2024年、ウシャコダが『グルーヴィー・ホルモン』を発表した。スタジオ録音盤としては実に42年ぶり。
1978年にサザン・オールスターズ、シャネルズらを輩出したヤマハのアマチュア・コンテストEAST WESTでグランプリを受賞し、世に躍り出たのがウシャコダ。
メンバーは、藤井康一(vo)、中村智(g)、菅野賢二(g)、若山光一郎(key)、恵福浩司(b)、井野信司(ds)。中村と井野は大学で知り合ったが、基本は千葉県松戸市の幼なじみだ。84年には解散したものの1997年に再結成し、現在まで不定期ながら活動を続ける息の長いバンドだ。脱退した菅野以外はメンバーも変わらない。
1980年にはマディ・ウォーターズ来日時に東京公演のオープニングアクトを務めながら、一方で “ハード・パンク・ブルース・バンド”と呼ばれたこともあるウシャコダとは何なのか? 意外と知らない人も多いのではないだろうか?
そこでウクレレ抱いた渡り鳥としても活躍中のヴォーカリスト藤井康一に改めてウシャコダを語ってもらった。
――42年ぶりのスタジオ録音盤制作のきっかけは?
藤井康一(以下藤井)「ブルース・アルバムを作ろうとのコンセプトで、2019年には録音を始め、ベーシック・トラックは完成していたんです。そこにパンデミックだ、なんだかんだと中断していた録音を今回仕上げました」
――結成当初からステージで印象的だった<Africa>からの<Something You Got~Mercy Mercy>への流れが、ギターもみずみずしく最高です。<Africa>はアフリカン・パーカッションの第一人者、奈良大介さんがより臨場感を高めていますね。
「ライヴのオープニングを感じる流れを作りたかったんだよね。実は<Mercy Mercy>はドン・コヴェイではなくウィルスン・ピケットをお手本にしています。
――“アッフリカ~”と歌いながら踊るステージは衝撃でした。あの発想はどこから?
「それを説明するには、まずバンド名の由来から話す必要があります。カリプソの王様と呼ばれたマイティ・スパロウの“Congo Man”の中に、はっきり“ウシャコダ”と聞こえる箇所(※)があって、その歌のコーラスが“アッフリカー”。それが耳に残ってたんだろうね」
※注:“I wish I could’a go~”の下りと思われます
ワーナーパイオニアからのデビュー作『土一揆』(79年)
――<Woke Up This Morning>も初期からのナンバーです。確かEAST WESTのエントリー曲でしたよね。
「それと<Mercy Mercy>の2曲だけを毎日開店から閉店までスタジオで練習して、もう何があっても完璧というところまで仕上げました。合間には近くの公園で振り付けの練習。ギターを投げ合って交差させるアクションも一生懸命やってましたね(笑)」
――玄人受けする演奏力とミスマッチな麦わら帽子を被ったお百姓さんコスチュームやアクションは新鮮でした。
「当時流行していたアース・ウィンド&ファイアを観て、真面目に演奏するだけじゃなくて見た目も大事だという認識はありました。とは言え、じゃあ何を着るんだと?と。その結果、千葉って東京から見ると田舎だよねという話になり、アンチ東京、アンチ・フュージョンみたいな気持ちもあって、あのスタイルになりました。ただ衣装と言っても菅野賢二は白いシーツ被って手足を出してるだけですが(笑)」
――で、あれよあれよと勝ち抜き78年にグランプリ。
「いや、想像もしていませんでした。そう言えばあれはブロック大会の時だったかな。アドバイザーを呼んでいいよと言われ、永井ホトケ隆さんと妹尾隆一郎さんにお願いしました。高校生のときから観ていた人だったから、それはうれしかったですよ。2人ともいろいろ教えてくれて、妹尾さんは機関車のようなグルーヴを力説してました。決勝大会では確か制限時間をオーバーしたと思うんだけど、四の五の言えない感じだったんじゃないかなあ。ベスト・ヴォーカリスト賞、ベスト・ベーシスト賞、ベスト・キーボード賞ももらいました」
――ウシャコダは藤井さんがリーダーのバンドだったんでしょうか。
