もうね、何度このフレーズを目にしたことか。昨年秋の予告編トレーラー公開と共に、「ニコニコ動画」などで大ブレイク。
ええっと、PS3とXbox360向けに発売された3Dアクションゲーム「El Shaddai - エルシャダイ -」の話です。それぞれ、体験版も配信されています。
主人公は天界の書記官を務める人間、イーノック。ヒトへの憧れから堕天した天使たちに激怒した天界が、地上界を洪水で一掃しようとしますが、嘆願により計画が延期に。その条件として堕天使たちの捕縛を命じられ、地上界に降り立つ……という設定です。
イーノックのサポート役となるのが、ジーンズを履き、携帯電話で神と交信する、赤目の大天使ルシフェル。時間を自在に操る能力を持ち、イーノックが倒れると、パチンと指を鳴らして、時間を元に巻き戻してくれます。
操作は非常にシンプルです。アナログスティックでの移動に加えて、攻撃・ジャンプ・ガードの3ボタンを駆使して、敵キャラクターと戦っていきましょう。ボタンの入力タイミングや組み合わせで、さまざまな特殊攻撃もくりだせます。
ユニークなところでは、武器を連続して使っていくとケガレが貯まっていき、攻撃力が低下していきます。
武器には弓状のアーチ、弾状のガーレ、盾状のベイルがあり、それぞれ三すくみの関係にある点がキモ。敵も同様の武器で襲ってくるので、うまく武器を奪って攻撃していくのがコツです。もっとも、武器がなければ戦闘力が低下するので、敵の出現と同時にフルボッコして気絶させ、武器を奪っちゃうのもオススメです。
アクションゲームということで、難しそうなイメージもありますが、初代「スーパーマリオブラザーズ」すら諦めた僕でも、気がつけばクリアできちゃいました。最初は勝てなかった敵でも、何度も繰り返すうちに、いつしか壁を乗り越えられるんですよ。久々にアクションゲームの醍醐味が味わえました。
ただ、ちょっとジャンプの距離感がつかみにくいのが玉に瑕でしょうか。地面に映る影を見ながらジャンプするのがコツです。二段ジャンプができるのと、転落死しても、ルシフェルの指パッチンでやりなおせるので、あきらめずに何度も挑戦してみてください。
とまあ、つらつらとシステムを紹介してきましたが、これだけだと本作の魅力を半分も語ったことにならないでしょう。いろいろと読み解けると思うんですが、あえて単純化すると「メタゲーム」ではないかと思います。そこに従来のゲームに飽き足らなくなったユーザーが食いついたのではないでしょうか。
話題を集めた予告編をはじめ、本作には「これはゲームですよ、ただの遊びなんですよ」という、作り手側のメタゲーム的なメッセージが散りばめられています。いや、素直に「ネタ」といった方が良いかな。
もっとも、ゲームの土台がしっかりしていなければ、ただのクソゲーになってしまう。そこで根幹はきっちり作り込み、ネタとして買ったユーザーに対して「意外や意外、おもしろい!」と感じてもらう。その上でネタ的な要素も散りばめ、サービス満点で楽しんで欲しい……。もし、そんな狙いがあったとしたら、大いに成功しているように感じます。
中でも一番びっくりしたのは、ゲームの主要な舞台となる「タワー」の入り口で、ルシフェルが「早ければ7時間くらいでクリアできるんじゃないかな?」と、さらっと言ってのけたこと。キャラクターがクリア時間まで教えてくれる! こんなゲームは今までありませんでした。
また、同じくルシフェルの「焦る必要はないさ、時間はいくらでもあるんだ」という台詞も、世界観を逸脱することなく、これがゲームだということを暗示しています。
ゲーム画面で一周目に敵・味方の体力ゲージなどの情報が、一切表示されない点も象徴的です。そのためメイン画面が非常にシンプルで、ステージによってはインタラクティブな絵画を見ているよう。もっとも、これはゲーム的には駆け引きの要素が薄まってしまうので、禁じ手なんですよ。
たとえばボス戦などで、敵のライフゲージがどんどん削れていくと、モチベーションが上がりますよね。途中で死んでしまったら、思わずコンティニューしちゃうというもの。本作では、こういった演出を自ら封印してしまいました。「そんなゲームデザインで、大丈夫か?」と開発チーム内でも葛藤があったんじゃないでしょうか?
そのかわりに、臨死状態の時に瞼が閉じるような演出を入れたり、ナレーションを加えたりして、自然と再挑戦してもらえるように、巧みにプレイヤーを誘導しています。アクションゲームの文法が、これでまた一つ広がったように思います。
このほか、ダメージを受けると敵・味方ともに鎧がはがれていき、最後に雑魚キャラがフンドシ一枚になったり。普段は上半身が裸になるだけのイーノックも、途中で「あられもない姿」に剥かれるステージがあったり。ステージ上、ミュージシャン気取りで歌う中ボスの後ろで、バックダンサーのように雑魚敵と戦ったり。
そういえば「指パッチン」もユニークですね。ミスしても、何度でもやり直せる。これ、すごくゲーム的な表現です。普通は「コンティニュ-」という表記ですませるところですが、本作ではルシフェルに「時間を操れる」という設定を与えて、ミスの直前に場面を戻せるようにしています。その上で単に再開するのではなく、指パッチンで再開する……。ゲーム中、良いアクセントになっています。
こんな風に、本作ではゲームを遊んだユーザーが、ネットに思わず書き込んで、口コミで魅力を広げてもらえるような仕掛けが、満載です。予告編と、それに続くネットの盛り上がりを見たユーザーの多くは「そんな前評判で大丈夫か?」と感じたのではないでしょうか。それを巧みに切り返した点が、興味深いですね。
アクションゲームとしては、かなりシンプルです。ストーリーは「7人の堕天使を捕まえる」というだけ。
というわけで「そんなゲームで大丈夫か?」と聞かれたら、力強く答えましょう。
「大丈夫だ、問題ない」
(小野憲史)