世界が見た日本代表(前編)

 史上最大規模となった2026年ワールドカップが閉幕して約3週間。ようやく熱狂が落ち着き、感情ではなく冷静な分析ができる時期になった。

大会を振り返れば、優勝国や期待以上の活躍を見せて決勝トーナメントの上位に進出した国ばかりが語られる。しかし今回のワールドカップには、順位では測れないものを勝ち取った代表があった。日本もそのひとつである。

 決勝トーナメントでは勝利を挙げることはできなかったが、現地で取材を続けるなかで、世界中の監督や選手、解説者たちが日本について語る言葉には、ひとつの共通点があった。

「日本はもう驚きではない」

 数年前までの日本は「組織力はあるが、世界の頂点には届かないアジアの強豪」と評されることが多かった。しかし今、その評価は大きく変わりつつある。スピードと組織力を兼ね備えた完成度の高いサッカー。ヨーロッパの第一線で戦う選手たち。そして世界の強豪国すら苦しめる戦術的な成熟。世界はもはや日本を「異色の存在」としてではなく、「世界の強豪の一角」として語り始めている。

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 それを最もよく表しているのが、サッカー界で最高峰の地位にある人々の証言である。

 現在、FIFAでグローバル・フットボール・デベロップメント部門責任者を務めるアーセン・ベンゲルは、FIFAのテクニカルスタディグループにおいて、日本の現在地をこう表現した。

「日本は、もはや世界サッカーにおけるサプライズではない。すでに確立された存在だ。長期的な計画と、多くの選手をヨーロッパへ送り出してきた育成システムによって、戦術レベルの非常に高い代表チームが出来上がった。私が見た日本代表のプレーの9割は本当にすばらしかった」

 かつて名古屋グランパスを指揮した経験を持つベンゲルが評価したのは、ひとつの大会の結果だけではない。長年積み上げてきた育成と強化の成果である。

 その見方は、アルゼンチン代表を決勝に導いたリオネル・スカローニ監督も同じだった。彼は大会期間中、アルゼンチンの記者セルヒオ・レビンスキーにこう語っている。

【ブッフォン「今回はさらに成長」】

「世界のサッカーは全体的にレベルが上がっているが、そのなかでも日本の成長は目覚ましい。彼らは試合開始から終了まで、自分たちが何をすべきかを完全に理解している」

 決勝の舞台に立つ指揮官も、日本を「完成されたチーム」と評する。それはもはや、偶然の躍進ではないという意味でもある。

 かつて日本と対戦したことのある元イタリア代表の守護神ジャンルイジ・ブッフォンも、その進化に驚きを隠さなかった。イタリアの名物記者イヴァン・ザッザローニによると、彼は日本についてこう語ったという。

「当時も日本には驚かされたが、今回はさらに世界レベルにまで成長を遂げていた。

技術だけではない。ものすごい運動量があり、最後まで激しいマークを続け、相手に自由を与えない。次のワールドカップでは、間違いなくさらに大きな存在になるだろう」

 世界は日本を「アジア最強」として見ているのではない。世界基準で見ても、すでに一流国の代表チームとして認識し始めているのである。

 では、世界は日本のどこを恐れているのだろうか。多くの監督や選手が挙げたのは、個々の選手の能力ではなかった。

「日本と対戦すると、とにかく消耗する」というのは、対戦国の選手たちの共通した印象だった。最後まで落ちない運動量。寸分の狂いもない組織力。そして攻守が切り替わる瞬間の驚異的なスピード。そのすべてが90分間、あまり衰えない。だから日本は、どの強豪国にとっても最も嫌な相手になっている。

 2022年カタール大会で日本と対戦し、PK戦の末に下したクロアチア代表の主将ルカ・モドリッチは、クロアチアのスポーツ紙『Sportske novosti』にこう語った。

「今の日本と戦うには、きっと信じられないほどの体力と集中力が必要になるだろうね。彼らは最後まで走ることをやめない。集中力も切れない。試合のテンポを一瞬たりとも相手に譲らない。今大会で私が最も印象に残ったチームのひとつだ」

 世界最高峰のゲームメーカーが口にしたのは、日本の技術ではなく「90分間の強度」だった。

ネイマール「前半は日本のほうが落ち着いていた」】

 同じく、クロアチア代表のズラトコ・ダリッチ監督も、日本の厄介さを別の角度から説明している。

「規律のある組織力と、相手の小さなミスを確実に突く能力によって、どんな代表にとっても厄介な存在になった」

 確かに日本は、圧倒的な個の力で試合を支配するチームではない。しかし、相手の一瞬の判断ミスや立ち位置のずれを見逃さず、それを得点機へと変えてしまう。だから強豪国ほど、日本との試合では集中力を切らすことができない。

 その感覚は、実際に今大会で日本と戦った監督たちほど強いかもしれない。オランダ代表のロナルド・クーマン監督は、日本との激闘を振り返りながら、試合後の記者会見でこう語っている。

「日本との試合は過酷だ。10万回でも言おう。日本を過小評価するのはやめたほうがいい」

 オランダ本国では、日本戦の引き分けという結果に批判も巻き起こった。しかし、クーマンはその矛先を選手やチームにではなく、日本を正しく評価していない周囲へ向けた。「相手が日本だった」という事実だけで、その試合の難しさは十分に説明できるというのである。

 ブラジル代表のネイマールも、同じような印象を抱いていた。日本戦を前に、グループステージの日本の3試合を見返し、徹底的に分析したという彼は、ブラジル『SporTV』の番組のなかでこう振り返っている。

「日本と対戦するのは、いつだって難しい。組織的で、技術も高い。でも、それだけじゃない。彼らには特別なものがある。全員が、いつどこに仲間がいるのかを理解してプレーしているんだ。

 今回のワールドカップでも、日本の試合は全部見たし、ブラジル戦の前にも徹底的に研究した。彼らは本当に何ひとつ簡単にはやらせてくれない。スペースを見つけるために、こちらは必死にならなければならない。そのせいで、試合中に少し焦りや苛立ちまで生まれてしまう。実際、今回の試合でもそうだった。前半は日本のほうが落ち着いていた。一方の僕たちは、攻める道筋をなかなか見つけることができなかった」

 ブラジル代表のマテウス・クーニャも試合後、日本への敬意を隠さなかった。

「日本が難しい相手になることはわかっていた。彼らは明確なゲームプランを持ってピッチに立っていたし、僕たちを本当に苦しめた。だからこそ、日本には大きな敬意を払わなければならない」

 一方、2024年までチュニジア代表を率いていたジャレル・カドリ前監督は、今回の日本との試合後、日本最大の武器は「攻守の切り替え」にあると分析していた。

「今の日本は、世界でも屈指のトランジションが速い代表チームだ。今回のチュニジア代表は中央のパスコースを消すことを最優先に考えていた。

しかしボールを持たせてしまうと、試合のテンポは一気に日本のものになる。そうなると、彼らのスピードについていくことは非常に難しかった」

 モドリッチは運動量を語り、ダリッチは組織力を語る。ネイマールは連動性を、カドリはトランジションを挙げる。表現こそ違うが、彼らが語っていることには共通点がある。今の日本は、もう「よく走るだけのチーム」ではない。世界でも屈指の完成度を誇る、極めて戦術的なチームへと進化したのである。
(つづく)

リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon

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