連載第97回 
サッカー観戦7700試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 現場観戦7700試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 サッカー女子日本代表がアメリカと3連戦。

格上相手との差を詰めたように見えましたが、フィジカル能力の差も感じられました。なぜ両国にはそうした差があるのか。後藤氏が歴史を紐解きます。

【純粋な走力の差が大きかった3連戦】

 先日の女子アジアカップで3度目の優勝を決めたサッカーの女子日本代表がアメリカ遠征を実施して、アメリカ代表と3連戦を行なった。

【女子サッカー】なでしこジャパンが長く抱えるフィジカルの差 ...の画像はこちら >>
 アメリカは現在のFIFAランキングこそ2位だが(1位はスペイン)、女子W杯で過去4度の優勝を誇る世界最強国のひとつ。その"格上"相手に3連戦できることは、日本代表の強化にとっては最高の機会となった(正式監督不在のなかの遠征だったのは非常に残念だが......)。

 日本はカリフォルニア州サンノゼでの初戦は1対2で競り負けたものの、アメリカが若手を多数起用してきたワシントン州シアトルでの第2戦では、浜野まいかのテクニカルなシュートによるゴールを守りきって1対0で勝利。過去2度しか勝てていなかったアメリカを破ったことで期待は高まったが、アメリカがベストメンバーを並べて勝ちに来た最終戦(コロラド州コマースシティ)は0対3の完敗に終わった。

 この試合では、とにかくアメリカ代表のフィジカル能力に対処することができなかった。

 とくに純粋な走力の差が大きく、長いボールを入れられてサイドの選手に走られるとまったく捕まえることができなかった。

 あれだけの走力の差があるとするなら、前からプレスをかけ続けるような守備だけでは守りきれない。来年ブラジルで開催されるW杯で優勝を狙うのであれば、何らかの対策が必要なのは明らかだ。

 もっとも、最終戦の3失点のうち2点はCKから。

3試合を通じてCKから相手をフリーにしてしまう場面が何度もあった。それなら、セットプレーでの守備を改善すればかなり守れるのかもしれない。もう1点(2失点目)は中盤でミスを拾われたものだったが、最終戦は試合中に気温が下がってピッチが堅くなる悪条件でミスが増えてしまったように見えた。

 しかし、フィジカル能力の差は大きく、スピード面の差は埋められていないが、当たりの強さという意味では昔よりはかなり差が詰められているようだ(なにしろ、日本代表のほとんどの選手がイングランドの女子スーパーリーグなど欧米のトップリーグでプレーしているのだ)。

 2011年のW杯ドイツ大会決勝で日本はアメリカと対戦。PK戦で勝利してW杯初優勝を飾ったが、当時の日米両国の差は現在より大きく、「2度リードを許しながら、2度とも追いつけた」という展開は奇跡のようなものだった。だが、最近の対戦では互角に近い時間帯もあるし、アメリカが若手を起用したり、パスをつないでのビルドアップにこだわった場合には勝てるようにもなっている(昨年のシービリーブスカップ以降の4試合は2勝2敗!)。

【30年前に感じたアスリート能力の高さ】

 僕が初めてアメリカ女子代表の試合を見たのは、1996年のアトランタ五輪でのことだった。

 女子サッカーが初めて五輪の正式種目となった大会であり、日本は男女がそろって出場。男子(U-23代表)はメキシコ五輪以来の出場だったが、初戦でブラジルを破る「マイアミの奇跡」を起こした。

 僕は男子の試合をフォローしていたので、残念ながら日本女子代表の試合は見られなかったが、日本男子のナイジェリア戦の前に同じオーランドのシトラスボウルで女子のアメリカ対スウェーデンの試合を観戦した。

【女子サッカー】なでしこジャパンが長く抱えるフィジカルの差 なぜアメリカ代表はアスリート能力の高い選手が揃うのか
1996年アトランタ五輪、シトラスボウルでのサッカー競技入場券(画像は後藤氏提供)
 アメリカ女子代表全盛時代である。

 印象はまずそのアスリート能力の高さだった。

 日本の女子チームも木岡二葉や半田悦子、野田朱美、高倉麻子といったテクニシャンが揃っていたが、フィジカル的にはアメリカに対抗することは不可能のように思えた。

 実は、女子サッカーの世界でフィジカル能力の差を感じたことはさらに昔にもあった。

 1980年代から1990年代にかけて、アジアでは中国女子代表が圧倒的な強さを誇っていた。中国はアジアカップでは1986年の第6回大会から1999年の第12回大会まで7連覇を達成し、1999年W杯では決勝で開催国のアメリカと対戦してスコアレスドロー。PK戦で敗れたが準優勝している。

 1994年の広島アジア大会決勝で日本は中国に0対2で敗れて銀メダルに終わったが、当時の感覚では「中国と2点差なら大健闘」といった感じだった。

 そうしたことを考えると、日本女子代表は相手とのフィジカル能力の差をどうやって埋めて戦うのかを追求した歴史だったような気がする。

【アスリートがサッカーを選ぶ】

 どうして、中国やアメリカはそれほどアスリート能力が高い選手に恵まれていたのだろうか?

 理由は、両国でまったく違う。

 中国の場合は、政府が国威発揚のためにスポーツに力を入れている。しかし、たとえば男子サッカーのように世界中で行なわれている競技では、どれほど資金を投入してもタイトル獲得は難しい。だが、1980年代から1990年代にかけては、女子サッカーに力を入れている国は少なかったから、すぐにメダルを狙うことができた。

 そこで、そういう競技を重点的に強化したのだ。

そのため、たとえば陸上競技で足の速い選手とかバスケットボールの長身選手を選抜して、サッカーで代表を目指すように転向させた。

 だから、アスリート能力の高い女性たちが女子サッカー選手となった。

 アメリカの場合は、もちろんどんな競技に携わるかは選手たちの自由意志だ。そして、アメリカではサッカーは女子スポーツのなかで重要な地位を占めていたし、現在も占めている。

 1990年代まで、アメリカではサッカーはアメリカン・フットボールやベースボールなどには遠く及ばないマイナーな存在で、"移民たちのスポーツ"と見なされていた。

 だが、アメリカン・フットボールはマッチョで危険なスポーツなので、女子の競技人口はほとんどなかった。その代わり、サッカーは"女子でもできるフットボール"だったのだ。

 筆者は、かつて横浜にあったアメリカ人学生向けの学校に勤務していたことがある。全米の大学院で日本研究を目指す学生が選抜されて1年間送り込まれて、日本語などを学ぶのだ。

 そこで、学生たちが「男女が一緒にスポーツをやろう」ということになると、必ず「じゃあ、サッカーだね」という結論になるのだ。

 だから、アメリカでは最もアスリート能力に優れた女性たちがサッカーを目指したのだ。

 日本も、女子サッカー人口は少しずつではあるが拡大し、年代別代表にはフィジカル能力の高い選手も増えてきている。

いつの日か、日本の女子代表がフィジカルの差を感じずに戦える時代が来ることを期待したい。

連載一覧>>

編集部おすすめ