「いやギターの菅野賢二が抜けるまでは2トップの形ですね。1980年発表のセカンド・アルバム『パワフルサラダ』は彼の曲がほとんどだし、そもそもコンテストに申し込んだのも菅野だったんですよ」
左:藤井康一 右上:井野信司 (2021年GEMINI Theater)左から恵福浩司・中村智・若山光一郎 photo by Mie Senoh◆影響されたリトル・ミルトン――アルバムに戻りますが <Let The Good Times Roll>が同名異曲で2パターン収録されているのも面白いですね。しかもシャーリー&リーのヴァージョンはイントロからディープ・パープルの“Highway Star”と融合しているという。
「ルイ・ジョーダンのヴァージョンは早くからやっていたけどシャーリー&リーの方はウシャコダ再結成後からのレパートリーです。“Come On Baby……”の所を8ビートで演奏してみたら、ディープ・パープルもテンポが一緒だった。
――確かにそこがウシャコダらしさであると同時に、コアなブルース・ファンに説明しづらいところですね。一方で驚いたのがリトル・ミルトンの“I Play Dirty”。
「ファンキーだけどリズムは細かく跳ねてない。それがウシャコダ流のファンクです。収録にあたり歌詞は『黒い蛇はどこへ 名曲の歌詞から入るブルースの世界』の著書もある中河伸俊さんに改めて確認しました」
――結構えげつない歌詞ですよね。私もリトル・ミルトン・ファンですが、そんなにミルトンが濃厚だったとは気づきませんでした。
「実は<Woke Up This Morning>も手本にしたのはB.B.キングじゃなくてミルトン。永いつき合いのうじきつよし(子供バンド)にギターを自由に弾いてもらった“Just A Little Bit”も土台はミルトン。ライヴで歌っていた“Woman Across The River”もミルトンのヴァージョンが一番モダンだと思ってます」
◆ジャンルはない!あるのはジャングルだ!?―― 藤井さんの“Respect”はもちろんオーティス・レディングですね。
「この手のサウンドにホーン・セクションは欠かせないけど、予算などの都合もあり、すべてのパートを私がプレイしています。オーティスは高校時代にさんざんコピーしました。
――アルバム唯一のオリジナル曲が<ホルモン>。半端なくエネルギッシュなロッキンR&Bです。
「もともとは関ヒトシさんと作った『リトル・ジャイヴ・ボーイズ』に入っていた曲。レコーディング中はハンドマイクで頑張りましたよ。療養から復帰した石川二三夫もハーモニカを吹きまくってくれました」
――9割がブルースやソウルのカヴァーとは言え、それを感じさせないオリジナリティがありますね。
「デビュー当時のキャッチコピーが“俺たちの音楽にジャンルはない。あるのは、ジャングルだ!”っていうわけのわからないものだったんだけど(笑)、実は当たらずしも遠からず。確かにおふざけもあるけど、それも含めて今回はウシャコダとしてマジに音楽的に向き合ったアルバムです」
――これを機にホーン・セクション入りでライヴをやってほしいです。
「そうだね。他にも録音したトラックがあるので完成させてもう一枚アルバムを作りたいです。アナログも出せたらいいんだけどね」
ウシャコダ『グルーヴィ-・ホルモン』
(House Of Jive HOJ-WS-2401) ¥3,000
1. Africa
2. Something You Got~Mercy, mercy
3. Let The Good Times Roll
4. I Play Dirty
5. Respect
6. Let The Good Times Roll
7.ホルモン
8. Just A Little Bit
9. Woke Up This Morning
・購入はこちら → yakuhachi.com/
・ウシャコダのディスコグラフィ等は→ wshakoda.net/
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