「独特の緊張感で、負けられない試合が続くと思います」

 髙橋藍(25歳)は、9月4日から福岡県で開幕するアジア選手権への決意を語っている。優勝チームはロス五輪出場権を得る。

今年の代表シーズンは、すべてがこの目標につながっているといっても過言ではない。それだけに、コートに立つ選手には"負けられないプレッシャー"も重くのしかかる。

 日本が最有力優勝候補なのは間違いない。世界ランキングでは日本が6位であるのに対して、続くイランは19位。警戒こそ欠かせないが、それ以外は韓国が26位、中国が37位というぐらい。ただ、"勝って当然"と言える相手ばかりだからこそ、得体のしれない空気の重さを感じるかもしれない。そうした重圧をはねのけ、歓喜の五輪出場を果たせるか。

 際立った勝負強さを見せる髙橋の真価が問われるはずだ。 

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 筆者は今年4月のインタビューで、髙橋にこんな質問を投げている。

――自分は髙橋選手を「勝負の天才」と表現することが多いのですが、どんな試合でもブレない、フラットな立ち居振る舞いが際立っています。

 彼は明朗な声で答えた。

「勝負を楽しめるほうだとは思っています。

緊張やプレッシャーもあるんですが、それも勝負の楽しさで、"やりたくてやっている"と考えればポジティブでいられますね。みんな、勝負はどうしても力が入るじゃないですか? だからこそ、僕はそこで"冷静に"って心がけています」

 どんな勝負でも、髙橋の集中力は下がらない。彼の言う「冷静に」は、スイッチを切る冷たさとは違う。凪いだ状態で平常心を保ちながらも、試合の波のうねりに合わせて時に跳ね上がる。勝機を見出すと、嵐か、スサノオか、ポセイドンか......と、苛烈なまでに暴れ回るのだ。

 パリ五輪後、イタリア・セリエAから戻ってきた髙橋は、SVリーグの顔として1年目からタイトルを総なめにした。サントリーサンバーズ大阪のSVリーグ初代王者に貢献し、チャンピオンシップMVPを受賞。レギュラーシーズンのベスト6に選ばれただけでなく、ベストレシーブ賞も受け、オールラウンドなアウトサイドヒッターの面目躍如だった。リーグの盛り上げに尽力したATTACK THE TOP賞にも輝いた。

【変化を促したふたつの理由】

 2年目は、レギュラーシーズン初優勝の立役者として大活躍。個人でも総得点数、アタック成功率、サーブ効果率、レシーブ成功率など多くの指標で数字を伸ばした。これは瞠目に値した。

 彼に訊ねたことがあった。

――SVリーグ1年目から満点の出来でしたが、2年目の活躍はさらに目覚ましかった。成功に慢心し、研究されて手も足も出ず、という現象もあるなか、驚くべき進化の理由はどこに?

「ひとつは、去年(2025年)の日本代表の期間中にd"キレがないな、もう少しコンディションを上げたい"と思ったんです。数字自体は悪くなかったんですけど、しっくりきていなくて、『何が違うんだろう』ってトレーナーに相談しました。それで『少し体脂肪を減らせたら、パフォーマンスは変わる』と言われて、夏にトレーニングを始め、体質変化には時間がかかるので、シーズン中も継続してやるなか、安定した土台が作れてきたのかなと思います。

 もうひとつは、(2025年の)世界バレーでの予選リーグ敗退などで闘争心が生まれたのはありますね。世間のいろいろな意見に触れることはありましたが、それに対してはグッと堪えて。スポーツ選手なので、"結果で示したい"という気持ちになれました。心に火がついたのは大きかったですね」

 彼のなかで、成長・進化のロジックはあった。代表シーズンでも、今年のバレーボールネーションズリーグ(VNL)では決勝ラウンド進出の最大の功労者となった。総得点数は世界4位だ。

「最後の1点を取りきるのが、エースの役割だと思っています」

 髙橋は自らの使命のように言うが、まさに有言実行だった。

結果、数字として証明した。

 もっとも、髙橋はバレー選手としてただ"勝てばいい"というタイプではない。プレーはインスピレーションに溢れる。コートをまるで遊び場のように見立て、スパイクひとつとっても、インナー、背面ショット、フェイクセットなど技は多彩だ。高いブロックを相手に、空中で止まって右手をかくようにして左手でボールを押し込むトリッキーな"招き猫ショット"も一興だ。

「SVでやっている選手はいないので、意外とできないかもしれません。自分は難しいとは思っていないですが(笑)。あれもイタリア時代、(チームメイトに)エリック(・レプキー)というカナダの選手がいて、彼がよくやっていたんです。当時の自分はやらなかったですが、使えるかもと思っていて、"高いブロックには有効な手段"と去年くらいから取り入れました」

 髙橋はフラットな心理を保てるからこそ、気負わずプレーできるし、技を次々に生み出せる。そして、勝機を感じたときは躊躇なく襲いかかれるのだろう。次なるミッションはアジア選手権制覇だ。

「イラン、それに中国も(優勝争いの)相手になってくると思いますが......たとえば予選で当たるオースラリアも、ここ数年は当たってなくて未知な相手です。

間違いなく、高さやパワーはあると思いますから」

 髙橋は、どんな敵にも警戒を怠らない。勝負の流れが、少しの気のゆるみで変わることを知っている。アジア選手権では試合の分岐点を見逃すことなく、荒ぶる姿を見せるはずだ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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