトD氏)

【選抜高校野球】スカウトが注目の好投手たちをリアル評価 「大会ナンバーワン投手は?」
昨夏に続き、2季連続甲子園出場を果たした早稲田実・中村心大 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【評価を上げたふたりの左腕】

 今大会では横浜・織田翔希、山梨学院・菰田陽生が150キロをマーク。市和歌山の丹羽涼介、沖縄尚学の末吉良丞ら好投手は多かったが、彼らは全員2年生。スカウト陣からも出るのは彼らの名前ばかりで、3年生の名前はなかなか挙がらなかった。

 そんななか意地を見せたのが、横浜のエースナンバーを背負う左腕の奥村頼人。準々決勝では三者連続3球三振の離れ業を演じた。

「将来的に技巧派としてものになるんじゃないか。同じチームに織田がいることでスピード競争をやめたらしい。それがプラスに出ているよね。バッティングもいいので(打者としても4番)、打者心理がわかっている。打者との駆け引きができている感じがするよね。

ただ、プロで活躍するには、出力を上げることが必要。球速のアベレージが上がってこないと厳しい。それができれば高橋尚成(元巨人ほか)とか辛島航(楽天)みたいになれる感じはするね」(パ・リーグスカウトA氏)

「今年の高校生の左ではトップ3に入るでしょう。変化球を器用に投げられるのがいい。スライダーがあるし、チェンジアップもいい。右打者の外の真っすぐの精度も高かった。スピードも145まで出ていたし、十分に候補でしょう」(パ・リーグスカウトC氏)

 同じ左腕では、早稲田実の中村心大も高い能力を評価された。

「球質はいいものがあるよね。フォームがゆっくりで、ボールが来ているところもいい。打者として対戦するのが嫌なタイプですね。ただ、抜けるボールが多い。これが収まってくると杉内俊哉(元巨人ほか)みたいになるんじゃないか」(セ・リーグスカウトB氏)

「能力はあるよね。

ただ、突っ込んで投げる難しいフォームだから、タイミングが合わないといい球がいかない。再現性を高めるのが一番の課題でしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

【完成度の高さ示した明徳義塾のエース】

 結果は残せなかったが、滋賀学園の長崎蓮汰は186センチ、82キロの大型右腕として素材を評価された。

「練習試合も見たけど、甲子園より練習試合のほうがよかったね。投げるセンスはあるし、指先の感覚はある。あとは出力が出るかどうか。現時点では大きいだけという感じ。育成でなら獲る球団はあるかもしれないね」(パ・リーグスカウトA氏)

「テークバックが小さく、フォロースルーも小さい。スピードが出ないフォームです。もっと腕をちゃんと振れれば、出力が出る。体もあるし、もったいないなと思いますね。ただ、よくなる要素はあります」(セ・リーグスカウトD氏)

 どうしてもわかりやすいスピードに目がいきがちだが、それ以外で評価を上げたのが明徳義塾の池﨑安侍朗。タイブレークで敗れたものの、強打の健大高崎を9回1失点に抑えた。

「完成度が高いピッチャーですよね。まず、両サイドのコースを間違えないところがいい。チェンジアップが決め球ですが、健大高崎戦の一巡目は真っすぐで押して差し込んでいた。二巡目からチェンジアップを使い、健大高崎打線がきりきり舞いだった。数少ないスピードで勝負しない、いいピッチャーです」(セ・リーグスカウトB氏)

 このほかに名前が挙がった投手は、甲子園でも151キロをマークした宮口龍斗(智辯和歌山)、183センチ、91キロと堂々たる体躯の行梅直哉(高松商)、石垣をカバーしてチームを勝利に導いた下重賢慎(健大高崎)、矢吹太寛(東海大札幌)らがいるが、全員に共通しているのが、中村と同じく再現性の低さ。

 何球かに1球はすばらしい球がいくが、継続できない。フォームが自分自身のものになっていない証拠だ。

 また、奥村、池崎が「打者を見て投げる」と評価された一方で、「投げたあとにスピードガンを見ている投手もいた。あれだと、個人競技をやっているようなもの」という厳しい声も聞かれた。夏までに心身とも成長する姿を、スカウトたちは期待している。

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