27.1歳──2023年限りでNPB球団から自由契約となり、現役引退した日本人選手(NPB)の平均年齢だ。一般的な会社員の定年が65歳と考えると、プロ野球選手の競争がいかに厳しいかがわかるだろう。

 今季開幕投手を務めた今井達也(西武)や早川隆久(楽天)、村上頌樹(阪神)、日本代表歴のある藤平尚真(楽天)、種市篤暉(ロッテ)、才木浩人(阪神)はいずれも1998年生まれで、今年27歳になる投手たちだ。キャリアの全盛期に差しかかりつつある彼らは球界トップレベルの実力を誇り、所属球団の"顔"と言える。

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【指名漏れを乗り越え台湾で挑戦】

 その一方で、日の当たらない場所で野球を続け、異国に新たなキャリアを求めた同世代の投手がいる。

 二宮衣沙貴(いさき)と根岸涼。ともに1998年生まれの彼らは、今年台湾プロ野球(CPBL)の富邦ガーディアンズと契約を結んだ。

「アジアで野球をしたいという希望がありました」

 そう口を揃えたふたりを知るファンは、決して多くないだろう。

 二宮は琉球ブルーオーシャンズや茨城アストロプラネッツでプレーし、昨季はNPBファームの新球団くふうハヤテベンチャーズ静岡に加入。ウエスタンリーグ2位の83奪三振、同5位の防御率3.18とまずまずの成績を残したが、同年秋のドラフトでは名前を呼ばれなかった。

 片や、昨年までアストロプラネッツに在籍した根岸は150キロ前後の速球とフォーク、スライダー、カーブを武器とし、2023−24シーズンのコロンビア・ウインターリーグでMVPに輝いたリリーバーだ。こちらも昨年秋のドラフトでは指名漏れとなった。

 ひと言で独立リーグと言っても、今や日本にも30球団近く存在し、そのレベルは多岐に渡る。近年のドラフト会議では支配下での指名が増えてきたように、トップクラスはNPBでも活躍できる可能性を秘めている。

 昨年ベストナイン&ゴールデングラブ賞をダブル受賞した捕手の山本祐大(DeNA)や、最速155キロの右腕投手・石井大智(阪神)は侍ジャパンまで飛躍した。

 二宮と根岸をアストロプラネッツ時代にGMとして担当した色川冬馬氏は、ふたりの実力に太鼓判を押す。

「球速や変化球の数値を見ればNPBで戦える能力を持っていますが、スカウトが視察に来た時に活躍できなかったなど、何らかの理由でドラフトにかからなかったと思います。でも、場所を変えたらもっと評価される選手はいる。実際、ふたりは中南米でも高く評価されています。育成という立ち位置であれ、アジアのトップリーグである台湾でプロ契約できる実力を持っています」

【中南米の舞台で評価された実力】

 二宮と根岸は今年2月、元DeNAのアレックス・ラミレスが監督を務めるジャパンブリーズの一員としてカリビアンシリーズに出場した。昨年12月には同チームの親善試合でベネズエラ・ウインターリーグのオールスターチームと対戦し、実力が評価されて同国球団との契約に至った。いずれも中南米ではトップレベルの舞台だ。

 まだまだ上のリーグを目指すふたりにとって、世界的権威のカリビアンシリーズは貴重な経験になったと振り返る。二宮は言う。

「MLBやNPBの経験者、さらに現役メジャーリーガーがいた舞台で自分の真っすぐは通用しました。2月頭に試合をすることは初めてでしたが、あれだけのパフォーマンスを出せて自信になりました」

 カリビアンシリーズではプエルトリコ戦に先発し、5回途中まで2失点と好投。対戦した元西武のデビッド・マキノンは「腕の振りが見えにくいので、球速より速く感じた」と称賛した。

