――(前編はこちら)さて、こうしてニコ動がきっかけで知り合った春原ロビンソンさんとまことじさんが、奇しくも同じ出版社から、同じ年にデビューされることになったわけです。よかったら、お互いのデビュー・コミックを読んだ感想を言っていただけませんか?
春原 あー、読みましたよ『のうぜい!』ね。
感想としては文字が多いですよね。あと、笑わせようとしてきているんで、悔しいからギャグの部分で笑わないように気をつけて読みました。
――笑ってあげましょうよ(笑)。そもそもまことじさんには元から経営学に詳しいという評判があったわけですよね。きっかけは「へんたい東方」の中にコンビニエンスストアのフランチャイズに関するやたら詳しい説明があったりしたことですが。
やたらコンビニに詳しい「へんたい東方」の回
まこ あれは税金と関係なくて、一般的な経済の知識があればわかる程度のことでしたけど。税務署員だと知られたくなかったんでそうしたんですが、「なんの仕事をしているの」ってだいぶ聞かれました。
――「東方社会人」という、東方のキャラクターがなぜか会社員として働いている設定の作品もありました。『のうぜい!』では、どういう点に配慮されましたか?
まこ わかりやすくすることですね。税金の知識がまったくない状態で本を手にとって、読み終えたら確定申告できるようになっているのがいいなと。元税務署員なので、自分が普段使っている言葉でも一般の人には通じないということがよくあるんですよ。そういうところも気をつけました。

春原 (絵を見て唐突に)けっこう細かなはみ出しがあるよね。あと、このコマは集中線の真ん中がずれてる。
――さすが元制作進行(笑)。そういうところを見ますか。
春原 ただ、フルカラーだからわかりやすい本ではありますよね。
――今後、書いてみたいジャンルなどはおありなんですか?
まこ やはり税金の話か、あとは事業者として開業するためにしなければいけない準備とか、資格をとる話とかでしょうか。
――当面はやはりそういう実用マンガ方面なんですね。……さて、今ご指摘をいただいた春原さんの『anime95.2』の話題に移りたいと思います。まことじさんも何か感想はありますか?
率直に話していただいて大丈夫ですよ。
春原 いやいや。へこむから。
まこ アレだけ言っといて、自分はへこむとか(笑)。

――(笑)。『95.2』はアニメ制作の現場のことが生々しく書かれていて、私はたいへん関心を持って読んだのですが、ネタはどうやって選んだんですか?
春原 書いても怒られないことを(笑)。あとはあまり読者に引かれないもの、ということですね。読んだ人に「アニメ業界には行きたくないな」とか思われるのはやはりよくない。あの業界は、おもしろいことはおもしろいんですよ。
――この中に、業界の人は生活スケジュールがまちまちなので進行管理がたいへんだ、という話が出てきますね。中には仕事を放って逃げちゃう人だっているわけでしょう?
春原 僕は逃げる前に仕事を取り上げて、他に回してしまうタイプの進行でした。もう無理です、信用できません、と言って。
――そういう仕事だと、心労もありそうですね。
春原 みんなわがままですから。アニメばかり書いているやつが大人になれるわけがない。
――だはは! それ書いちゃいますよ。

春原 いや、元ネタは「漫画ばかり書いているやつが大人になれるわけがない」という島本和彦先生の言葉です(笑)。
――島本さんが悪いんだ(笑)。続篇の予定はあるんですか?
春原 あとはヤバイネタしかないので、もうエッセイ形式はやめてアニメ業界をテーマにしたフィクションマンガを描こうと思っているのですが、それがおもしろいかどうかはわからないので、コミケとかで出して受けたらハーヴェストで本にしてもらえると嬉しいです。
――こんなことを言っていますが、ハーヴェスト出版は大丈夫なんですか?
K 大丈夫です。作家さんと版元は共存共栄ですから。
――自由だなあ(笑)。この本は今、どのくらい売れているんですか?
K 現在は2刷です。まことじさんの本が出て、相乗効果というわけじゃないですけど、また動き始めましたね。
まこ (春原に)私の本のおかげで売れているんですよ。
春原 俺の本のほうがおもしろいからな。
まこ それは作者が自分で決めることじゃないけどね(笑)。
――お2人を見ていると、仲がいいのか確信が持てなくなります(笑)。
これから確定申告の季節ですから、この本も需要が伸びるでしょうね。そういえば、『のうぜい!』というタイトルも思い切りましたよね。売れ線のひらがな4文字題名。これを考えたのは……。
K 私です。タイトルを言ったら、まことじさんはちょっと懐疑的でしたね。
まこ 硬いよりはいいと思ったんですけど、ひらがな4文字というのはいかにもだなと。
春原 「まことじ」だって4文字でしょ。
まこ 名前だからいいじゃない。そこは許してくださいよ(笑)。
――もしこれをシリーズ化するとしたら、次もひらがな4文字の題名確定ですね。
K そうですね。
多分『よつばと!』が終わるまではそれでいけるんじゃないかと。
まこ 大雑把だなあ(笑)。
――そろそろ時間がなくなってきたのですが、最後にもう1つだけ。お2人が知り合ったきっかけであるニコ動に、それぞれどういう印象を持ちですか?
春原 ニコニコは作品にコメントがもらいやすいので、作る側からするといいんじゃないかと思います。
まこ ニコニコはみんなの遊び場という感じですね。モチベーションが上がりやすい。誰でも投稿はできるし、コメントもしやすい。自分が応援しているもののランキングが上がれば嬉しいし。そういうところが遊び場という感じがします。
――まことじさんの東方二次創作作品は、いろいろ三次創作のネタにもされましたね。
まこ 関係ない人がそうやって遊んでくれる、のもいいところだと思うんです。

※説明しよう。
東方二次創作作家としてのまことじ氏には、作品発表の速さから「幻想郷最速のmakotoji」というタグがつくほどであった。ニコ動上では定期的に東方キャラの人気投票が行われるが、なんと「へんたい東方」では、ファンによって「へんたい東方」独自の人気投票が企画されたのである。こうしたことは他にあまり例がない。

――この先、ニコ動への投稿はまだ続けられるんですか?
まこ 今のところは白紙です。もちろん、余裕ができ次第投稿はしたいと思いますが。実は12月28日から「ニコニコで漫画描いてみた」で連載を始めることになっているんですよ。
――それは楽しみです。そういえばさっき言った『のうぜい!』のPR動画ですが、BGMがオリジナルのものだったので、「我々はコッペパンを要求する」のタグがついていましたよ。

※再び説明しよう。「へんたい東方」では『らき☆すた』のBGM(通称:コッペパン)が通常使用されていたのだが、シリアス展開の場面では別の曲に差し替えられることもあった。それをファンは惜しみ「コッペパンを要求する」と主張したのである。ちなみにコッペパンを採用した東方二次創作動画は非常に多い。これもまことじ効果の一つだ。

まこ 私に言われてもなあ。著作権上の問題があるからフリーの曲を使ったんですが……。
K でも、おもしろいかもしれませんね。コッペパンを使っても怒られるのはまことじさんではなくてうちですから。角川が運営に通報して「権利者の申し立てにより削除されました」って画面に流れたら、笑いますよね。
――それは会社として大丈夫なんですか。
K いや、たいへんなことになると思います(キッパリ)。
――本当に大雑把ですね(笑)。本日はありがとうございます。お2人の活躍とハーヴェスト出版の無事を、心からお祈りしております。これからも、がんばってください!(杉江松恋)

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