連載:NEXT STAGE~トップアスリートのセカンドキャリア
中編:競泳・今井月インタビュー(全3回)
パリ五輪代表選考会を区切りに引退し、就職活動を経てTBSテレビに入社した今井月(いまい・るな)さんは中学1年で日本選手権の200m平泳ぎで3位になって以降、取材される側であり続けた。当初は注目される喜びもあったが、とはいえ当時まだ10代前半。
だが、取材をするメディアの人たちは、自分の調子が良い時も悪い時も、家族のように接してくれた。そうした原体験が現在の仕事に就くうえで大きな影響を与えた理由のひとつになったという。
◆前編>>切り拓いた新たな人生 プールからTBS報道局への挑戦
【注目を浴びた少女期からスランプへ】
――今までは取材を受ける側の人間でしたが、取材する側のテレビ局への入社を目指すうえで、何かきっかけとなった経験はありましたか。
今井 最初のうちは、自分に向けられるカメラそのものはすごく嫌でしたが、一方でメディアの方々は大好きでした。それこそ地元のテレビ局でずっと取材していただいた方々は、本当に家族のように温かく見守ってくれたんです。それに、水泳をやめたあとも、指導者のような直接的な方法ではなく、取材者のような間接的な方法で水泳に関われるといいな、という漠然とした願望もあったので、選手時代のそうした思いがテレビ局を目指す理由になったと思います。
──高校1年時の2016年にリオデジャネイロ五輪、2017年に世界水泳に出場しましたが、それ以降、国際大会から遠ざかる苦しい時期が続きます。特に大学時代のスランプ期間はどのような心境でしたか。
今井 スランプに陥ったからこそ、水泳だけじゃダメだなって感じる部分もありました。大学1~3年の時は、どうもがいても全然速く泳げないという時期が続いていたので、速く泳ぐことだけを求めて生きていってはダメだなと。自分から水泳を取った時に、何か残る人間でいたいというのは、その頃から強く思い始めました。
もう復活できないかもしれないというところまでいっていたので、だったら水泳以外にも魅力的な人間になるべきだなと思いました。たとえば、人に対して常に笑顔で接するとか、元気がない人の気持ちを理解するみたいなことも含めて、ただ泳ぐことが速いだけの人間で終わらないよう、過ごしてきました。
【東京五輪落選が生んだ転機】
──出場すれば2度目のオリンピックとなる東京五輪の代表選考に落ちた時(2021年)、ちょうど大学3年生でした。周りの学生が就職活動を始めているなか、就活をしなかったのはなぜでしょうか。
今井 東京五輪の選考に落ちたあとは、競技をやめることも頭をよぎりましたが、その年のインカレで初めて負けたんです。これまで夏の国内主要大会で負けたことがなかったので、その時はさすがにこのままじゃ水泳を終われないという気持ちが強かったです。心底悔しかったし、自分はこんなもんじゃないとすごく思っていました。その頃に練習環境を大学からクラブチームの東京ドームに変えたのですが、その時は水泳で生きていく道を選んで、どこまでいけるのかを試してみたかったんです。
──そこはアスリートのスイッチが入った。
今井 もちろん就活をしなきゃという気持ちがなかったわけではないのですが、今しかできない水泳に集中しようという思いが上回りました。
──今井さんは2ブレ(200m平泳ぎ)でトップスイマーとして名を知られるようになった選手ですが、オリンピックも世界水泳も200m個人メドレーでの出場でした。そのあたりも関係していたのですか。
今井 それはありましたね。
──ひとり暮らしを始めて、見えてきたものがあった。
今井 まずは自分が短期集中型の人間だということ。オンとオフをはっきりしないとダメになってしまう性格であることをはっきり自認しました。それまでは自分の考えよりも周囲に影響されていた部分があったのですが、誰に何を言われても自分を信じられるようになりました。引退のときも、ほとんどの人から「現役を続けたほうがいい」と言われるような感じでしたけど、自分の直感を信じて決断をしました。今のところ、自分が下した決断を後悔した日は、一度もないです。
【パリ五輪への挑戦と、引退という決断】
──2022年には6年ぶりに2ブレで自己ベストを更新して2023年の福岡世界水泳には2ブレで代表に入りました。パリ五輪には届きませんでしたが、伸びしろはありましたよね。
今井 いろんな思いがありましたが、やりきった、もうこれ以上きついことはできないと強く感じていました。同時に、別の世界に行くとしたら、絶好のタイミングだと思っていました。
もちろんオリンピックの選考に落ちた直後の1週間はどん底で、朝も夜も涙が止まりませんでした。オリンピックに行けない現実が受け入れられなくて。でも、時間が経つと本当にやることがなくなり、自分自身と対話する時間が増えると、「これは落ちてよかったのかもしれない」と思えるようになりました。現役をやめたあとのことを考えたら、この機会はめちゃくちゃいいチャンスだなと。私、まだ23歳じゃん、23歳なら何でもできると思って、就活しようと思い、いろいろ調べ始めました。
もし私がパリ五輪に行くことができていたら、仮にメダルが取れなくても、ロス五輪まで続けていたと思うんですよ。でも東京五輪のあとに新しい環境で、すべてを信じてきつい練習をやりきったのにパリ五輪に行けなかった。そんな自分がロス五輪に行けるのか? と自問し、きっぱり決断することができました。
後編につづく:「人生は掛け算」が後輩に伝えたいセカンドキャリアの心得
●Profile
いまい・るな/2000年8月15日生まれ、岐阜県岐阜市出身。



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