北中米ワールドカップはベスト32で敗退した日本だが、どこかの国のサッカーを真似る必要はない。これまでも草の根レベルで"日本人が好む、日本人に合う戦い"を積み上げてきた。

その成果は、おぼろげながら見えている。だが一方、日本サッカーはいまだに発展途上で、他国のエッセンスを取り込む努力も怠ってはならないだろう。

 日本がたどり着くべきものに近いサッカーとして、スペインはひとつのモデルと言えるのではないか?

【ワールドカップ】サッカー日本代表が進むべき道 スペインの「...の画像はこちら >>
 北中米ワールドカップ準決勝で、欧州王者スペインはフランスを2-0で下し、ファイナリストになっている。ボールを握る力で相手を圧倒し、キリアン・エムバペを擁するフランスに手も足も出させなかった。大会7試合で1失点とスキのない戦いぶりで、そのサッカーコンセプトは端的に言えば「ボールを大事にする」。それが攻守両面の盤石さを生んでいるのだ。

 自分たちでボールをつなぎ、運べることで、スペインは能動的にプレーすることができる。ポゼッションは守備にもなるし、攻撃は再現性にもつながる。スタイルも変幻自在だ(つなぐだけでなく、縦にも速いサッカーにも変化する)。何より見ていて小気味よく、スペクタクルに通じる。

 ロドリ、ペドリ(今大会はコンディション不良に悩まされているが、代わりにファビアン・ルイスが好プレーを見せた)、ダニ・オルモの中盤はボールを失わず、リズムを作り出す。ラミン・ヤマル、アレックス・バエナの両サイドはボールを持って仕掛けると、相手にとって悪夢となる。

トップのミケル・オヤルサバルは神出鬼没で空間を作り出し、高い決定力を誇る。ペドロ・ポロ、マルク・ククレジャの両サイドバックは起点になりつつ、敵ゴールにも顔を出し、センターバックのパウ・クバルシとアイメリク・ラポルテのカバーや組み立ては絶品だ。

 スペインの主力選手は体格が大きくなく、爆発的なパワー、スピードが売りの選手はほんの一部である。だが、基本技術が高く、集団性に優れ、コンビネーションから崩すアイデアが豊富。多くの選手が幼い頃からボールプレーヤーとしての鍛錬を受け、その利点をチームとして最大限に活用している。

【際立つ「サッカーIQ」の高さ】

 さらに言えば、スペインの強さは「サッカーIQ」に尽きる。

 たとえば、ラウンド16のポルトガル戦と準々決勝のベルギー戦で決勝点を決めたミケル・メリーノはサッカーIQの権化と言える。試合の流れに適応する能力が高く、試合途中でもフィットし、敵にダメージを与えることができる。所属するアーセナルでは、偽9番や攻撃的MFなど、与えられた場所やポジションで最高の働きを見せているが、賢さの賜物だ。

 スペインは、チームとしてボール技術とサッカーIQを最大限に生かすシステム、構造で戦っている。

 フォーメーションは変則的な4-3-3で、中盤の分厚さに特徴がある。ロドリのようなアンカーや、ペドリやオルモなどのインサイドハーフだけでなく、サイドバックやトップの選手も連係に参加。ときにクバルシなどセンターバックもボールを持ち上がり、両サイドに展開する。

そこからヤマルのようなアタッカーが崩し、崩しきれない場合も再び中盤でボールを回し、時間と空間を有利に使って次の攻撃を繰り出す。

 日本もこの形なら、ボールプレーで真っ向勝負ができたのではないか。

 中盤では、鎌田大地佐野海舟、田中碧、守田英正(次の大会は佐藤龍之介に期待がかかる)のようなMFが攻撃の策源地となっただろう。たとえばブラジル戦の終盤も、最終ラインを4バックに変更して中盤を分厚くすれば、攻守を安定させることができた可能性がある。日本はボールを持つことを放棄したことによって、相手に好きなように攻められ、最後は失点を喫した。必然の敗北だったのである。

 森保ジャパンは3-4-2-1を用いたが、中村敬斗、堂安律のような生粋のサイドアタッカーをウイングバックで起用したことは、控えめに言っても「宝の持ち腐れ」だった。サイドから1対1を制して切り込める選手は極めて貴重だ。もしヤマルをウイングバックで使う監督がいたら、即刻クビだろう。

【サイドバックの登用は急務】

 日本人選手は機動力に優れ、日本もスペインに負けず劣らず、サイドアタッカーに好人材を輩出している。久保建英はカットイン、縦への突破と縦横無尽だが、まさにバルサの系譜で同じ左利きでヤマルのキャラと通じる。三笘薫はニコ・ウィリアムスと同じく単騎でも切り込める。

中村はアレックス・バエナ同様、キックに優れ、一発で仕留められるし、堂安もゴールに向かうパワフルさがある。

 彼らを「守備も頑張れる」という平凡な評価でくくるのは的外れだった。攻撃の選手としてプレスバックを頑張らせるならまだしも、ウイングバックはその名のとおり半分はディフェンダーなのだ。

「ウイングバックが守備的だとしても、シャドー(トップ下)の枚数は増えて攻撃的だったのでは?」

 そんな意見もあるだろうが、システム上の不具合は解決されない。なぜなら本職のウイングバックがいない以上、サイドで優位性は保てず、互角以上の相手には結局、ベタ引きの守備に回るしかないからだ。これでは攻撃に手数をかけられない。偶発的なカウンターにかけるのが精一杯で、三笘が親善試合のイングランド戦で得点したようなことも起こるが、ボールを持てないチームは本大会のベスト16以降を勝ち上がれないのだ。

 その意味で日本サッカーはサイドバックの登用も急務だろう。日本人の俊敏さ、連係力、粘り強さ、敢闘精神を考えれば、本来は強みのあるポジションで、内田篤人酒井宏樹駒野友一長友佑都などの人材を輩出してきた。残念ながら、その系譜をアップデートできなかったのが森保ジャパンだったとも言える。

 菅原由勢、伊藤洋輝のようにサイドバックの人材がいないわけではない。右の菅原は久保との関係性がよく、高い位置でボールに絡めるはずだし、左の伊藤はサイドに蓋をしながら、左足でアーリークロスを送る。

また、アーセナル時代の冨安健洋は両サイドバックを務めており、左右どちらでも完璧にフィットするはずだ。

 冨安、板倉滉、高井幸大といったセンターバックはいずれもクレバーで、スペインのクバルシ、ラポルテと同じく、駆け引きやうまさで勝負できるタイプだ。

 上田綺世は日本サッカー史上、屈指の高さと力強さを兼ね備えたフォワードだが、世界のトップと比べると、高さや強さだけでなく、周りとの連係で生きるストライカーである。上田と通じるところのあるオヤルサバルは、そもそも偽9番だ。

 もし森保ジャパンがスペインのように、選手を適切に用いていたら――。優勝は無理でも、ベスト8は現実的な目標となっていたはずだ。今大会は戦う前から限界を抱えていた。

 日本が推進すべきは、犠牲や敢闘の精神を頼みにしたチーム構造ではない。スペインのように、ボールを軸にした創造性や機動力を練り込んだ合理的な戦い方であるべきだ。

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