「5年同じTシャツ着ている」「生きるだけで精一杯」生活保護受給者に物価高騰が直撃 日弁連が18%の基準引き上げ要求
物価高騰が続く中、生活保護基準はほぼ据え置かれ、受給者の生活を圧迫している。こうした状況を受け、日本弁護士連合会(日弁連)は5月20日、衆議院第二議員会館(東京都千代田区)で「生活保護基準の在り方に関する院内意見交換会」を開催した。

専門家の分析に基づき物価上昇に見合った約17~18%の基準引き上げを求めるとともに、現行の「生活保護法」を見直し、利用者の権利性を明確にした「生活保障法」の制定などを提言した。(ライター・榎園哲哉)

受給者「生きていくことで精一杯です」

会では、生活保護の受給者も発言し、物価高騰により困窮している状況を訴えた。
オンラインで会に参加した仙台市在住の男性Aさんは、職場でのパワハラがきっかけで働けなくなり、約5年前から生活保護を受給している。
この5年間で「物価が肌感覚で3割は上がっている」といい「食べること、生きていくことで精一杯です」と窮状を語った。着ているTシャツは約5年、靴は約3年買い替えておらず、食費や光熱費をねん出するため、娯楽や交際費にお金を回す余裕はないという。
重度の障害があり車椅子で生活する都内在住の男性Bさんは、本来移動や介護、補装具などの支出に当てるべき「障害者加算」が、事実上家賃の補てんになっていると訴えた。
Bさんは約7年前、当時住んでいたアパートから引っ越しを行った。しかしその当時ですら、車椅子利用者の住宅扶助特別基準額の6万9800円以下の家賃では、介助者が休む部屋が確保できる物件は「存在しなかった」という。
結局超過分は東京都の心身障害者福祉手当で補っているというが、障害者加算などが「本来の役割を果たしていない」と指摘した。

加算は「明らかに不十分」

「5年同じTシャツ着ている」「生きるだけで精一杯」生活保護受...の画像はこちら >>

生活保護費に水準について説明する高木弁護士(5月20日 東京都千代田区/榎園哲哉)

福岡県弁護士会の高木健康弁護士は、「あるべき保護費の水準について」と題し、消費者物価の上昇が生活保護利用世帯に与える影響について分析結果を報告した。
2020年を基準として、総務省の家計調査や社会保障生計調査のデータを用い、所得階層別の物価上昇の影響を算出した。
その結果、食料や光熱・水道費など、生活に不可欠な費目の支出割合(ウエイト)が高い低所得者世帯ほど、物価高騰の影響を強く受けていることが示された。
中でも、生活扶助で賄われる7項目(食料、光熱・水道、家具・家事用品、被服および履物、交通・通信、教育娯楽、諸雑費)に絞って計算すると、単身世帯への影響が顕著だったという。
厚労省は、生活保護基準について、一般低所得世帯との均衡を保つため、5年ごとに検討・見直しを行っている。
前回2023年の基準改定では、物価高騰への対応として臨時的な特例加算(1人月額1000円、2025年度からはさらに1人500円)を上乗せし支給している。
しかし高木弁護士は「明らかに不十分。物価上昇に全然追い付いていない」と断じる。「これまでと同じ生活を維持するためには、物価上昇に合わせ生活保護基準も約17~18%の引き上げが必要だ」と求めた。

木村英子参院議員「引き下げは貧困の格差を拡大する」

会には与野党の国会議員も参加し、各々の立場から意見を述べた。
このうち車椅子で生活するれいわ新選組の木村英子参院議員は、かつて自らも生活保護を利用していた経験を語った。
「一生養護施設で生きるという道しか考えられなかったが、どうしても社会に出て生活がしたく、19歳のときに親の反対を押し切って地域での生活を始めた。私にとって生活保護は命をつなぐまさに最後の砦だった」と振り返った。
そのうえで、昨年6月、最高裁が2013~15年における厚労省による生活保護基準引き下げを違法とする判決を行ったことについても触れ、「生活保護基準はさまざまな制度と連動しており、不当な引き下げは、日本の貧困、格差を拡大する深刻な問題だ」と訴えた。
また国民民主党の日野紗里亜衆院議員は、介護・福祉の現場で働いた経験から「本当に必要としている人に支援を届けることが大事だ」として、不正受給などを防ぐ仕組みづくりに意欲を示した。

権利性が明確な「生活保障法」の制定を

日本における生活保護の捕捉率(利用できる人のうち、実際に利用している人の割合)は2割ほどで、先進諸国と比べても非常に低いとされる。
こうした状況を改善しようと日弁連は、生活保護を恩恵ではなく権利として明確にするため、法律の名称を「生活保障法」と改めることなどを柱とする、生活保護法改正要綱案を公表してきた。会では、この要綱案の骨子が改めて説明された。

①権利性の明確化
②水際作戦を不可能にする制度的保障
③生活保護基準の決定に対する民主的コントロール
④一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援
⑤ケースワーカーの増員と専門性の確保
このうち、③で挙げる民主的コントロールでは、生活保護利用者の意見を基準改定に反映させることなどを求めている。
会の最後に、日弁連の清水智副会長は、「真に健康で文化的な最低限度の生活を営むことができる制度の実現に向けて、引き続き、生活保護制度のあり方について研究、意見を発信し、実現にむけて取り組んでまいりたい」と述べた。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


編集部おすすめ