厚生労働省が発表した「生活保護の被保護者調査(令和6年度)」の結果を受けNHKは先月6日、「20代単身受給者が25年前と比べ7倍に増加」と報じた。
20代の若者たちに何が起きているのか。
生活困窮者の支援にあたる団体、さらに20代で生活保護を受給していた当事者にも取材。背景にある親、実家との分断という深刻な状況や、“生活保護制度の課題”も見えてきた。(ライター・榎園哲哉)

NHKの集計・分析から浮かび上がったこと

生活困窮者にとって“いのちのとりで”と言える生活保護制度。厚労省は今年3月、令和6年度(2024年度)の被保護者(受給者)調査の結果を公表した。受給の人員数は約200万人(前年度比0.6%減)で人口100人あたりの保護率は1.62%。受給世帯数は約165万世帯(同0.01%増)で、記録が残る1956年以降最多となっている(1か月平均、保護停止中含む)。
調査の詳細は「政府統計の総合窓口(e-Stat)」に掲載されており、世帯・年齢等別に数値化されている。こうした資料を集計・分析したNHKによると、令和6年度の20代の受給者数は約6万人。そのうちの46%にあたる約2万8000世帯が単身世帯だったという。
一方、平成11年度(1999年度)の20代の受給者数は約2万7000人で、単身世帯はそのうちの15%である約4000世帯だった。20代単身者の受給者数が、25年間でおよそ7倍と大幅に増加した。

家族に頼れない若者たちが増加?

実際に20代単身者に生活困窮者は増えているのだろうか。
大阪に拠点を置き、LINE相談などを通じて全国の若者支援にあたる認定NPO法人「D×P(ディーピー)」理事長の今井紀明氏は「家庭に頼れない若者たちが年々増えていると実感している。親にお金を送っている、自分の奨学金を親に使い込まれている、という相談も寄せられる」と語る。

D×Pでは困窮する若者たちへの食糧支援(米や缶詰等の入った段ボールパックの送付)も行っているが、物価高騰のあおりも受け、支援するパックの年間総数はおよそ12万食にも上っているという。
東京を拠点にNPO法人「トイミッケ」が実施する、住まいを失った人が当日に緊急宿泊できる支援サービス「せかいビバーク」では、2024年度延べ約1300人の利用があったが、利用者のうち4分の1は20代の若者だったという。
トイミッケ代表理事の佐々木大志郎氏は公園や路上などの屋外で生活する従来のホームレスとは異なり、単発・日払いのスキマバイトで最低限の生活費を確保しながらネットカフェなどで寝泊まりをする「外から見えない(可視化できない)ホームレス」の若者たちが一定数存在していると話す。
そんな若者たちの困窮の背景に「少なからず影響している」と両氏が口をそろえて指摘するのが、「家庭内の不和」だ。
「誰にも経済的に頼れない、自分だけで生活しなければならない、という若者たちが増えていることが(20代単身者の)生活保護受給の増加にも関わっているのではないか」(今井氏)
「困窮している若者は親とうまくいっていない、家族と絶縁状態にあることも多い。若者にとって一番のセーフティーネットは実家だが、その実家を頼ることができない若者たちがいる」(佐々木氏)

受給のきっかけは「母親の暴力から逃げるため」

Aさんも親、実家との関係断絶から生活保護を受給した20代の単身者だ。
Aさんは、母親からの家庭内暴力が生活保護を受けるきっかけになったと話す。
「母親から虐待を受け、実家を飛び出すかたちで一人暮らしを始めました。フルタイムのアルバイトをしていましたが、環境の変化などから持病の精神病が悪化してしまい、勤怠不良でクビになりました。
その日のご飯もままならず、クレジットカードの督促や家賃の滞納により先の見えない不安で押しつぶされそうでした」
収入が絶たれたAさんをさらに苦しめたのは、母親への恐怖だ。
「家賃滞納のせいで親に住む場所がバレているのではないかと思うと、怖くて何も出来ない状況でした」
AさんはD×Pに相談したことで道が開けたという。生活保護を受給することになったAさんには、親から離れた場所への転居費用も認められた。
「きちんと3食食べられることがとてもありがたかったです。
また、ガスも止まっており、冬にお風呂に入れず困っていたため、銭湯に行けたのもうれしかった」と振り返るAさん。親と物理的な距離をとれたこともあって、精神的にも落ち着いてきたという。
「元気になるにつれ生活保護だけではお金が足りないと思うようになり、就職活動を頑張ることができました」
アルバイトから始まった再出発だったが、同じ職場で正社員として登用されるまでになった。
「受給前に膨らんだ借金を返済できず自己破産することになってしまいましたが、安定して仕事にも通えるようになり、生活保護から抜けることができました。今はボーナスもいただけるようになり、少しずつ貯金もできるようになりました」

生活保護制度と “ミスマッチ”も…

Aさんのように生活保護を「再起の足がかり」として自立に繋げられるケースがある一方で、現行の制度が若者の実態に合っていないという指摘もある。
トイミッケの佐々木氏は、現行制度の課題をこう語る。
「生活保護受給者の8割は高齢者や病身者で、制度自体も『長期的な扶助』を前提としている。対して20代単身者の多くは『働きたい、自立したい』という意欲を持っているが、生活保護制度がその足かせになるケースがある」
たとえば首都圏の単身者の場合、生活保護の支給額はおよそ13万円。就労して収入を得ればその分が減額されるため、低賃金の不安定な雇用形態では、働いても手元に残る額は大きく変わらない。「受給しながら働くメリット」を感じにくく、自立のステップアップを描きにくい構造になっている。
佐々木氏は「就労を目指す若者にとって、収入を得た分だけ受給額が減額される仕組みになっている現在の生活保護制度は、ミスマッチを起こしている」と分析する。
さらに深刻なのは、制度にたどり着く手前で、セーフティーネットからこぼれ落ちた若者たちの存在だ。

D×Pの今井氏は、行政窓口の心理的障壁の高さについて、「社会との関係性が薄い若者にとって、最初から行政に頼るのはハードルが高い。まずはオンラインなどで、否定されずに安心して相談できる環境が必要だ」と指摘する。
親や実家との縁が切れ、孤立を深める20代。Aさんのように「生活を立て直せた」という成功例を増やすためには、制度の使い勝手を改善すると同時に、彼らが社会との繋がりを再構築するための、より細やかな支援が求められている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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