高木豊が評価する2025年シーズンの監督たち

セ・リーグ新監督について

 開幕から熾烈な戦いが続くプロ野球では、今季から指揮を執る新監督の戦いぶりにも注目が集まっている。かつて大洋(現DeNA)の主力選手として活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとしても活動する高木豊氏はどう見ているのか。

まずは、セ・リーグの新監督に対する見解を聞いた。

高木豊が語るセ・リーグ新監督 阪神・藤川球児、中日・井上一樹...の画像はこちら >>

【藤川監督は「我慢をしている部分もある」】

――まず、阪神の藤川球児監督についてお聞きします。ここまでの選手起用をどう見ていますか?

高木豊(以下:高木) 現役時代に名リリーバーだっただけに、投手交代に細心の注意を払っていますし、そこに愛情がある監督という印象です。

 野手に関してはレギュラーが成熟していますし、打順にしても選手起用にしても岡田彰布監督がやっていたことを継承するしかないと思うんです。打順はクリーンナップの配置を少し変えることはあっても、大きくは変えていませんしね。でも、その"継承する"ということが強いチームにとっては大事なんです。

 新監督は「自分の色を出したい、この部分を変えてみたい」といろんな欲が出てくるものですが、ここ2年で優勝、2位となったチームを引き継いだわけですから、それほど変える部分はありません。言い方を変えれば、"自分の色を出したくても出せないチーム"とも言えるので、我慢をしている部分もあると思います。

――采配面に関してはいかがですか?

高木 独自色のある采配をするのは、交流戦くらいからなんじゃないかなと。プロ野球の開幕前に行なわれたシカゴ・カブスとのプレシーズンゲームでは、佐藤輝明を2番・右翼で使いましたよね。そういう起用をすることもあるでしょうし、DHが使える時に少し自分の色が出てくるんじゃないかと。

――昨季はチーム盗塁数がリーグ5位の41個でしたが、今季はここまでリーグトップの21個(2025年5月1日時点)をマークしています。

高木 あまり大きくは動きませんが、走らせようとはしていますね。

甲子園での戦いでは打ち合いになることがほとんどなく、接戦になりやすい傾向があります。だから、「足を使って1点を取りに行く野球をやらなければ」と思っているはずです。

 ランエンドヒットもそう。バッターが追い込まれたカウントや、相手バッテリーが勝負してきそうなタイミングで、思い切ってランエンドヒットを仕掛けています。

――監督に就任するまで指導者経験がなかったわけですが、そのあたりの影響は感じますか?

高木 特には感じません。そのあたりはセンスなんです。何年コーチをやっていても、センスがない人はセンスがないですから。それと、解説者時代もそうでしたが、言葉を大事にするというか、使い方が巧みですよね。いろいろな含みを持たせながら話しているような気がします。

 その点で、岡田監督はストレートだった。言葉の真意がわかりやすかったですが、藤川監督の言葉は受け取り手によって「どっちに取ればいいんだろう?」「それは本音なのかな?」と解釈がわかれそうです。ただ、そこでどう感じるかは、選手それぞれでいいと思いますけどね。

【井上監督は「もっと泥臭く」】

――セ・リーグのもうひとりの新監督、中日の井上一樹監督についてもお聞きします。選手起用はいかがですか?

高木 理想と現実のギャップを感じているんじゃないかと思います。例えば、石川昂弥はポテンシャルには魅力がありますが、いきなり4番に固定するのはどうだったのかなと。「石川は4番」と早くから明言していましたが、3年連続で最下位のチームですし、柔軟性を持たせておいたほうがいいと思うんです。石川を4番で起用していた時は、細川成也をスタメンから外すことがあるなど、少々クエスチョンマークがつきました。

――ピッチャー陣はいかがですか?

高木 高橋宏斗は苦しんでいますが、全体的に安定感がありますね。課題は打線です。とにかく点が取れません。勝負弱いチームというのは最初からわかっていたこと。昨季もチャンスは作るけど、あと1本が出ないシーンが多々ありました。そこをどうするかを突き詰めて考えていけば、点は取れるようになるはずなんです。

 もっと泥臭く、点を取れる時に取っておかないと。

例えば、ランナーが三塁にいてノーアウトだったとしても、なりふり構わずスクイズでもいいから1点を取りにいくべきです。とにかく、得点する確率が高いほうを選ぶべきだと思うんですよ。

がむしゃらに点を取っていけば、後から格好もついてきます。今は4番にこだわる時代でもありません。固定観念に縛られていてもチームは変わりませんし、まだまだ選手の成長にも時間がかかりそうです。

――どう改善していくべきでしょうか?

高木 当然、バッティングを教えることは大事ですが、キャンプの時点からプッシュバントを徹底的に覚えさせてもよかった。今の中日にはそういうことが必要です。満塁の場面で内野手の守備位置が下がっているのに、振り回してポップフライや三振というシーンも見ますが、バントという選択肢があっていい。そこでワンアウト取られても、チャンスは続くわけじゃないですか。打つのを待っていてもタームリーが出ないのは、昨年に数字で実証されていますしね(2024年のチーム得点圏打率.226)。

――井上監督は、就任当初より"モチベーター"としての能力が期待されています。

高木 選手に気分よくプレーさせ、選手に好かれることも大事ですが、弱いチームは改善点が多々あります。

選手に対しての厳しさは絶対に必要ですし、それはクールでなければできません。まずは嫌われてもいい。2、3年経った時にチームが勝てるようになり、選手たちの給料が上がったら、監督は尊敬されて好かれるようになるんです。

 藤川監督は指導者経験ゼロからスタートして、戦いながら監督としての考え方を構築していっている状態。一方で井上監督は、矢野燿大監督時代の阪神で一軍のヘッドコーチを務め、中日でも二軍監督を務めた。そこで、監督としての理想像を構築していたと思うんですが......今はそれが崩れ始めているような気がします。

(パ・リーグ新監督たちを高評価 楽天・三木肇監督も「腹が据わっている」>>)

【プロフィール】

高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。

そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

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