高木豊が評価する2025年シーズンの監督たち
パ・リーグ新監督について
(セ・リーグ新監督 阪神・藤川球児、中日・井上一樹のここまでの評価は?>>)
高木豊氏が語るプロ野球新監督のパ・リーグ編。オリックスの岸田護監督と西武の西口文也監督、楽天で2度目の指揮を執る三木肇監督について聞いた。
【オリックスの岸田監督は「柔軟性が身についている」】
――まず、オリックスの岸田監督についてお聞きします。ここまでの選手起用をどう見ていますか?
高木豊(以下:高木) 今のところは、選手たちが個々でいいスタートを切った印象が強いです。西川龍馬や杉本裕太郎、頓宮裕真、太田椋など、オープン戦で打てなかった選手たちが、開幕した途端に打ち始めた。指揮官としては心強いと思います。それと、岸田監督はピッチャー出身なだけに、投手陣の起用法には長けているように感じますね。
ただ、(4月9日の)ソフトバンク戦で、6-5と1点リードして迎えた9回に平野佳寿を登板させ、4失点した場面は気になりました。平野の700試合登板達成にこだわったというか......。もちろん大切なことではありますが、チームの調子がよかっただけに、アンドレス・マチャドで締めるべきだったんじゃないかと。情が入ってしまったのかな、と思いましたけどね。
――采配面に関してはいかがですか?
高木 オーソドックスな印象ですが、ここぞという場面では西川にバントをさせたり、なりふり構わずに1点を取りにいきますよね。中嶋聡監督時代に、リーグ3連覇に貢献した水本勝巳ヘッドコーチの存在も大きいと思います。野手に関することは任せているでしょうし、選手も水本コーチを慕っていますから。
――ドラフト1位ルーキーの麦谷祐介選手、同4位ルーキーの山中稜真選手を積極的に起用しています。
高木 麦谷は9番からスタートさせ、ちょっと慣れてきたら1番に据えていい活躍をしたりと、積極的かつ慎重に起用していますね。今は状態がいい野手がそこそこいますし、層が厚くなってきたことも影響しているでしょう。そういった部分はいいのですが、やはり平野の時のような情は見せないほうがいい。そこで失敗することってたくさんあるので。
――西川選手が開幕から好調でしたが、少し当たりが止まってきた時に麦谷選手や山中選手を起用し、いい活躍を見せました。その後、再び西川選手を起用してまた調子を上げたりと、野手の起用は柔軟な印象があります。
高木 やはり、長くオリックスというチームにいることが大きいと思います。歴代の監督も、野手を固定して戦った指揮官があまりいないような気がするので。臨機応変に戦っていくのがオリックスの野球ですし、そういう柔軟性が身についているんでしょうね。
あと、なかなか心理が読めないですね。それは監督としていい部分だと思います。状況によって、ちょっと目つきが変わる時もありますが、基本的にポーカーフェイスですよね。
【西武の西口監督は「厳しさ」も「温厚さ」もある】
――続いて、西武の西口文也監督の選手起用はどう見ていますか?
高木 西口監督も柔軟性があるというか、うまく周囲の意見を取り入れている感じがします。鳥越裕介ヘッドコーチや、仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチらを迎え入れましたが、"外"にいた人間の意見も参考にしているなと。
――ドラフト2位ルーキーの渡部聖弥選手を開幕から5番に抜擢したり、4番で起用していたレアンドロ・セデーニョ選手の状態が悪いと見るや、引っ張りすぎずに外すなど、臨機応変に対応している印象です。
高木 柔軟ですし、実力優先というのがいいですよね。遠征中の移動日に寝坊した佐藤龍世を「危機感がない」と3軍に落とすなど、やり方は非常にいいと思いますよ。チームにいい緊張感をもたらしますから。厳しさもありながら、感情をむき出しにすることがないですね。
タイラー・ネビンが打てなかった時は、スタメンから外すのではなく打順を下位にしましたよね。それで慣らして、よくなってきたら3番に上げるなど、そういったところにも柔軟性を感じます。それと、温厚さもある。これは、さっき言ったような情ではなく、「静かに見守っている」という感じ。そういう姿勢がオーダーにも表われています。もしかしたら、「監督のために勝利を」と選手たちに信頼される指揮官になるかもしれませんよ。
――投手起用に関してはいかがですか?
高木 ピッチャー出身で、投手コーチや二軍監督の経験もありますし、さすがと思える目を持っています。二軍監督時代に育ててきた菅井信也も思い切って抜擢していますし、そのほかの若いピッチャーもいい刺激を受けているでしょう。今井達也や隅田知一郎は抜群にいいですし、ここに武内夏暉も帰ってくるとなると厚みが出てきますね。
――高木さんが以前からポテンシャルを評価している、7年目の渡邉勇太朗投手はいかがですか?
高木 真っすぐに力があるのはいいのですが、制球がまとまらなくなる時があるなど課題は見られます。それでも投げていかなければ成長しませんし、西口監督も見守っている状態じゃないですか。あとは髙橋光成が勝てるようになれば、上位を狙えるチームになっていくでしょうね。
【楽天の三木監督は「野球勘のよさを感じる」】
――最後に楽天の三木肇監督について、選手の起用法をどう見ていますか?
高木 一度、一軍監督の経験があるだけに腹が据わっています。状態の悪い選手は実績に関係なく外しますし、厳しさもある。昨季ベストナインの辰己涼介、昨季に12球団で唯一全試合フルイニング出場した小郷裕哉も、状態が上がらなかったためスタメンから外し、二軍に落としましたよね。
そういう決断を大胆にできますし、個人のことはあまり頭に入れていませんよね。常にチームを最優先に考えているところがすごくいい。遠慮がないというか、あくまでもチームが勝つための選手起用に徹しているなという印象です。
逆転勝利を収めた(4月17日の)ソフトバンク戦では、ここぞの代打で村林一輝を使ってホームランが出た。相手ピッチャーはロベルト・オスナだったのですが、村林は真っすぐに強くて状態もよかったですし、起用が見事にハマりましたね。
――采配はどう見ていますか?
高木 作戦面で、センスというか野球勘のよさを感じます。選手の特徴や相手バッテリーの動きを見て、ここはエンドランのほうがいい、バントのほうがいいかとか、いろいろな角度から結論を導き出していることが感じ取れるんです。二軍監督も経験していますし、選手のことをよく知っているということもあると思いますけどね。おそらく彼は策士ですよ。
――課題を挙げるとすれば?
高木 宗山塁を起用しているから村林も、といったように選手に気を遣いすぎないことですね。確かに村林も実力者なので、ショートで使わなければと頭をよぎることもあるでしょう。
でも、やっぱり宗山を大きく育ててほしい。すでに数試合休ませていますが、休みはいらないですよ。ヘトヘトになっても使い続けるくらいの厳しさを乗り越えさせてレギュラーに育てていってほしいです。村林をサード、宗山をショートで先発させる起用もしていますしね。
――チームの中心選手として育てるなら、今は休みはいらない?
高木 休みを与えると、時として「今日はちょっと休みたいな」と思うようになってしまうのが人間ですから。よっぽどの理由があるならいいのですが、開幕して約1カ月の段階で休みがあるのは、僕的には「ナシだな」と思うんです。近い将来に球界を代表するショートになる可能性が高い選手だと思いますし、WBCのような国際大会でも日本の中心選手になれる逸材なだけに、厳しく育てていってほしいです。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。