パリ・サンジェルマン(PSG)対アーセナル。5月30日(現地時間)にブダペストで行なわれるチャンピオンズリーグ(CL)決勝が迫ってきた。
トーナメント戦ではよく「事実上の決勝戦」という表現が用いられる。決勝戦の前段階に当たる準々決勝、準決勝あたりで、前評判の高かった2チームが直接対決することになった時がそのタイミングになるが、今季はそれが前段階ではなく、まさに決勝戦にピタリと一致することになった。
優勝候補の1番手と2番手が決勝で対戦するケースは、よくある話ではない。ブックメーカーの予想がきれいに2分されたケースといえば、2008-09シーズンの決勝戦(バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド)まで遡る。
いやが上にも期待は高まる。オーソドックスな4バックから攻撃的なサッカーを仕掛ける両チームだ。大きな戦力差もなければ、目指す方向性もほぼ同じ。昨季のインテルのように、一方が守備的に偏ることもない。アーセナルはシーズン序盤から好調だった。CLではリーグフェーズを8戦全勝で首位通過したのに対し、PSGはもたついた。11位となってプレーオフに回り、モナコを大接戦の末に下しての決勝トーナメント進出だった。
そこからジワジワと勝ち上がる姿は、優勝した昨季と同じパターンだ。CLでは「シーズン終盤に調子のピークを持ってこないと、タイトルは取れない」とは、筆者がこれまで幾度となく述べてきたことだが、昨季のPSGはそれを実証した。今季も同じ方法論で2連覇を狙う。
【来季に期待のバイエルン】
CLで連覇を達成したチームは、過去33シーズンの歴史のなかでも、レアル・マドリードただ1チームしかない(2015-16シーズンから3連覇)。王手をかけたチームは4チーム(ミラン、アヤックス、ユベントス、マンチェスター・ユナイテッド)存在したが、それぞれ決勝でアヤックス、ユベントス、ドルトムント、バルセロナの前に涙を飲んでいる。PSGがレアル・マドリードに続くチームになれるか。
アーセナルはシーズン終盤の調子でPSGに劣る。シーズン半ばまでは断トツの存在として欧州に君臨していたが、そこから少しずつ下降。プレミアリーグは貯金を生かしてなんとか制したが、CL決勝に向けて余力はどれほど残されているか。ブックメーカー各社がPSGわずかに有利とみる理由だろう。
ルイス・エンリケとミケル・アルテタ。監督はともにスペイン人だ。ちなみに、ヨーロッパリーグを制したアストン・ヴィラの監督、ウナイ・エメリもスペイン人である。さらに言うならば、カンファレンスリーグ決勝に残ったラージョ・バジェカーノの監督、イニゴ・ペレスもだ。フランス(PSG)、イングランド(アーセナル)、そしてスペイン。2026年ワールドカップの優勝候補が、終盤を迎えた欧州のカップ戦にも深く関与しているという事実。それぞれの国の現在の勢いを感じずにはいられない。
だが、個人的にはそれに加えてドイツも見逃せない存在に見える。準決勝でPSGに敗れたドイツサッカーを象徴するクラブ、バイエルンの話である。来季の話をすれば鬼が笑うと言われるかもしれないが、それを承知のうえで、筆者はバイエルンをCLの優勝候補の筆頭に推したくなる。
根拠となるのは準決勝の戦いぶりだ。すなわち敗れ方になる。第1戦(5-4でPSGが勝利)でも、内容的にPSGを上回っているかに見えたが、第2戦も同様で、合計スコア6-4で迎えたアディショナルタイムに入ってもなお攻め続け、ハリー・ケインのゴールで6-5に詰め寄った姿はかなり感動的で、文字どおり来季につながる敗戦と言えた。
【健闘したボデ・グリムト、スポルティング】
ワールドカップもそうだが、勝者に輝くのはわずか1チームにすぎない。他のチームはすべて敗者だ。いずれ敗れる。そのチームの印象はそこで決まる。つまりバイエルンは、"敗れ方コンテスト"で言えばチャンピオンになる。この手のチームは次回、必ず活躍する。
同様に、準決勝でアーセナルに合計スコア1-2で敗れた、ディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリードも、特筆に値する美しい負け方だった。総合力で劣るチームが、格上相手にどう戦うべきか。ワールドカップに臨む日本のような立ち位置のチームには、最高の教科書と言いたくなるようなサッカーをした。
目をこらすべきはボールの奪い方だ。そのベースとなっているのが、マイボールになっても喜ぶことなく、相手ボールになっても落胆することなく、常にフラットな姿勢でボールに向き合おうとする精神である。
「集中!」とはサッカーでよく使われる掛け声だが、具体的には何に集中すればいいのか。いまひとつ鮮明ではないその答えを、アトレティコのサッカーは教えてくれた。ボールの動き、進む方向に最大限の注意を払いながらポジションを取ることが、アトレティコの選手は秀逸だった。そのビビッドさでアーセナルを上回ったことが、接戦に持ち込めた理由だ。その統率の取れた集団的な動きは頭脳的で、ある意味で芸術的でさえあった。
3月に行なわれたイングランド戦で、後ろに下がり、半分クリンチで逃げようとした日本代表とはえらい違いだった。
このほかで目についたのは、ベスト16に進出したノルウェーのクラブチーム、ボデ・グリムトだ。2026年ワールドカップ本大会に出場するノルウェー代表選手も一応3人いるが、若手中心だ。パッと見、リーグフェーズで下位に終わっても何ら不思議はない顔ぶれながら、見事プレーオフを勝ち上がり、決勝トーナメントに進出した。ノルウェーという国の勢いを再認識させる事象と言える。
そのボデ・グリムトを破りベスト8に進出したスポルティングも健闘を称えられていいチームである。ビクトル・ギェケレシュ(アーセナル)という絶対的なエースがチームを去り戦力ダウン必至だったが、CLでは前シーズンよりむしろ成績を上げた。
しかし、その躍進にひと役買った守田英正は、ワールドカップのメンバーから外れた。欧州のクラブサッカーシーンで最も好成績を挙げた選手を選外とした森保一監督は、CLを現在のサッカー界のなかでどのような場所に位置づけているのか。CLを軽んじていると疑われても仕方がない、好ましくない判断と言えるだろう。

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