 対して、根岸はチームメイトの川﨑宗則やコーチの藪恵壹、高橋尚成という元メジャーリーガーに背中を押された。

「ここまでやったからには、自分が納得するまでやったほうがいいよ」

 大舞台で結果を残してきた一流の言葉は、根岸の胸に響くものがあった。同大会後、富邦のトライアウトに合格して次の道が開けた。

 二宮は台鋼ホークスの入団テストにも参加したが、契約を勝ち取ったのはジャパンブリーズのチームメイトで、同じく同球団のトライアウトを受けた左腕の櫻井周斗(元DeNA)だった。それでも二宮は、昨年のウエスタンリーグでの成績やカリビアンシリーズでの投球内容が評価され、根岸と同じ富邦でプレーすることになった。

NPB未経験の二宮衣沙貴と根岸涼 27歳になる彼らはなぜ台湾プロ野球でプレーする道を選んだのか
2023ー24シーズンのコロンビア・ウインターリーグでMVPに輝いた根岸涼 photo by Irokawa Toma
 いずれも二軍スタートだ。CPBLの一軍は、同時出場できる外国人は3人までで、これからアピールして一軍昇格を目指していくことになる。色川氏によると、待遇は「NPBの育成契約くらい」だという。

 実は、ふたりともメキシカンリーグからもオファーが届いていた。それでもCPBLを選んだ裏には、ある理由があった。

 2026年シーズンから韓国プロ野球(KBO)で導入される「アジアクォーター制」を見据えてのことだ。3人の外国人選手に加え、アジアやオーストラリアの選手を1人登録できる制度である。

 色川氏が説明する。

「KBOの10球団にそれぞれ1枠あるので、10選手にチャンスが生まれます。そこを日本人、台湾人、オーストラリア人で争うことになるはずです。現状のルールでは、2025年にアジアとオーストラリア以外でプレーした選手はアジアクォーター制に入れません。その点も考慮し、根岸と二宮はメキシコではなく台湾でのプレーにこだわりました」

 台湾は昨年のプレミア12で初優勝したように、トップ層は日本とも互角に戦えるレベルにある。そこで結果を残せば、KBOのアジアクォーター制でも候補に入ってくるはずだ。

【NPB入りへラストチャンス】

 そこを見据えるふたりには、先に続く目標もある。二宮にとってはNPBだ。

「ピッチャーは、27歳か28歳がドラフトの最後のチャンスだと思います。オリックスの阿部(翔太)さんが、28歳で指名された前例もあるので。台湾からNPBに行った人もいますし、日本に近いので情報も伝わりやすいなと」

 一方、根岸は少々スタンスが異なる。

「NPBにこだわっているわけではなく、評価してくれる球団があるならそこでやりたいなと思います。もちろん、NPBが評価してくれるのであれば、そっちでプレーしたいと思います。

なんとも言えないですね、そこは......」

 NPBは世界でもトップレベルのリーグだが、選手はチームからオファーを受けて初めてプレーできる。今年27歳になるという年齢が、NPB入りのネックになるが、プロ野球選手の全盛期は20代後半とも言われている。

 事実、彼らはこの年齢まで続けて上達している実感があり、だからこそ現役を続けたいと考えている。

 二宮は台湾での挑戦をこう話した。

「この歳で野球をやりたくてもやれない人が多いわけじゃないですか。チームがなかったり、クビになったり。自分は野球を続けられていることに感謝しながらプレーしたいです。あとは結果の世界だと思うので、そこで圧倒して、次のステージに行けるように頑張っていきたいです」

 根岸も同様の心境だ。

「今と30歳になった自分を比べたら、おそらく後者のほうがパフォーマンスは上だと思います。そういう意味では、まだまだ伸びしろを感じている部分があります。もっともっと頭を使って、いろんな練習をしないといけない。台湾でもチームの勝利に貢献できるようなピッチングをして、さらに上のリーグなど、よりいい評価を求めて日々進歩していきたいです」

 どんな世界にも開拓者はいる。

野茂英雄がメジャーリーグへの道を切り拓き、今や野球少年たちが夢見る場所になった。

 台湾球界に二軍から飛び込んだ二宮と根岸は、アジアで先駆者となれるか。今年27歳を迎えるふたりには、まだまだ可能性が残されている。

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