ウクライナのフェミニスト運動“FEMEN”の共同創設者で、裸の胸にスローガンを描き花冠を掲げて権力に立ち向かったオクサナ・シャチコの31年の生涯を描く映画『OXANA/裸の革命家・オクサナ』が公開される。なぜ今、オクサナを描くのか。

シャルレーヌ・ファヴィエ監督が語る現代への警鐘とは――。

【写真】新鋭シャルレーヌ・ファヴィエ監督

 シャルレーヌ監督は、『スラローム 少女の凍てつく心』で注目されたフランスの新鋭。女性の内面と身体、そして“生存”を描いてきた彼女が、より大きな政治的背景を背負う人物に挑んだ。

 ファヴィエ監督がオクサナにひかれたのは、その“揺らぎ”と“強さ”だった。「私の映画にはいつも逆境にさらされながらも前に進む女性が登場します。オクサナもまた、生存者でした」。監督自身の思春期の揺れと、オクサナが身近な人々の自死を経験した過酷な時期が重なり、強い共鳴を覚えたという。「彼女の反骨心と自由さに心を奪われました。使命と闘いに呑み込まれていく若い女性の感情を、画家のように描きたかった」。本作はオクサナを英雄ではなく、迷い傷つきながらも立ち上がる“生身の女性”として描く。

 脚本が書かれたのは2021年。監督はウクライナでのロケハンを計画していたが、侵攻により断念せざるを得なかった。
「私を動かすのは時流ではなく、内側から湧き上がる怒りです」。映画では、オクサナたちがプーチンやルカシェンコに抗議する姿が描かれるが、亡命先のフランスで彼女の訴えは軽視された。「それは深い傷でした。この映画は私なりの“正義の回復”でもあります」。女性の権利が揺らぐ今、彼女の闘いは過去ではなく“いま”の問題として響く。

 本作の映像は、イコン画の光と現代アートの鋭さが同居する独自の美しさを持つ。「映画全体を一枚の絵画にしたかった」と監督は語る。美術・衣装・光の質感まで徹底的に作り込み、アルビーナ・コルジの表情を際立たせるレンズや逆光の設計が、オクサナの精神性を映し出す。幼い頃からイコン画を描いていたオクサナにとって、創作は祈りであり世界とつながる行為だった。その宗教的象徴性が映画の美学に深く刻まれている。

 主演のアルビーナ・コルジは、戦争下のウクライナで行われたZoomオーディションで選ばれた。「停電やミサイル警報で何度も中断されました」。
そんな状況で見せた即興演技に、監督は強くひかれたという。「自然さと強さ。すぐに“この人だ”と確信しました」。俳優たちは24時間のバス移動を経てパリへ到着し、監督は彼女たちを“私のFemenだった”と語る。言語の壁を越えるため、監督は“身体の感情”を軸に演出し、俳優たちは到着時点で既に役を生きていた。

 オクサナが亡くなる前に残した「YOU ARE FAKE」という言葉をどう描くかは、監督にとって大きな課題だった。「これは独裁者に無反応な世界への叫びであり、個人の名声を優先する人々への批判でもあります」。監督はデモで全身にペイントを施したオクサナの写真に着想を得て、その孤独と怒りを凝縮したシーンとして再創造した。

 本作は、ひとりの女性の“自由への渇望”に寄り添うことで、運動の複雑さと時代の痛みを浮かび上がらせる。権威主義が力を増し、女性の権利が脅かされる現在、オクサナが掲げたスローガンは当時以上の鋭さを持って響く。自由とは何か。闘うとはどういうことか。
そして、どこまで自分を賭けられるのか。オクサナの短く激しい人生は、その問いを静かに、しかし確かに観客へと突きつける。

 映画『OXANA/裸の革命家・オクサナ』は、5月22日より全国公開。

編集部おすすめ